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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
七章(最終章) 私と彼女と大悪魔の呪い

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世羅と亜実

「こっち?」

「はい。確かこの辺だって言ってたと思うんですけど……」


 駅前の通りを少し歩いて途中で路地へ入る。

 世羅ちゃんと二人で辺りを見回しながらゆっくり進むと、やがて木目調の外観をした雑貨屋さんが見つかった。

 ガラス越しに店内を覗くと全体的な色調は明るい白で、そう広くはない店内に色とりどり、形も多様な雑貨がたくさん並んでいる。あえて表通りから離れたところにあるのだろうな、と思わせるお店だ。

 悠人だった頃なら入りにくかっただろうこと間違いなし。

 事前に聞いている場所とも一致するので、ここで間違いないだろう。


「じゃあ、行きますね」

「うん」


 入り口の扉に突き出したバーを世羅ちゃんが掴み、手前に引く。

 小さな鈴の音とともに入店すると、外とは空気が違った。控え目に流れるクラシック音楽に、普通の人は感じないかもしれないくらいかすかなアロマの香り。

 思わずほぅ、と息を漏らした私たちを、奥のカウンターにいた店員さんの声が出迎えてくれた。


「いっしゃいませー。……あ、世羅。悠奈先輩も」


 というか、亜実ちゃんだった。

 私服の上からチェックのエプロンを付けた彼女は、座っていた椅子から立ち上がって私たちへにっこりと微笑む。

 相変わらず髪はショートだけど、出会った頃よりは少し伸びた。

 服も、昔は地味な印象ばかりが強かったのが、世羅ちゃんや私たちと買い物に行くようになってから「地味だけど可愛い」感じになった。

 町の雑貨屋さん、というお店の雰囲気にも良く似合っている。


「すみません、もうすぐ交代なので少しだけ待ってくださいね」

「うん。大丈夫だよ」


 世羅ちゃんが同じように微笑みながら穏やかに答えた。

 そう。私たちがやってきた目的は亜実ちゃんのバイト先を見学することと、バイトを終えた亜実ちゃんと食事に行くことだった。

 今日は、他のみんなはお留守番。

 華澄や澪ちゃんはお屋敷の仕事で、紗羅は杏子さんからお屋敷の所蔵品についてレクチャーを受けている。この前飲ませてもらった薬酒のような魔法の薬や、魔法の籠もった武器やアクセサリ、古い資料など、本家が管理しているアイテムの一部。

 倉庫が狭く、私は羽々音家の人間と言っていいか微妙な立場のため、既に所蔵品を把握している世羅ちゃんと一緒に外出をしているわけだ。


「お待たせ、百瀬さん。今日もお疲れ様」

「はい。お疲れ様です」


 店の奥から出てきた二十代くらいの女性に明るく会釈をして、亜実ちゃんが奥へ消えていく。

 ……元気になったなあ、亜実ちゃん。

 あらためて思いながら、私は店内へと視線を戻す。亜実ちゃんの準備が整うまで、ちょっと眺めていようかな。


「百瀬さんのお知り合いですか?」


 と、さっきの女性に声をかけられた。

 見れば、胸元のプレートに『店長』とある。

 隣にいた世羅ちゃんが彼女を見つめながら答えた。


「はい、友達です」

「そうですか。じゃあ、あなたが百瀬さんの言う『親友』かな」


 と、店長さん。

 なんでも暇な時の世間話で、よく同じ友人の話が出るのだという。そこでどういう子なのかを尋ねたら「大切な親友」だと言われたとか。

 うわあ、なんという話を。

 悪戯っぽい顔になった店長さんを見つつ、私が亜実ちゃんの立場だったら恥ずかしくて仕方ないだろうな、と思う。

 微笑ましい話だから、本人がいない時にするのは罪じゃないだろうけど。


「亜実ちゃん、お店ではどうですか?」

「頑張ってますよ。真面目で一生懸命だから私も助かってます」

「そうですか、よかった」


 世羅ちゃんがほっと息を吐く。私もつい口元が緩んだ。


「あの子と仲良くしてあげてくださいね」

「あの、何の話ですか?」

「ううん。なんでもないよ」


 ちょうどやってきた亜実ちゃんに軽く答えて、私たちはお店を後にした。買い物にはまた今度、あらためて来よう。

 時刻は午後一時を過ぎている。お腹も減っているので、私たちはさっそく近くのファミリーレストランに入った。ファミレスといってもお値段はピンキリだけど、今回は一般人目線でお手頃なお店だ。

 私たちは角の席に座ると和風おろしハンバーグ、ミートソースパスタ、シーフードドリアと人数分のドリンクバーを頼んだ。


「いいお店だね」

「うん。私を雇ってくれて、しかもすごく良くしてくれて。店長には感謝してる」


 言って亜実ちゃんは目を細める。

 ――あのお店は、亜実ちゃんが以前、クラスメートの指示で万引きをしたお店の一件だったらしい。

 人の多いお店がターゲットになることが多かったので、あの店で品物を盗んだのは一度だけ。ちょうど要求がエスカレートし始めた時期のことだったという。

 とはいえ一度でも万引きは万引き。

 他のお店同様、どうにかして償いができないか考えた亜実ちゃんは、お店が募集していたアルバイトに応募し、面接で敢えて罪を告白した。

 隠したまま働くのは良くないし、迷惑をかけたお店に罪滅ぼしがしたい、と。

 結果、先に受けたスーパーやコンビニ等は落ちたものの、あの雑貨屋さんは亜実ちゃんを雇ってくれた。

 他のお店には、初めてのアルバイト代と手紙を封筒に入れて届けたそうだ。


「良かったね、亜実ちゃん」


 許されるかどうかは、被害を受けた側が決めることだろうけど。

 個人的には、亜実ちゃんは十分に罪を償ったと思う。


「はい。世羅や、悠奈先輩たちのお蔭です」

「私たちじゃなくて、亜実ちゃんが頑張ったからだよ」

「……ありがとう、世羅」


 世羅ちゃんの言葉に亜実ちゃんの瞳へ涙が浮かぶ。

 そこへ料理が運ばれてきたので、暗い話はおしまいになった。亜実ちゃんも涙を指でぬぐって、フォークを手に取る。

 私も箸を取ってハンバーグを一口。うん、美味しい。


「世羅たちって、お嬢様なのに割と普通だよね」

「お母様も凛々子さんも、贅沢のための贅沢は駄目っていうタイプだから」


 良い物にはお金を惜しまないし、欲しい物を必要以上に我慢もしない。だからって無暗に散財するかというとそんなことはない。

 実際、お屋敷のご飯も美味しいけど、キャビアやトリュフ、A5ランクのお肉とかが出てくるわけじゃない。華澄や澪ちゃんによると、食材はスーパーで一つ一つ、品質と値段を確かめながら買っているらしい。

 分家から提供されたお金で生活している、という事情を聞いた今では納得である。


「元庶民の凛々子さんが仕切ってるせいもあるのかな」

「そうですね。でも、私はそういうの好きですよ」


 それなら、杏子さんから世羅ちゃんに引き継がれた後も、お屋敷の方針は変わらなさそうだ。

 料理を食べ終わった後はデザートを注文し、三十分くらい雑談したあと店を出た。


「亜実ちゃん。この後、時間は大丈夫?」

「大丈夫だよ。何か、私に話があるんだったよね」

「うん」


 ご飯も終わったところで、今日のもう一つの目的に移ることに。

 私たちは亜実ちゃんを連れてお屋敷に戻り、世羅ちゃんの部屋に落ち着いた。

 ……そういえば、世羅ちゃんの部屋には私も殆ど入ったことないんだよね。

 拒まれてるわけじゃなく単に用事がないからだけど。話をする時は食堂か居間、あるいは私や紗羅の部屋になるし。

 世羅ちゃんの部屋は、私や紗羅の部屋よりちょっと豪華だ。

 白と青が主体の明るい色合いで、家具には上品かつ女性的な装飾が施されている。また、ベッドや机などに置かれたぬいぐるみや本棚の恋愛小説が、イメージに子供らしさをプラスしている。


「悠奈さん、じっくり見られると恥ずかしいです」

「あ、ごめん」


 慌てて視線を戻す。

 私と並んでソファに座った亜実ちゃんが、そこで世羅ちゃんに尋ねる。


「それで、話って?」

「うん。……実は私はね、人間じゃなくて天使なの」


 正面からのストレートな告白が静かな室内に響いた。

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