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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
七章(最終章) 私と彼女と大悪魔の呪い

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天使と悪魔の真実

 そもそも、天使と悪魔は他にはない特徴的な性質を持っている。

 既に私たちも知っている「肉体に縛られない」魔力によって生きる、というあれだ。

 これは、天使と悪魔がもともとは単なる魔力――星自体が蓄える力から派生した存在であるため。

 ただの魔力が意思を持ち疑似的な生命となる過程で分化した。

 陰と陽――方向性の異なる二つの種族、悪魔と天使として。


「まあ、意思を持つ過程で星から切り離されて別個の存在になったわけだけど……天使と悪魔が『対』になるのはそれが理由なわけ」


 天使と悪魔は必ずペアで生まれる。

『対』とはこうして同時に生まれた相手同士のこと。ある意味では双子のようなものだ。

 そして、『対』の天使と悪魔は互いに殺し合う。


「相手を殺して唯一無二の存在になるために、ね」


 同族嫌悪に似た意味合いもあるが、本質は別。

 彼女たちは『対』となる存在を殺すことで相手が司っていた力、性質を取り込むことができるのだ。

 一度は分かれた存在が争い、いずれかがいずれかを越える。そういう儀式めいた手順を踏むことで、陰陽を兼ね備えた超存在が誕生する。


「いわば神になる、ということか」


 ついてきていたらしい狐姿の悠華が呟けば、真夜がそれを肯定した。


「ええ。ただし、貴女のような小物とは比べものにならない……ね」

「まあ、そうじゃな。わらわは所詮、人として生まれ人を越えただけの存在に過ぎん。真の神と同格とは思っておらぬ」


 神となることで得られる力は今までとは比べものにならない。

 陰陽、つまり聖と魔の両方の力を扱うことができるということには、それだけ大きな意味があるのだ。

 ちょうど、性天使モードとなった紗羅と同じ。

 本来、反発する属性を共存させることで相互作用が生まれ、爆発的な力になる。あれと同じことがもっと大規模で起こるわけだ。


「大問題じゃない、それ」

「そうよ。だからこそ、形振り構わず狙ってるわけ」


 殺し合う宿命というのも嘘ではないが、裏にまだ事情があったわけか……。

 正直話が大きすぎて全部はまだ呑み込めないけど。

 私は、さっきから沈黙を保っている真昼を振り返った。


「真昼。どうして黙っていたの?」


 すると、彼女はかすかに顔をこちらに向けて。


「……言えなかったのです」


 感情的な理由ではなく、天使と悪魔の詳細については他者に明かせないよう種族レベル、存在レベルで禁止されているらしい。

 理由は真昼たちですら知る由もないが、『対』となる相手同士が争いあうというシステムを続けるため、詳細を知った人間たちが混乱を起こさないようにするため、などだろう、という。

 紗羅が首を傾げる。


「じゃあ、どうして真夜は私たちに話せたの?」

「この場には聞く資格がある者しかいないからよ」


 悠華は人の範疇から外れた存在のため禁止の対象外。

 紗羅は天使とサキュバスのハーフであり、陰陽合わせた爆発力を体感している。私も悠華の血族であり、慎弥の一件で紗羅の魔力を扱ったことがある。

 こうした事情によって、天使と悪魔の関係を聞く資格があると判断されたらしい。


「加えて、先程、羽々音紗羅が真実の一端に辿り着きましたから」

「制約は更に緩くなった、というわけ。ちなみに貴女たちが他人に話す場合も同様の制約が働くわよ」

「……なるほど」


 息を吐く。

 つまり、どのみち屋敷内にいる凛々子さんたちには頼れないのか。

 頼っても今聞いた話は伝えられないなら、彼女たちには正確な判断ができない。

 先程の真夜の言葉について、真偽は私たちで判断するしかない。


「で、今の話がどう繋がるの? 余計に真夜を生かしておくわけにはいかなくなったんだけど」


 真夜が絶大な力を得れば絶対碌なことにならないだろう。

 なら、真昼に協力して真夜を倒すのが私たちの取るべき道のはずだ。


「そうかしら? 『力』を得た天使と悪魔は、これまでとちょっと違うわよ?」


 曰く、『対』となる相手を倒して神となった天使もしくは悪魔は、これまで以上に本来の性質に忠実になるらしい。

 天使は人を守るために管理し。

 悪魔は楽しみのために人と関わる。

 両者について局地的に見た場合、どちらがいいと一概に言えないのは以前認識した通りだ。

 例えば天使が勝った場合、その天使はより大局的な視点に終始する。

 人が地球環境を荒らすことで結果的に種としての寿命を減らすなら、その前に天災を起こして人の人口を減らすかもしれない。実際、過去に起きた大きな天災には神になった天使が起こしたものもあったらしい。

 一方、悪魔は楽しければ何でもいい。

 行動を縛り邪魔する天使がいなくなれば悪戯に目立つ必要もなくなる。世界中のグルメを食べ歩くだけで数十年を浪費するような、無駄に平和な結末もありうる。


「それって、本当?」

「……ええ。あの女の言葉に嘘はありません」


 紗羅の問いに真昼は頷いて答えた。


「私も彼女も実際に経験したわけではなく、他の天使や悪魔がそうした行動を取るところを目の当たりにしたに過ぎませんが」


 更に、彼女は言いにくそうに小さく続けた。


「――正直に言えば、私は彼女に勝つことを恐れています。今抱いているこの感情が、全て取るに足らないものに変わってしまうのではないかと」


 次いで彼女の視線が向けられたのはお屋敷の入り口だった。

 仲の良かった世羅ちゃんや、末裔である杏子さんのことを思っているのだろう。


「記憶がなくなるわけじゃないんだよね?」

「そうよ。ただ価値観が変わるだけ。だから余計に怖いとも言えるわけだけど」


 大事にしていたものに価値を見出せなくなる。

 好ましいと感じていたものを、自分自身で放棄してしまう。


「私だって怖いわよ。天使様に比べればずっとマシだろうけど」


 でも、戦わないわけにはいかない。

 先に待つものが望むものとは限らなくても、天使と悪魔の因縁が二人を否応なしに戦いへ駆り立てる。

 決着がつかなければ、不毛な小競り合いが永遠に続くだけ。


「ある種の呪いよね。私とそいつ、悪魔と天使全体にかけられた、永遠に解けない呪い」

「呪い……」


 真夜の言葉を拾った紗羅が複雑な表情を浮かべた。

 呪い。その言葉は彼女にとって、特別な意味を持っている。

 だからこそ、真夜たちの背負うものの重みが強く感じられることだろう。

 ……私は真昼に尋ねた。


「真昼はどうしたい?」


 天使は数秒の間を置いてから答えた。


「このまま消えることになっても構わない、と思います。ですが、同時にその女を生かしてはおけないという気持ちもあります」


 結局、二人は「人」に対するスタンスが違い過ぎる。

 思想が、嗜好が相いれることはない。

 女悪魔が嘆息して補足した。


「ま、どっちみち自殺はできないし、負けるために手を抜くことも禁じられてるから。私たちはどっちかが死ぬしかない」

「……誰か別の人に殺された場合は?」

「生き残った方が勝者になるだけよ。そういう結末に至ったのは、勝者の行動が遠因していると見做される。それは抜け道にはならない」


 逃げ道が塞がれている。

 呪い、と真夜が形容したのも頷ける。


「というわけだから、選びなさい。私とそいつ、どっちを殺してどっちを生かすか。私の見立てでは、貴女たちが味方した方が勝つはずだから」


 私たちが真夜と真昼にとってのバランスブレイカー。

 呪いの件で真夜に手傷を負わせたように。試練の件で真昼を打ち負かしたように。天使と悪魔のパワーバランスを傾ける役目を与えられている。


「悠奈ちゃん」

「……紗羅」


 私たちは顔を見合わせ、考える。

 どうするべきなのか。

 最も納得のいく結末はいったいなんなのかを。


 そして、天使と悪魔が見守る中、私たちは一つの結論を出した。

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