閑話 悠奈ちゃんとお風呂(羽々音紗羅)
「悠奈ちゃん、大丈夫?」
「ああ、うん。なんとか……」
……本当に大丈夫かなあ。
真夜との戦いを終えた私たちは家に帰ってきた。
お母さまが休むように言ってくれたので、まずはお風呂に入ることになったのだけれど、悠奈ちゃんは身体を洗う前からふらふらだった。
話しかければ受け答えはしてくれるけど、今にも眠ってしまいそう。
でも、無理もないと思う。私みたいに魔力があるわけでもないのに、一生懸命、一緒に戦ってくれたんだから。
戦いの間は殆ど姿を見られなかったけど、背中を預けているだけで凄くほっとした。
……それに、あの時。
思い出しながら、そっと指で唇に触れる。
あの時、気絶していた私は悠奈ちゃんのキスで目覚めた。
触れあった唇から暖かなエネルギーが流れ込んできて、私に立ち上がる力を与えてくれた。まだこんなに頑張れたんだ、と思ってしまうくらい、身体の底から力が湧き上がってきた。
私は夢中でそれを振るい、気づけば真夜を圧倒していた。
――私たちの力の差は歴然だったはずなのに。
あれは、奇跡だったのだろうか。
「だとしたら、悠奈ちゃんのおかげだね」
「へ?」
「ううん、何でもない」
首を傾げる悠奈ちゃんをそっと支え、洗い場のイスに座らせた。
――ありがとう、悠奈ちゃん。あなたがいなかったら私、絶対に負けちゃってた。
「……紗羅?」
「私が洗ってあげるから、悠奈ちゃんはじっとしてて」
「いいのか?」
「うん」
私はまだ余裕がある。体力や魔力は殆ど空っぽだけど、それを補うように胸の奥で熱い気持ちが燃えていた。
キスの余韻がまだ、消えずに残っているみたい。
甘く切ない衝動に頬を染めながら、私は悠奈ちゃんを洗っていく。
まず二人ぶんの髪の毛を洗ったら、次は身体。ボディーソープを手に取り、柔らかな肌へと滑らせていく。
いっぺんに自分も洗おうとすると、自然に身体を押し付ける形になった。
「さ、紗羅」
「なに? 身体、洗ってるだけだよ?」
さすがに悠奈ちゃんも慌てたような声を出すけれど、囁くように問い返すとそれ以上は何も言ってこなかった。
……もう。私だって恥ずかしいんだから、指摘しないでほしい。
女の子が自分からこんなことするなんて、はしたないと思う。でも今は女の子同士だし、それにこれくらいは許してほしい。
本当はぎゅっと抱きしめて、床に押し倒してキスをしたい。それから思うまま、心のときめくままに振る舞いたい。
サキュバスである私は、本当は人一倍欲が強いのだ。
そんな私が、好きな人と一緒にいたらそうなっちゃうのは当たり前。
一線を越えちゃったら本当に歯止めが利かなくなっちゃうので、自重するけど。
せめて今は、悠奈ちゃんの身体を好きなように洗わせてもらう。
すべすべの肌に指を這わせて隅々まで洗う。彼女の背中側と私のお腹側はまとめてすりすりと泡立てる。
暖かくて柔らかくて、このまま解けてしまいそう。
悠奈ちゃんの身体は大好き。
男の人を惹きつけるように生まれついた私が、つい嫉妬しそうになるくらい可愛い。特にこの前まで男の子だったためか無防備な笑顔はとっても素敵だ。
それに、髪はさらさらでボリュームがある。お母さまや世羅の癖っ毛ともちょっと違う、なんていうか動物の体毛みたい。
なんて、今の『悠奈ちゃん』ばっかり褒めてしまうけど。
『御尾くん』だった時の彼女と言葉を交わした時間は少なかったから、かな。
でも、私はどっちも好き。 御尾くんでも、悠奈ちゃんでも。前に悠奈ちゃん自身にそう伝えた通りに。
「それじゃ、お風呂はいろっか」
「ああ」
身体を洗い終えたら、今度は二人で一緒に湯船につかる。
……うちのお風呂が広くて良かったなあ。
小さい頃はお母さまと世羅、三人でよく一緒に入ったけど、それでも結構余裕があった。今もその時と同じくらいだから、むしろ余ってしまうくらいだ。
でも、こうすれば。
私はそっと悠奈ちゃんに寄り添い、その肩に身体を預ける。嫌がられるかな、と思ったけど、悠奈ちゃんも同じように体重を預けてくれた。
見ると、ほとんど目を瞑ってしまっている。
私はくすりと笑って、ほんの小さく呟いた。
「お疲れさま、悠奈ちゃん」
大好きだよ。
これからも、よろしくね。
そうして私は自分も目を閉じて、しばらく二人だけの時間を楽しんだ。
――そのせいで、ちょっぴり長湯になってしまったけれど。悠奈ちゃんは気づいていないみたいなのでセーフ、ということにしておいた。
いつか、また一緒にお風呂に入りたいな。
その時は、悠奈ちゃんも目が覚めた状態で。ね?




