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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
七章(最終章) 私と彼女と大悪魔の呪い

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再契約

「私と彼女、天使と悪魔は相いれない存在なのです」


 居間で『時』を待っている最中のことだ。

 不意に真昼が口を開き私たちに告げた。すると自然に皆の視線が私に集まる。


「前に真夜からも聞いたよ。真夜と真昼は仇敵で、昔から何度も戦ってきたんだって」


 かつて紗羅が交通事故に遭いそうになったのも、真夜へ嫌がらせをするために真昼が仕組んだことだった。

 私の言葉に真昼が頷く。

 彼女は居間のテーブルに飛び乗ると皆を見渡しながら話を続ける。


「ええ。貴女の言う通り、私たちは遙か昔から相争ってきました。ただしそれは、我々が単純に憎しみ合った結果ではないのです」

「個人的な感情ではなく種族的な性質、なのじゃろう?」


 次いで尋ねたのは悠華。

 彼女自身、長く生きた神様ではあるものの、土地に縛られていた性質上、持っている情報は限られる。天使や悪魔に関しては私たちと知識量に大きく差はない。

 天使と悪魔がいがみ合うのは当たり前、という認識なのは私も同じだ。


「その通りです。しかし、ある意味では誤りでもあります」

「どういうこと?」

「天使と悪魔が相いれないのは確かですが、同時に私とあの女の間に特別な因縁がある、ということです」


 世羅ちゃんの問いに答えた真昼は更に細かい説明を続ける。

 真昼たち天使は人を育み、守る立場にある。一方で真夜たち悪魔は快楽を好み、自らの楽しみのために人を弄ぶ。

 これらは種族的な性質で、私たち妖狐が自然や油揚げを好むのと同じく本能に刻まれた傾向だ。

 だから基本的に例外はない。

 天使と悪魔が相いれないのはこの部分が衝突しているからだ。

 ……ただし、天使の「人を育み守る」性質は個人ではなく大局を見たものであり、逆に悪魔は気まぐれや自身の都合で「個人的に人へ協力する」ことがある。なので、一概に天使が味方で悪魔が敵とは言えない。



「更にもうひとつ、天使と悪魔には特別な性質があります」


 天使と悪魔、各一人ずつが『対』となって永遠に衝突し、殺し合う宿命。

 真昼にとっては真夜が『対』の相手であり、だから彼女たちはこれまで幾度となく戦いを繰り広げてきた。

 同格の相手であるため容易に決着はつかず。

 相手から離れたつもりでも、気づけば互いに引き寄せられ利害の問題から対立する。そんなことを二人はずっと繰り返してきた。


「このサイクルは、どちらかがどちらかを殺すまで終わりません」

「だから、真夜は真昼様を殺すことを狙ってくる、ということですか?」

「ええ。彼女はそうせざるを得ない、そうしなければ終わらない。……そして今回は、私たちの因縁に決着をつける絶好の機会なのです」


 真昼は疲弊して力を制限され、お屋敷から出るのもままならない。

 真夜は消耗したものの自由に出歩ける状態で、現に慎弥の件や亜梨子さんの件などに関わっている。

 パワーバランスが大きく崩れた今、「終わらせにくる」可能性は非常に高い。


「あの女狐が勝ったら、どうなるんですか?」


 澪ちゃんが尋ねる。真昼はその質問にしばらく沈黙したあと、答えを返した。


「……私と言うストッパーが無くなった彼女は自由になります。これまでよりもずっと奔放に、自らの欲望が命じるままに動き回るでしょう」


 人がどういう被害を被ろうと関係なく。

 ……私は左手の紋様を見つめた。


「でも、この契約がある限り、真夜は私や紗羅、杏子さんたちを攻撃できない。私たちが守っていれば、そう簡単に真昼を殺せないでしょ?」

「そうですね。ただし、守っているだけでは終わりません。……決着をつけなければ、私も貴女たちも、彼女に付き纏われ続けることになります」


 *   *   *


 回想を終えた私は意識を戻した。

 ……守っているだけじゃ終わらない、か。

 心の中で呟きながら真夜を見上げる。


「私たちにあまりメリットがないと思うんだけど。今のままなら、私たちは一方的に真夜を攻撃できるんだから」

「そうね。このままだと分が悪いから、私は小細工に徹するしかないわね。これから当分……具体的にはそこの天使がこの屋敷からいなくなるまで」


 私たちが守っているせいで真昼を殺せない。

 だから、まずは私たちに揺さぶりをかけていた……ってことか。私たちさえいなくなれば、今の真昼を殺すのは比較的簡単だから。

 つまり真昼を屋敷から追い出せば、いったんは安全なわけだけど。

 さっきの話にあった通り、むざむざ真昼を殺させるわけにはいかない。それに、真夜が真昼を殺した後、私たちを狙わない保証もない。

 杏子さんが表情を硬くしたまま口を開いた。


「誓う、というのは口約束ということですか? それとも契約を介するのでしょうか」

「契約するわよ。悠奈が願いの回数を使って求めれば、それを承諾してあげる」


 死ぬまで――実質、永遠に続く契約を悪魔と取り交わすことができる。

 真夜にはああ言ったものの、取り引きとしては上等だ。いくら真夜が相手でも、この街から出られないなら捕まえられる。

 捕まえて倒してしまえばいい。

 もともと戦うつもりで準備していたのだから、向こうから攻撃されようとされまいと大して変わらないわけだし。

 そう思いつつも。


「……恒常的な契約はしないんじゃなかったっけ?」


 とりあえず嫌味を言ってみる私。


「今回は例外よ。契約した後、あなたたちを全員殺せばいいだけだもの」


 相手が死ねば契約は自動的に失効する。

 そうすれば、契約は恒常的なものではなく一時的なものだったことになる。

 はあ、と悠華が溜め息を吐いた。


「悪魔か、お主は」

「ええ、悪魔だけど?」

「知っている。……ええい、鬱陶しい」


 ……同感。

 ともあれ、ただ面倒臭がってもいられない。

 私は杏子さんを振り返った。


「判断はお任せします。私は今日、あいつと決着をつける覚悟はできています」

「私も」


 紗羅が言い、他の皆も口々に同意する。

 その全てを聞き届けてから、杏子さんは深く頷いた。


「わかりました。……では、真夜と契約を結びましょう」

「いい判断ね」


 私たちの選択を見届けた真夜がくすりと笑みをこぼした。

 他の皆が見守る中、私は最後の願いを使って真夜に契約を要求する。もちろん、文言には細心の注意を払いながら。

 左手の紋様が消え、代わりに新たな紋様が浮かぶ。


「これで契約は完了したわ。後は私とその女、どちらかが死ぬまで終わらない。泥沼の戦いよ」

「………」


 見下ろす女悪魔を、猫の姿をした天使は黙って見つめていた。

 そんな真昼に何を思ったのか、真夜は一瞬、瞳に奇妙な色を宿してから私たちへ視線を向けた。


「じゃあ、いったんお別れといきましょうか」

「待ちなさい。せっかく現れたというのに姿を消すのですか?」


 この場からの離脱を宣言する真夜に向けて杏子さんの鋭い声が飛ぶ。

 しかし真夜は気にした様子もなく微笑んで、


「わざわざ不利な場で戦うつもりはないだけよ。それに、貴女たちだってここで私にかまけている場合じゃないでしょう?」


 確かに。

 街のあちこちに散らばった真夜の分身を放置してはおけないし、さっきの契約で真夜の行動は制限されている。逃げるにしてもこの街の中だ。

 ここで真夜を見逃すのは仕方ない、か。


「さあ、踊りなさい。タイムリミットは夜明けまでかしら? まあ……悠長なことをしていればどうなるか、わかるとは思うけど」


 捨て台詞と共に虚空へ溶けていく真夜。

 一応、私たちは彼女に光の矢や火球や視線を飛ばすも、それらが到達する前に女悪魔の姿は完全に消え去ってしまった。

 同時に街を包んでいた結界も消えていく。


「ゲームスタート、よ」


 最後に響いた声と共に。

 純粋な悪魔と私たちとの、総力をかけた戦いが始まった。

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