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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
五章 私と彼女と魔女のたまご

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慎弥とデート? 1

 今日の天気は晴れ。

 雨が降ってなくて良かったと考えていいか、空を見上げながら首を傾げる。


「……全く、強引に決めてくれたな。すまない、悠奈」

「ん、私は別に。日曜日だしね」


 言って微笑む私に、苦い顔だった慎弥も態度を和らげてくれた。


「ありがとう。なら、今後の方針を決めるとするか。何か希望はあるか?」

「うーん、そうだなあ……」


 お腹も空いてきたから、とりあえずご飯かな。

 そう考えてはたと気づく。これ、デート的にはどうするのが正解なんだろう。

 紗羅の場合、ご飯が食べたいなら素直に希望を告げてくれる。これは体質の問題もあるけど、ご飯以外で用事があるときも同じだ。

 それ以外の時は……。


「慎弥の行きたいところでいいよ」


 こんな感じの返答が多い。

 さて、慎弥はどんな反応をするかと窺うと、はあ、とため息を吐かれた。


「面倒くさい返答はやめろ」

「む」


 仕方なく、ご飯が食べたい旨を告げる。

 ……若干、面白がっているのが顔に出ていただろうか?

 私の返答に頷いた慎弥は、特に何も言わず道の一方へ歩き出した。


「どこかあてがあるの?」

「いや、ない。店が多い方向に歩いているだけだ」

「ですか」


 頼りになるのかならないのか。


「この辺で美味しいお店は?」

「と、言われてもな。女子が好むような店は知らないぞ」

「いや、普通に慎弥が行くお店でいいよ」


 元は男だし。牛丼屋だろうとラーメン屋だろうと抵抗はない。

 あ、でもコートにラーメンの汁が飛ぶのは避けたい。


「じゃあ、僕が時々行く定食屋でどうだ?」

「異議なし」


 慎弥の先導で、件の定食屋へ向かった。

 すると、自然に半歩遅れるような形になるのだけど……慎弥が時折、私がついてきているか横目で確認してくれているのがわかった。

 そういえば、並び方も自分が車道側に来るようにしてるな、こいつ。

 ちょっと意外な感じ。

 私が、紗羅相手に同じことをやれるか、と言われたら怪しいと思う。


「慎弥って、女の子と歩くの慣れてるの?」

「は? 何だ、急に?」


 訝し気な声を出しつつも答えてくれる。


「慣れてるとしたら澪のせいだろう。あいつは危なっかしいところがあるからな」

「ああ、なるほど」


 姉妹のせい、か。

 小さい頃はもちろん、現在でも学校以外では兄妹で行動する機会が多いだろうし。その答えは納得だ。

 思いつくままに話し、周りへの注意が散漫になる澪ちゃんを、慎弥が眉を顰めながら注意する……そんな光景が目に浮かぶようだった。


「仲がいいんだね」

「このくらい普通だろう。ただ、まあ……」


 慎弥の視線が少しだけ上を向く。


「二人きりの兄妹だからな」

「……ん」


 目的のお店に着いたのは、そのすぐ後だった。

 幸いテーブル席が空いていたので向かいあって座り、私は空いている椅子にコートや鞄などを置かせてもらう。


「何にしようかな……」


 定食に丼もの、それから汁物……。

 町の定食屋さんっぽくメニューは豊富で、思わず目移りしてしまう。狙うなら、あまり食べる機会のないこってり系かな……。

 悩んだ末、私はカツ丼を注文。慎弥は豚の生姜焼き定食を頼んだ。

 注文時、お店のおかみさんは私を見て、


「お嬢さん、丼はご飯結構多いけど、減らす?」

「ええと……頑張ります」


 ちらっと他のお客さんの様子を盗み見て、お腹の減り具合と相談しつつ返答。おかみさんは笑って「はいよ」と頷いた。

 彼女はそれから慎弥を見て、


「可愛い彼女さんだね」


 意味ありげに、にやっとしてから去っていった。


「そういう関係じゃ……ない、わけでもないんですが」


 少なくとも対外的にはそうなっているわけで。

 慎弥は微妙に困った様子で口を濁していた。


「……私たちって、客観的に見てカップルっぽいのかな?」

「それは僕に聞かれてもな」


 しばらく待つと料理が運ばれてきた。

 カツ丼の蓋を開け、湯気の立つカツを一切れ持ち上げながら呟くと、慎弥はあっさり返答を放棄して見せてから、小さく付け加えた。


「まあ、自然体には見えるのかもしれない」

「それはそうだね」


 事前に想像していた通り、こうしてデートの振りをしていても特に緊張していない。慎弥がどういう奴か私は知っているし、逆に慎弥は私の人となりを熟知している。


「今日の君には驚かされたが」

「そう?」

「ああ。あんなお嬢様めいた態度も取れたんだな」


 円さんと会話していた時のことか。


「私のは物真似だよ。紗羅の家にはお手本が一杯いるから」

「もちろん、それは知っている」


 うわ、はっきり言われた。

 そこで慎弥は「だが」と続ける。


「それなりに説得力はあった。例えば、あの人には服やコートの値段もわかるだろうし。君自身も努力したんだろう?」

「……ん、まあ」


 自慢できる程だとは思わないけど、褒められて悪い気はしなかった。

 照れ隠しにカツ丼を口に運ぶ。

 ……うん、この胃にガツンと来る感じがいい。カツを一口齧ってはご飯を頬張り、気分転換として卵に隠れた玉ねぎを味わう。

 そんな私を慎弥がじっと見つめる。

 私は彼を何気なく見つめ返し、呟いた。


「……生姜焼きも美味しそうだね」

「……少し食べるか?」

「いいの?」


 催促したつもりはなかったが、彼は肉を半分くらいにカットして寄越してくれた。代わりにカツを一切れ慎弥のご飯へ乗せると、「澪と似たようなことをするな」と苦笑された。


「その、なんだ」


 彼はそのまま箸を置くと、私に告げた。


「君が女なら良かった、と少しだけ思った」

「……慎弥」


 こいつがそんなことを言うとは思わなかった。

 かすかに甘酸っぱい、愛の告白に聞こえなくもない台詞。

 私は目をぱちくりさせて、


「私、女の子だけど」

「いや、それはそうだが……」


 慌てて言い繕おうとする彼にくすりと笑みを浮かべる。

 もちろん、意味はわかってる。

 だからこそ驚いたのだけど。


「ちなみにこの会話、紗羅に全部伝わるからね」

「な」


 絶句する慎弥。良い反応だ。


「ちょっと待て。いや、君たちの関係を考えれば当然だが。その、なんというか。……やましい意図はないことを羽々音さんに伝えてくれないか」

「大丈夫。紗羅もわかってくれるよ。というか、そこまで驚かなくても」

「そう言われてもな……驚くだろう、普通」


 慎弥の中で紗羅はどういう扱いになっているんだろう。

 聞いてみたい気もするけど、今、尋ねるとそれも紗羅へ筒抜けになる。さすがに慎弥が可哀そうだ。


「慎弥でも、女の子に興味あるんだ?」


 やや話題を方向転換する。

 彼もほっと息を吐き、話に乗ってきてくれた。


「全く無い、というわけではないな。積極的な興味もないが、気の合う相手なら欲しい、という気持ちはある」

「あー」

「それに、円さんの様子を見ると、君を紹介しなければどんどん話が進みそうだった」


 確かに。ある程度、私がある程度うまくやれたから良かったものの。円さんは慎弥に対して「この優良物件を逃すな」的オーラを発していたような気がする。


「それは、君がやり過ぎたせいだ」

「そう言われても、私もいっぱいいっぱいだったんだよ」

「知ってる。おかげで、しばらくは追及を逃れられそうだ」


 円さんには彼女だと認識してもらえたので、今後は私自身が彼女に会わなくても「関係は続いている」と言うだけで誤魔化せる。

 だんだん疎遠になっている感を装いつつ、適当な頃あいを見計らって「別れた」ことにすれば、それまで半年か一年は、相手を宛がわれなくてすむだろう。


「タイムリミットをはっきり認識できたのは収穫だ。それまでに、何かしら別の手を打つさ」


 別の手、か。

 本格的に彼女を探すつもりなの、かな?

 だとしたら……こいつの特殊な性格を許容してくれる相手が見つかるといいんだけど。

 頑張れ、慎弥。

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