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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
六章 私と彼女と吸血鬼の誘惑

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変化

 翌日、屋敷に慎弥がやってきた。

 彼が羽々音家を訪れるのはこれで二度目だ。以前は部外者扱いだったけど、今は澪ちゃんがお屋敷にいるし、二月の『魔女化みやちゃん』騒動でリミッターがかったことで、安心して迎えられるようになった。


「お兄様、何しに来たんですか?」

「いきなりその扱いか。……お前じゃなくて、羽々音家の皆さんと悠奈に用が会ってきてんだ」


 メイド服姿の澪ちゃんに出迎えられた彼は、持参した菓子折りを杏子さんに手渡すと「澪ちゃんを受け入れてくれたお礼」と「私を襲ってしまったお詫び」をあらためて述べた。

 ――以前に電話越しや書面でのやり取りはあったものの、直接はまだ言っていなかったからと。前回来た時はそれどころじゃなかったし。

 杏子さんからも、あらためて私や紗羅に協力してくれたことが伝えられ、話が終わった後、慎弥は私の部屋へやってきた。


「案外、可愛らしい部屋に住んでるんだな」

「む、それはちょっと酷くない?」


 軽く睨んでやると、彼は「ああ、すまない」と苦笑する。


「比較対象が澪くらいしかいないからな。しかも、あいつの部屋は色々特殊だから参考にしづらい」

「ああ。物が多そうだもんね」


 本に服、その他様々なオカルトグッズ……スペースがいくらあっても足りなさそうな気がする。

 私の部屋は、あまり物を置いていない。

 本は本棚一つに収まっているし、服もクローゼットの中。電子機器もスマホと、悠華のために買ったゲーム機くらいだ。あとは買い物に出た時に気まぐれで手に入れたぬいぐるみとか、化粧品くらい。


深夜みやは買った服とかどうしてるの?」

「一応、箪笥の別の段にしまってある。というかその名前はやめろ」


 嫌そうに顔をしかめる慎弥とテーブルを挟み、向かい合うように座った。


「それで、今日はどうしたの?」

「ああ。少し魔術を扱うコツを教えて欲しくてな」


 実に慎弥らしい頼みだった。

 彼が言う『魔術』と私たちの『魔法』は同じものだ。『技術』か『能力』か、という捉え方の差はあるけど、使い方は殆ど共通している。

 前に教えるのを断念した基礎部分は真夜が無理矢理どうにかしてくれたから、今の慎弥にならコツくらいは教えられる。


「なら、杏子さんか凛々子さんあたりを呼んでこようか?」


 その方が、私が教えるより確実だと思ったのだが、慎弥は首を振った。


「いや、君でいい。むしろ君でないと駄目だ」

「……それ、口説き文句?」

「何をわけのわからないことを言っているんだ」


 慎弥によると、難儀しているのは主に感覚的な部分らしい。

 でも、真夜は純粋な悪魔。息をするように魔法を操れる存在なので、慎弥とでは意識が違い過ぎて参考にならない部分がある。

 そこで、幼少期から魔法に親しんでいたわけではなく最近になって習得した私なら、ある程度、慎弥の感覚に近いだろうということだった。

 なるほど、そういうことなら。

 私は慎弥の頼みを了承し、彼の話を聞いた。


「……というわけで、魔力を体内から取り出す感覚に難儀していてな」

「そっか。……あれ、でもそれって、私と戦った時に散々実践させられなかった?」

「ああ。ただ、あれは外付けの魔力を利用していただろう? 若干、勝手が違う上に使用量が多すぎて応用しづらくてな」

「そういえばそうだっけ」


 コンセントから電気を引っ張るのと乾電池を使うのとの違い、みたいなものかな。


「そうだなあ……身体の中を流して、手なんかに集める感じかなあ。ほら、血管を血が流れるみたいなイメージで」

「……成程。やはり、君と僕でも感覚にはかなり隔たりがあるか」

「え、そうなの?」

「ああ。僕はまず流す程の確保するのが一苦労だからな」

「う、そこかあ」


 じゃあ、点在する水滴を少しずつ動かして集め、大きくしていく感じとか?

 ……などと、慎弥が繰り出す質問に出来る限りのアドバイスをしていく。

 相談は三十分ほどで終わった。


「ありがとう。参考になったよ」

「どういたしまして。でも、身体に負担をかけすぎないようにね。ただでさえ疲労、溜まってるんじゃない?」


 暗に真夜との行為を指して言うと、ため息が返ってきた。


「まあ、な。ぎりぎりまで搾り取られては、精の付く料理を食べさせられている」

「あはは。それだけ聞くと仲のいい新婚さんみたいだね」

「馬鹿を言うな。僕にあれが御しきれるわけがないだろう」

「自信もって言わなくても」


 まあ、年齢的にも魔力的にも仕方ないけど。

 ……どうやら、真夜の様子も相変わらずみたいだ。


「あれから変なちょっかいはかけられてない?」

「ああ。平和と言っていいのかは微妙だが、お蔭で無事だ。……僕が高校に行っている間や寝ている間も含め、家から居なくなることもあるしな。四六時中付き纏われているわけでもない」

「良かった」


 ひとまずは大丈夫、と。

 とはいえ、以前の件で真夜の企みが終わりとは思えない。次にいつ、どんな方法で仕掛けてくるかわからない以上、引き続き注意しよう。

 そして、できればどこかで決着をつけたい。

 彼女に対抗するには、まだまだ特訓が必要だろうけど。


「そうだ。慎弥に聞きたいことがあったんだけど」

「なんだ?」

「慎弥は、今でも十分真夜と『仲良く』してると思うんだけど、その頻度がもっと増えるとしたらどう思う? 相手は真夜でも、真夜じゃなくても」

「……また、変な質問をするな」


 微妙な反応と共に眉を顰められた。

 彼は私をじろりと見つめて、


「羽々音さんとのことか?」

「うん、まあ。そんなところ」


 曖昧に言葉を濁して微笑む。正確な事情はちょっと説明しづらい。

 昨日、亜梨子さんが紗羅に言ったことが、まだ心の中で引っ掛かっていた。私が気づかないうちに、紗羅に欲求不満が溜まっているんじゃないか、って。

 もちろん、紗羅は大丈夫だって言ってくれたけど。

 気持ち的な満足と身体から来る欲求は、必ずしも一致しないかもしれない。それで、誰かから少しでも参考になる意見が聞きたかった。

 ……という、私の内心は伝えなかったけど、慎弥はある程度意図を察してくれたようだった。


「僕に聞かなくても、女同士、澪なりこの屋敷の人なりに聞けばいいだろうに」

「いや、できれば男の人に聞きたかったんだ。でも、私には慎弥くらいしか気兼ねなく話せる男子っていないから」


 紗羅の身体は、普通の女の子よりもある意味デリケートにできている。

 人より強い性欲を抱えたサキュバスの身体について、当のサキュバス意外で似た状況を探すとしたら、むしろ女の子より男の子に聞く方がいいのかもと思ったのだ。


「……まあ、君がどうしてもというのなら答えるが」


 恥ずかしいのか、気の進まない様子ながら慎弥は答えてくれた。


「正直、悪い気はしないだろうな。余程疲れ切っているとかそういう状況以外で、相手に求められるような『必然性のある場面』に陥れば受け入れるだろう」

「……そっか」


 慎弥は夕食前に羽々音家を後にしていった。どうせあの女が夕食を用意しているだろう、とのことだ。

 凛々子さんが用意し始めていた慎弥の分の料理は、屋敷の一同が手分けすることで軽く処理され、夕食後。


「悠奈ちゃん。ごめんなさい、黒崎くんとのお話、聞いちゃった」

「あ。き、聞いてたんだ」


 紗羅に呼び止められた私は、彼女の言葉にぎくりとする。

 いや、別にやましいことは何もない。だけど、逆に、このタイミングで指摘されると、紗羅のことを意識しすぎてしまう。

 口ごもった私を、紗羅の潤んだ瞳が見つめた。


「……それで、悠奈ちゃんはどうするの?」

「……紗羅。寝る前に私の部屋に来てくれる?」


 うん、と紗羅の唇が小さく動く。

 見事に唆されているような気がしつつ、私は湧き上がる思いを抑えきれなくなっていた。

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