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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
五章 私と彼女と魔女のたまご

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魔女との戦い

 守り切れなかった。

 円さんから預かった品は、真夜に操られた慎弥の手に。

 細い少女の指に指輪が通される。右手の薬指に納まったそれは、大粒のガーネットだという話通り、ずっしりした重みが感じられた。


「案外、いい品じゃない」


 どうしよう。

 今から取り返しに動いて間に合うだろうか。取り返すことは可能だろうか。

 迷う私の耳へ更なる声が届けられる。


「台座に逆五芒星の刻印……これを後から加えたわけか。籠められた念も中々のものだし、ただの人間が持つには危険でしょうね」


 慎弥のまとう真夜の魔力、寒気を感じるそれが強くなる。


「極めつけは刻印がされた金具。まさか、こんなところで私自身の魔力に出会うとはね」

「どういうこと? 慎弥のお父さんたちが亡くなったのに、真夜が関わってたの?」

「違うわよ。以前――結構な昔に私が力を籠めた金属を、慎弥の父親がどこかから手に入れて勝手に金具に細工したんでしょ。単なる偶然。まあ、因果応報って意味では、私が手を下したことになるかもしれないけど」


 大粒の宝石に、逆五芒星の刻印。長期にわたって籠められた、慎弥のお父さんの念。それらが金具に籠められていた真夜の魔力と反応し、一種の呪いのアイテムとして作用していた。


「耐性を持たない人間が手にすれば容易に支配される。精神を侵され、特に親しい者への愛情を歪められるはす」


 頭の中に想像が浮かぶ。

 慎弥のお父さんは以前に自分が送った指輪を借りて、加工したという。魔術を研究していた彼にはある程度、指輪の危険性がわかっていたはずだが、それを配偶者から遠ざけなかったのだろうか。

 遠ざけたはずだと思う。そのうえで、事情を知らない奥さんに押し切られたか、あるいは奥さんが黙って持ち出したのではないだろうか。

 だとしても、もともと彼女のものだったのだから、慎弥のお母さんを責めることはできない。

 そして、知らずアイテムの呪いに侵された彼女は、想いを捻じ曲げられて凶行に走ってしまった。

 ……だとしたら、救われない話だ。


「昔に蒔いた種が芽吹き、育って実を付けたってところかしら。せっかくだからこの魔力、いただいておきましょう」


 真夜が指輪を手にした結果、彼女は魔力を得たらしい。それが、どの程度の量なのかはわからないが。

 分が悪くなったことだけは間違いない。

 はあ、とため息。


「それで、まだ戦うの? もう目的は果たしたと思うけど」


 言い換えるなら「見逃してくれるか」という質問。

 ここから真夜がどう動くかは予想できない。指輪を手に入れたから用済みとばかりに戦闘を終わらせる可能性もあるし、ついでに私を殺しておこうと考えてもおかしくはない。

 判断の分かれ目は、互いの戦力を彼女がどう判断するかだが。


「……そうね」


 しばらく考えるように沈黙した女悪魔は、慎弥の口ではなく自らの口を使って告げた。


「慎弥本人に聞いてみましょうか」


 少女の瞳の色が変化する。

 一瞬、光が射したかと思うと、今度はそれが暗く濁っていく。すっと真っすぐ私に向けられた視線には、先ほどまでとは違い感情があった。

 ――強い敵意。

 憎悪か、嫌悪か。種類まではわからないものの、慎弥自身が私に攻撃の意思を表している。


「だ、そうよ」


 くすくすと笑う声がする。

 指輪を嵌めまま慎弥のコントロールを手放したことで、指輪の呪いが発動したのだろう。親しい者への愛情を歪める、という言葉に則って考えると、慎弥の私への感情が負の方向へ振れた結果ということか。

 でも、慎弥に意識があるのなら。


「慎弥! 慎弥! 正気に戻って!」


 呼びかけることで意識を保ってくれるかもしれない。そう思い私は彼の名を叫ぶが、慎弥からの反応はなかった。


「無駄よ。この子は私に支配されやすい体質になっているんだもの。同質の力である指輪の呪いには抗えない。ねえ、慎弥?」

「……そう、みたいだな」


 初めて慎弥が口を開いた。

 相変わらず女の子の声ではあるが、低く押し殺したように聞こえる。彼は右手を軽く持ち上げて手のひらを見つめると、小さく呟く。


「悠奈への殺意が溢れてくる。自分でもおかしいとは思うが、止めようがない」


 再び瞳が上を向き、私を見る。


「いったん発散してしまうのが簡単かもしれないな」

「いいわよ。魔力は貸してあげる。思う通りにやってみなさい」

「ああ」


 今の慎弥にとっては、真夜の方が信用できる相手なのか。

 初めから大して信用していなかったが故に、指輪の影響下でも態度が変わらない、ということなのかもしれないが。

 ……まさか、こいつと殺しあうことになるなんて。


「っ」


 指輪を守り切れなかった私自身の責任か。

 こうなったら何としても生き残らないといけない。戦って勝って、慎弥をどうにか解放してやらないと。

 きっとあの指輪を破壊すればそれで終わるはず。

 悠華の影響で神聖系統に属する私の魔力なら、きっと効果も高い。

 そう思い、私は覚悟を決めた。


「………」


 真正面から慎弥の顔を見返すと、その表情が苛立たしげに歪み、彼は手に魔力を収束させていく。

 軽く握りこむような動作と共に、黒い、L字に近いシルエットが現れる。

 ――それは、拳銃にしか見えなかった。


「……嘘」


 こちらへと向けられる銃口を見つめながら思わず呟いた。

 ちょっと、待った。天使だの悪魔だの魔法だのって言ってる時に、その武器は場違いというか、反則なんじゃないだろうか。

 悪魔の魔法は何でもありだとは聞いてるけど……っ。


 トリガーが引かれた。

 反射的に火球を打ち出すと、銃口から飛び出した水の槍とぶつかって相殺された。って、水?

 そっか、あれは水鉄砲みたいなものなのか。水の槍を打ち出す速度や命中精度を上げるために、慎弥がイメージした補助アイテム。

 ……考えてみれば、魔法で作り出すには具体的なイメージが必要なはず。だから、いくらなんでも銃器なんて簡単に作れない。

 とはいえ、厄介なのは変わらない。

 立て続けにトリガーが引かれ、槍が連射されてくる。その速度は真夜に操られていた時と大差ない。銃口からしか飛び出さないおかげで迎撃は比較的楽だけど。

 これだけ炎を作り出していると、体力と魔力も馬鹿にならない。


 短期決戦をするべきか?

 思った私は、火球をいくつも作るのではなく、炎を噴き出す方法に切り替える。これなら槍を迎撃しながら攻撃も可能。

 慎弥が焦げるかもしれないけど、それは後で考え――。

 ひょい、と慎弥が横へよけた。


「な――」

「残念でした」


 追いかけられない。

 真っすぐ向かわせてしまった炎は慎弥の脇をかすめ、このままだと結界の外へ――。


「う、あ……っ」


 全力でイメージ。

 脳の奥が、右腕が軋んで嫌な音を立てるのを聞きながら、私は炎の進路を無理矢理に曲げ、地面へ落とした。同時に手のひらから新たな炎を出すのもストップする。


「……はぁ」


 なんとか止められた。

 ただし、想定外かつ碌に練習していない動きに、魔力を殆ど持っていかれた。

 その場に座りこんでしまいそうになるのを堪えて叫ぶ。


「慎弥! 周りの人がどうなってもいいの!?」


 すると、少女の姿をして少年はわからない、という風に首を振る。


「他人の命より自分の方が大事だろう。それに、攻撃してきたのは君の方だ」

「………」


 駄目だ、やっぱり指輪の力に飲まれてる。

 黒い銃が再び私へ。今度はもう、抵抗らしい抵抗もできない。

 それでもやれるだけやろうと腕を伸ばした時、不意に身体へ力が湧き上がった。

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