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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
一章 俺とあの子と悪魔の呪い

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21/202

エピローグ

「強い感情と極度の消耗、初めての吸精――相互作用による瞬間的な能力強化? でも、それだけにしては……」


 呪いを解いた真夜はぶつぶつと呟きつつ、俺たちを睨むとどこかへ消えていった。

 それから俺は紗羅に最後の戦いの顛末を尋ねたが、紗羅も夢中だったからよく覚えていないという。


「目覚めたら力が溢れてきて、悠奈ちゃんが助けてくれたんだって思ったら自然に身体が動いたの」


 あのふわふわの翼のこととか、聞きたかったんだが。

 まあ、覚えていないなら仕方ないと、ともあれ公園を出ることにした。

 真夜がいなくなると同時に公園に張られていた結界は解かれており、外に出るのに支障はなかった。ただ、俺も紗羅も服がぼろぼろ過ぎて出歩くには不安があったが――。


「お疲れ様です、お二人ともー」


 さも当然のように、公園の出口に車を付けた凛々子さんが俺たちを出迎えてくれた。

 暖かい車内でおずおずと尋ねた結果はというと。


「……バレてたんですか?」

「もちろんですよー。GPSでお二人が『とあるお宅』に入ったところまでは追えましたし。となれば張り込んで尾行するだけですよね?」


 俺のスマートフォンの位置情報を利用して居場所を特定していたらしい。そういえば慎弥がGPSについてどうのこうの言っていたが、こういうことだったのか。


「でも、それならどうして俺たちを止めなかったんです?」

「好きなようにさせてあげよう、という杏子さまの判断ですー。お嬢様が家出されたことを重く見られたのでしょうね」

「……そうですか」


 信頼して任せたとも取れるし、死んでも構わなかったとも取れるが。まあ、少なくとも過剰な束縛だけはしないでくれたらしい。

 これは、素直に感謝をしておくべきなのかもしれない。


「悠奈さんを追い立てるような形になって申し訳ありません。……でも、ありがとうございました。お嬢様を救っていただいて」


 凛々子さんの声に何と返すべきか戸惑い、俺は結局微苦笑だけを返した。

 それからスマートフォンを起動して慎弥にメールを送る。無事に呪いが解けたことを報告すると、すぐに返信があった。


『おめでとう。羽々音さんとお幸せに。澪はもう寝てるから、後で伝えておく』


 澪ちゃんは寝ちゃったのか。あの子にもらったアイテムに随分助けてもらったから、今度直接お礼を言わないとな。


 そうしているうちに屋敷へ辿り着く。玄関から中へ入ると、すぐに杏子さんと世羅ちゃんが出迎えてくれた。

 世羅ちゃんが涙ぐみながら紗羅に抱き着き、紗羅が抱き返す。そこへ杏子さんが穏やかな声で告げた。


「二人とも、お帰りなさい。お風呂が湧いているから入って……まずはゆっくり休みなさい」


 その言葉に甘え、俺たちは休息を取ることになった。もう疲れ切っていたので二人で風呂に入り、それから自分の部屋でそれぞれ眠った。

 ……風呂の最中は密着して身体を洗われたりしたが、概ね平和だった、と思う。


 目覚めた後は遅い朝食をいただいた。

 同時に俺は杏子さんから手荒な真似を取ったことを詫びられ、そのうえで紗羅と二人でみっちりお説教された。

 要約すると「無事に目的を達成できたからいいようなものの、負けていたらどうなるかわかっていたのか」という内容だが、杏子さんの声音が普段とそこまで変わらないのと時間が長いのとで妙に辛かった。


 そこから一日かけて俺たちは体力を戻し、翌日からは日常に戻る。

 転校早々、学校を休んでしまった紗羅はブランクを取り戻そうと勉強に励み、俺は凛々子さんからレッスンを受けたり、制服の発注に連れていかれたりした。

 で、夜、寝る前の時間に紗羅と少しだけ話をする。

 呪いが解けた割にあまり仲は進展していないが、案外こんなものなのかもしれない、と思う。

 吊り橋効果で仲良くなるより、ゆっくり関係を深めていきたいし。


 そして――俺の私立清華学園への転校は翌週の月曜日となった。

 真新しい制服に身を包み、紗羅と一緒に登校し、教壇の前で自己紹介をして授業を受けた。

 クラスは杏子さんが気を利かせて紗羅と同じにしてくれたが、それでも女子制服を着て、女子ばかりの空間で生活するのはどうにも変な感じだった。しかも周囲はそれに違和感を持ってくれないのだ。

 きっと、こんな経験してるのは世界中探しても俺くらいのものだと思う。


 ………。

 え? 何か忘れてるって? ああ、うん。意図的にスルーしていたのであまり指摘しないで欲しかったが。

 そう。紗羅の呪いを解いても、俺の身体は元に戻らなかった。

 何故なのか杏子さんや凛々子さんに尋ねてみると、


「悠奈さんの肉体変化は呪いの影響ですが、あくまで呪いによって引き起こされた結果ですから」

「『肉体を変化させ続ける』効果が継続してかかっていたのではなく『肉体を変化させる』効果を一度受けただけ。だから原因を取り除いても戻れない、ということですねー」


 いともあっさりと、戻れない理由を説明された。これには俺と紗羅、そして世羅ちゃんが揃って唖然とさせられた。

 ……そういや、呪いが解けば戻れるって話は親世代とはしてなかったっけ。


 というわけで、俺は引き続き女でいることになった。

 戻れると思ったのは勘違いだったのだから、仕方ないと気持ちを切り替え――ることはできなかったが。まあ、それでも紗羅の呪いは解けたし。

 再び女になる心配がなくなった以上、身体を戻す方法はなくもないらしいので、今度はそれを目標にすることにした。

 ただ、ちょっとだけ気がかりなのは。


「えへへ、悠奈ちゃん」

「さ、紗羅。あんまりくっつかないで欲しいんだけど」

「ごめんなさい。だって楽しくてつい」


 あれから紗羅が時々、妙に甘えてくること。あまりににこにこしているので、性格が変わったんじゃないかと思ってしまうくらいだった。


「でも、その、さ。俺は戻れなかったわけだし」

「え。でも私、言ったよ」

「何を?」

「悠奈ちゃんが男の子でも女の子でも関係ない、って」

「あ、う。それは」


 いや、まあ。嬉しい悲鳴なんですが。

 一応、精神は健全な男子のつもりの俺としては、今の状況は非常に複雑というかなんというか。

 ……早く男の身体に戻りたい。


「悠奈先輩、紗羅先輩。何をお話されてるんですか?」

「あ、澪ちゃん。こんにちは。ううん、大したことじゃないの」

「そ、それより。なんか楽しそうだけど」

「ふふ、だって、ようやく部員が増えましたからね。楽しくないわけないじゃないですか」


 そう。なんと澪ちゃんの通っている学校は清華学園だったらしく、俺たちは彼女の所属する部活動に誘われた。なし崩しに入部することになったその部は『神霊現象研究会』とかいう妙な名前だった。

 ……澪ちゃんにも、そして俺たちにもぴったりといえばぴったりなのがまた微妙な気分だが。

 なんでも部員は澪ちゃん一人だったらしいので、気楽といえば気楽な気もする。


 何はともあれ。

 俺の新しい生活は、まだまだ続いていくようだ。

 ――紗羅と一緒に。

15/12/18 一部文章を追記・修正しました。

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