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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
七章(最終章) 私と彼女と大悪魔の呪い

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悠奈と紗羅と華澄の儀式

 お屋敷での生活は目まぐるしい。

 宿題に受験勉強、魔法の特訓……やることはいっぱいで、最近は特に拍車がかかっている。日課を済ませるだけですぐ寝る時間になってしまうくらいだ。


「……今日はこれくらいかな」


 参考書を閉じて息を吐く。

 スマホの時計もだいたい就寝時間を指していたので、私は勉強机を離れてベッドに軽く腰かけた。

 ふかふかで気持ちいい。

 つい、このまま身体を預けたくなるけれど我慢して、手遊びに小さな炎を出したり、周囲の空気をかき混ぜたりして時間を潰す。

 そうして十分ちょっとが過ぎた頃、部屋のドアがノックされた。


「失礼します、悠奈様」


 寝間着姿の華澄が入ってくる。


「今日もお疲れ様、華澄」

「ありがとうございます。悠奈様も、お疲れ様でした」


 華澄はお屋敷の仕事を終え、個人的な用事も済ませたあと私の部屋へやってくる。日課である儀式のためだ。

 二人が揃ったあとは雑談か、軽いゲームをすることが多い。


「マルバツゲーム、って知ってる?」

「いいえ。どういう遊びでしょう?」

「えっとね、三かける三のマス目に、交互に記号を埋めていくんだけど……」


 二人でテーブルに向かい合って座り、テーブルの上空に炎でマス目と記号を描く。簡単なルールなので説明はすぐ終わり、私たちは数回、魔法を使ったマルバツゲームを三回ほど繰り返した。

 結果は一勝一敗一引き分け。

 見た目は地味だけど、何もない空中に形を保った炎を浮かべておくのは結構大変で、二人ともゲーム以外のところに意識を使うせいもあって、単純なゲームなのに結構白熱する結果になった。


「じゃあ、そろそろ行こうか」

「はい」


 炎を消したら席を立って紗羅の部屋に向かう。

 このところ、儀式に私と紗羅、どちらの部屋を使うかはその日次第だった。

 紗羅の用事が先に終われば、彼女が私の部屋に来てくれる。

 紗羅よりも先に華澄の用事が終わった場合は、二人で紗羅の部屋に行く。特訓を行うタイミングや長引き方によっても変わるのでだいぶ流動的だけど。


 ちなみにいま悠華はいない。ただのキスを毎回見ていても仕方ないとのことで、この時間はたいてい屋敷のどこかで遊んでいる。

 多分、テレビかゲームか漫画に夢中のはずだ。


「紗羅、調子はどう?」

「……あ、もうそんな時間なんだ。ちょっとお勉強に熱中しちゃった」


 軽くドアを叩いて室内に入ると、机に向かっていた紗羅が私たちを振り返った。


「やはり受験勉強は大変なのですね」

「うん。でも、やればやるだけ身になるし、魔法の役にも立つから」


 華澄の呟きに紗羅が微笑んで答える。

 魔法を使ううえで大事なことは魔力の制御とイメージだ。勉強で養った集中力は制御に役立つし、知っていることが増えればイメージの助けになる。

 逆もそうだ。

 魔法の特訓をするようになってから、短時間で集中して勉強できるようになった。おかげで、だんだん成績にも反映されている。

 もちろん、時間のやりくりは大変なんだけど。


「もう少し勉強する?」

「ううん。残りはまた今度にする」


 言って紗羅が立ち上がる。

 私たちは三人で連れ立ってベッドへ向かった。

 まず紗羅がベッドへ上がり、枕を背にして座る。


「華澄ちゃん、こっちに」

「はい、紗羅様」


 手を差し伸べる紗羅に従い、華澄が紗羅に身を預けていく。軽く開かれた股の間に座るような形。

 首を曲げて見つめあった二人は揃って私に視線を向けた。


「悠奈様」

「いいよ、悠奈ちゃん」

「……うん」


 密着する二人の姿に見惚れていた私は少し遅れて返事をした。

 せっかく絵になる光景を壊してしまっていいのかなあ、なんて心の隅で思いながら、ベッドに膝を乗せた。

 ぎし、と小さく軋む音。

 高価で丈夫なベッドは女の子を三人乗せても十分に余裕があった。

 這うように二人に近づいて、紗羅の足と華澄の足の間に二本の足をそれぞれさしこむ。


「あ……」


 華澄の小さな吐息。

 少女の身体を間に置く形で紗羅と抱きしめあう。

 華澄の心音が少しずつ早くなっていくのがわかる。

 興奮、してくれているのだろう。

 表情を蕩けさせる彼女にそっと微笑み、私は紗羅と唇を合わせた。


「ん……」

「……ふふ」


 この体勢だと首の動きが制限されるので、啄むような動きや舌を絡めるのは控える。代わりに深くキスを続けたまま強く抱きしめあう。


「……これだけで、天に昇ってしまいそうです」


 私と紗羅の首筋に顔を埋めた華澄が小さく呟く。息苦しい、という意味で言っているのではないのは、普段とは違う甘い声から明らかだった。

 強い刺激は全くないけれど。

 本人が心地よいと感じてさえいれば、精気の授受は行うことができる。華澄は今、紗羅と密着した部分から緩やかな吸精を受けているはずだ。

 そして、私は繋がった唇から。

 朝起きて二度寝をする時に似た、気怠い感じが長く続く。

 亜梨子さんの件が決着して以降、紗羅はこういう、殊更ゆっくりとした吸精を試みるようになった。

 ご飯をよく噛んで食べるのがダイエットの助けになるように。

 味を確かめながら吸精することで、より深い満足感が得られるのだとか。

 それは紗羅だけでなく私や華澄にとっても。

 持続する幸福に意識が蕩かされて落ちていく。

 死に向けて一直線に突き進んでいく絶望的な快感とは一線を隔する、甘い虚脱感。このまま眠って目が覚めると、いつもすっきり、疲労も普通より取れやすい。

 私も華澄も、紗羅より前に眠れないというのがちょっと辛いくらいだ。


 やがて、紗羅の腕の力が緩んだ。

 私たちはそっと唇を離し、三人並んでベッドに倒れこむ。

 さすがにこの人数だと狭いので肌は密着したまま。蓄積された快感のおかげでなおも肌から精気が吸われていくけど、この量なら吸い尽くされることはない。

 ……ああ、今すぐにでも眠れそう。

 紗羅も満足してくれたみたいだから、もう寝ちゃっていいよね。

 思ってゆっくりと目を閉じ――。


 こんこん、と。

 やや遠慮がちなノックの音に、寸前で意識を留めた。


「……誰だろ」


 喋るのすらとても億劫だ。

 いつもならいちばんに応対しそうな華澄も私と似た状態らしく、今は緩慢に身を起こすのが精いっぱいという様子だった。

 なので、紗羅が立ち上がってドアに駆け寄っていく。


「はい」


 返事を聞いてドアが開く。

 向こうから顔を覗かせた凛々子さんが、私たちの姿を見てなんとも言えない顔をした。


「思ったほどではありませんでしたけど、お取込み中ですよねー」

「どうかしたの?」


 と、紗羅が首を傾げれば、「いえ」と曖昧に答えて。


「杏子様が良ければ部屋に来ないか、ということでー」


 苦笑気味にそう告げてきた。

 杏子さんが?

 なんというか珍しいお誘いに、私たちは顔を見合わせ、せっかくなので顔を出すことにした。

 重い身体を動かして床に降り、パジャマの乱れを簡単に整える。

 歩くときは私には紗羅が、華澄には凛々子さんが軽く手を貸してくれた。


「お二人ともふらふらですねー」

「あはは。お酒に酔った時ってこんな感じなんでしょうか」

「あら。ではちょうどいいかもしれませんねー」

「?」


 よく意味がわからない。

 ただ、凛々子さんが割とのほほんとしているところを見ると、あまり重苦しい用件ではないのかもしれない。

 そうすると、今度はタイミングに疑問が生まれるけど。


「杏子様、皆さんをお連れしましたー」

「ありがとう。入って頂戴」


 連れていかれたのは意外にも、杏子さんの部屋ではなかった。

 台所に併設されたお酒の貯蔵庫。戸棚やらワインセラーやらがずらっと並び、テーブルとソファまで置かれた大人のための部屋。

 そこにワイングラスを片手に頬を赤く染めた杏子さんがいて、私たちを見てにっこりと微笑んだ。


「いらっしゃい。どうぞ、適当に座ってください」


 ……なんか杏子さん、相当酔ってない?

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