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12/202

露見

「……どこでバレた?」

「というか、隠してるつもりだったのか。自分では名言できないから匂わせてるのかと思ったんだが」


 そんなにバレバレだったのか……。

 あっさりと正体を看破されてしまい、俺ががっくりと落ち込んでいると、慎弥はその間に飲み物を持ってきてくれた。

 差し出されたグラスを受け取って麦茶を飲むと、少しだけ気分が落ち着いた。


「はあ、美味い……」

「本当、君はお茶が好きだな」


 慎弥の言う通り、俺はお茶が好きだ。緑茶やウーロン茶だけでなく、麦茶や紅茶でも構わないが、とにかくお茶を好む。

 羽々音の家では紅茶ばかりだったので、ペットボトルの麦茶が妙に美味く感じた。


「……というか、あんまり驚かないんだな」

「驚いてはいるよ。ただ顔に出ていないだけで」


 なるほど。顔に出ないのでは本当か嘘かもわからないが。


「で? 君がそんな身体になったのが呪いの影響なのか?」

「……何の話だ? それは俺の友達の話だって」

「いや、それもバレてるからな」


 まあ、そりゃそうか。仕方ないのでもうそこは頷いてしまうことにする。まだバレていない事については話すつもりはないが。


「ふむ。今、君が世話になっている家というのはどこだ?」

「ごめん、それは言えない」

「そうか。じゃあ、今の君の名前は」

「え? 羽々音悠奈だけど……って」


 羽々音の性を名乗ったら台無しじゃなかろうか。実際、慎弥は「なるほど、羽々音か」と何やら頷いているし。

 ……駄目だ。俺は駆け引きや騙しあいの類がとことん向いていないらしい。


「となると、例の交通事故にも羽々音家が関わっていたのか?」

「え? 紗羅が轢かれかけたのはみんな知らないのか?」

「ああ。あの事故は単に君がトラックに轢かれて死亡した、ということになっている。その割には葬儀も行われないし、死体の行方もわからないのが不可解だったが」


 死体が出ないのは当たり前だ。俺は死んでいないのだから。けど、その言い方だともしかして、慎弥は俺の死について調べてくれていたのか?

 そう尋ねると「一応、友人だったからな」とぶっきらぼうに答えた。


「ありがとう、慎弥」

「やめろ、その顔で言われると微妙な気分になる。……しかし、そうなると話は色々変わってくるな」

「え?」


 俺の事故が関わっているのなら、状況に作為が見えてくるとのだと慎弥は言う。

 御尾悠人の行方を隠蔽するのはいい。だが、羽々音紗羅があの場に居合わせたことまで隠すのは何故か。

 事故と性転換、二つが同時に起こったのは本当に偶然か?


「一つ疑問が出れば、いくらでも派生していく。しかし、悠人。この件はあまり追求しない方がいいかもしれないぞ」


 ぎしり、と再び椅子に背を預け、慎弥が言った。


「話が大きすぎる。悪魔に、呪い。それだけでなく、現実に起きた事故の内容を隠蔽する、羽々音家の影響力。下手に突けば、出てくるのは蛇では済まないかもしれない」

「紗羅たちに直接聞くのもやめろって事か?」

「ああ。もしも悪い方の想像が正しければ、最悪口封じに動かれる可能性もある。なら、相手を刺激しない方がいいだろう。信じるのなら猶更だ。君が聞いた話に嘘がないのなら、余計な心配をかける必要もないのだから」


 それは、確かにその通りだ。

 けれど、なんとなくすっきりしなくて、俺は慎弥に何も答えられなかった。

 何もしない。それは、結局何もできないのと変わらないのではないか、と。

 慎弥はそんな俺を見て「あー……」と唸り、それきり黙り込む。


 と。がたんと、家の中から物音がした。何だ?


「ああ、妹が帰って来たんだろう」

「妹……そういや、いたんだっけ」

「ああ、一つ下にな。学校は違うが……と、そうだ。ちょっと待っててくれ」


 何かを思いついたらしく、慎弥はそう言うといきなり立ち上がった。そして返事も待たぬまま部屋を出ていき、直後、隣の部屋あたりから何やら会話を交わす気配。

 そして、しばらくして戻ってきた彼は手に何かを持っていた。


「それは?」

「秘密兵器。少しは役に立つんじゃないかと思ってな。以前妹にやったのを思い出して取り返してきた」


 差し出されたそれをまじまじと見つめる。どうやらそれはペンダント、あるいはお守りのようなものらしかった。平べったい半透明のボディの中にきらきら輝く六芒星が浮かんでいる。


「なんかパチモンっぽいけど」

「一応、霊験あらたかな一品……って触れ込みのアイテムなんだぞ。まあ、どこまで効力があるかはわからないが、悪魔とかそっち系の相手になら多少は効果があるかもしれん」

「効果って、触ると弾かれるとか」

「ああ、そんな感じだ」


 そんな感じって、適当だな……。


「仕方ないだろう。実証するわけにもいかないんだから。まあ、鰯の頭もなんとやらと言うしな。信じて使ってみるといい」

「あ、ああ。じゃあ、ありがたく」


 俺はそのペンダントをとりあえず首にかけておくことにした。

 それから慎弥にもう少し詳しい話をしていると、スマートフォンが着信音を響かせた。


「もしもし?」

『あ、悠奈さんですか? 今、どちらにいらっしゃいますか? もうすぐ夕飯のお時間なので、よろしければお迎えに上がりますが』


 あ、もうそんな時間か。俺は慌てて、凛々子さんに近所のわかりやすい場所の住所を伝え、通話を切った。

 すると、難しい顔をした慎弥が俺に尋ねてくる。


「なあ、悠人。GPSって知ってるか?」

「へ? 知ってるけど、それが何か?」

「いや、いい。それより、僕も一応、できる範囲で調べておくから連絡先を教えてくれ」

「ああ、わかった」


 慣れない端末に四苦八苦しつつ、慎弥と連絡先を交換し、彼の家を出る。それから場所を移動して凛々子さんの運転する車に乗った。


「すみません、わざわざ来てもらっちゃって」

「いいえー。でも、随分遠くまで来られたんですね」

「ええ、まあ」


 こちらを振り返らないまま尋ねてくる凛々子さんに生返事で答えた。目的を正直に言うわけにもいかないので、他に答え方が思いつかなかった。

 と、凛々子さんは変わらない調子で、


「まさかとは思いますけど、ご自宅には行かれてませんよねー?」

「え。あ、はい。もちろんです」

「そうですかー。ならいいんですけどー」


 ただの雑談、だよな?

 実際、自宅には行っていないが、タイミング的にどきりとしてしまう。胸の内を探られているのではないか、なんて。

 そんな俺の内心を知ってか知らずか、凛々子さんはそれ以上、詮索してこなかった。

 羽々音家に戻った時には、紗羅たちは既に食事を終えていたので、俺は一人で夕食をいただき、風呂に入った。結構歩いたので腿の辺りは軽くマッサージをしておいた。


「……ふう」


 部屋に戻ると一息つく。

 ……慎弥との会話で収穫があったのは、結局このペンダントくらいか。

 例のややうさんくさいペンダントは、風呂の際にいったん外したものの、また首に掛けなおしている。今の自分の容姿を考えればまあ、アクセサリーとしても悪くはない。

 これにどの程度の効力があるのか。これを使う必要はこの先出てくるのか。

 使わずに済めば一番いいのだが。

 そんな事を思っていると、部屋のドアがノックされた。


「紗羅か?」

「うん。入ってもいいかな」

「ああ」


 ここ数日、恒例となっている夜の相談。今日は俺が外出したせいで若干時間が遅いが、律儀に習慣を守ってくれたらしい。

 部屋のドアが開き、パジャマ姿の紗羅が入ってくる。


「こんばんは、悠奈ちゃん」

「ああ。……って、紗羅? なんか顔が赤くないか?」

「え? そう、かな?」


 そういって小首を傾げる仕草はいつも通りだが、頬がほんのり上気している。別に風呂上りというわけではないはずなのだが。

 もしかして風邪とか?


「転校初日で疲れたんじゃないか? 今日はもう休んでも……」

「大丈夫だよ」


 答えながら、紗羅は部屋の椅子へと腰かける。いつも通り話を始めようというポーズだ。


「それより、悠奈ちゃんとお話がしたいな。今日は殆ど顔も見られなかったから」

「……わかった。体調が悪くなるようならすぐ切り上げるからな」


 そんな紗羅の態度に、俺は仕方なく頷いたのだった。

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