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ゆりこめ ~呪いのような運命が俺とあの子の百合ラブコメを全力で推奨してくる~  作者: 緑茶わいん
四章 俺と彼女と神との契り

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戦いの終わり

 金属の衝突する音が、境内へ立て続けに響く。

 悠華の接近は、やっぱり私の火球では止まらなかった。だから、近づいてくる彼女と私の間に紗羅が割って入り、硬質化させた両手で薙刀を捌く。

 そうなると私に介入の余地はなく、見守ることしかできなくなった。


 今のところ、紗羅はうまく攻撃を捌いている。でも、戦いが悠華有利で進んでいるのは私の目にも明らかだった。

 悠華の薙刀は紗羅の身体に届いていないものの、時折、ウェディングドレスの端を切り裂いている。身体強化を施し防御に専念してもなお、悠華の技が紗羅を上回っているのだ。

 真昼のように力任せの戦い方をしてくれれば、あるいは悠華の武器が剣であったなら対処のしようもあったかもしれない。

 けれど、悠華の攻撃は速く的確で、しかもパターンが豊富だった。

 斬撃、突き、薙ぎ払い、石突きによる打撃……薙刀による攻撃方法は多彩で、先が読みにくい。長柄であるという点もまた、悠華と紗羅の体格差を補っている。

 このままだと、いずれ紗羅は。


「ね、悠奈ちゃん。気づいてる?」

「……え?」


 薙刀を捌き続けながら、紗羅が声をかけてくる。


「華澄さんが動かない理由。身体から腕を削ってまで節約してたこの子が、今こんなに戦えている理由」

「……ああ。うん、わかってる」


 答えて、私は華澄に視線を向けた。

 最初の位置から一歩も動かぬまま、ご神体を抱きしめ続ける彼女。彼女もまた未だ妖狐の姿を保っているが、戦わないならどうして変身したのか。

 どうして、悠華は彼女にご神体を預けたのか。


「華澄の力を貰ってるんだよね。前に私たちがやったみたいに」

「うん。たぶん、あの石がリンクを作ってるんだと思う」


 そうでもしないと悠華は戦えない状態だということ。なら、無防備な華澄を狙って無力化してしまえば……。


「でも、それは駄目だよ。無抵抗な華澄を傷つけられない」

「悠奈ちゃん」


 続けて何かを言おうとした紗羅が、悠華の一振りで吹き飛ばされた。

 すぐ傍で尻もちをついた彼女を助け起こすと。


「ほう? お主らにそんな余裕があるのか? その態度は、覚悟してこの場に立った華澄に対して失礼ではないのか?」


 私たちを見下ろしながら、少女が冷たい声で言った。


「悠奈様。華澄は構いません。たとえ殺されようと、覚悟の上です」


 敵に諭される、なんて不思議な話だけど。この戦いが憎しみあってのものではないことを証明しているとも言えた。

 それに、悠華たちの言っていることもわかる。神のハーレムに取り込まれるのが嫌なら、形振り構わず抵抗するべきだ、と。

 でも、私は彼女たちに首を振る。


「私たちの目的は『ただ勝つ』ことじゃない。誰も殺さずに勝つことだから」

「……そうか」


 気づけば悠華は私たちのすぐ傍まで辿り着いていた。

 紗羅の意識はある。私に支えられながら立ち上がることもできたが、両手の硬質化は解けてしまっている。すぐに接近戦に戻るのも無理だろう。


「なら、これで終わりにしようか」


 きっと顔を上げた紗羅が薙刀を睨む。刀身を纏う炎が吹き散らされ、刃が砕けたところで、紗羅がふっと身体の力を抜いた。


「……ごめんなさい、これが限界」

「わかった。ありがとう、紗羅」


 冬服姿に戻って気絶した紗羅をそっと横たえて、私は再び立ち上がった。


「場所を変えてもらってもいいかな?」

「よかろう」


 鷹揚に頷いた悠華と共に、再び石畳の上で対峙する。あいだの地面は悠華のせいで荒れていて、真っすぐ近づこうとすると足を取られかねない。

 ……その程度の障害が、悠華に通用するかはわからないけど。


「後が無くなったな、悠奈」

「うん、でも、まだやれるだけやる」


 言って私は右手に魔力を集中、火の球を生み出した。それを見た悠華はため息を吐く。


「馬鹿の一つ覚えか。それでは付き合ってやる気にもなれん」


 三度生み出された薙刀が突きつけられる。


「いや。それはどうかな……?」


 不敵な台詞を吐いてみる。でも正直、自分でも「この先」が上手くいくかはわからない不安から出た言葉でもあった。

 今回は左手からは火球を出さずに、突き出した右手を支えるように掴む。

 照準は、悠華のやや斜め上。

 ……ちょっとだけ、ズルさせてもらおう。


「悠華。避けたらどうなるか、わかるよね?」

「……ほう」


 言った傍から華澄を狙った攻撃。だけど、これは本当に華澄に当てるのではなく「これから華澄を狙うよ」と宣言するのが主目的。

 悠華にとっても華澄は大事な相手。流れ弾から庇う余裕はなくても、来るとわかっている攻撃は防ぐはず。そう思ったけど正解だったらしい。幸い、攻撃前に近づかれてザクリ、ということもなかった。

 私は火球を膨れ上がらせ、炎に変える。更に手のひらから新しい炎を生み出すと、巻き込むようにして押し出した。


「これは……無茶なことを」


 吹き付ける炎を前に、悠華は薙刀を石畳に突き立てた。彼女は両手を前に差し出すと五本の尻尾を逆立たせて障壁を作る。

 炎と障壁が衝突した。

 防御は破れない。でも、悠華をそこへ釘づけにできた。後は、右手から炎を出し続けるだけ。

 魔力を次々と右手に送り込む。

 ……今の私には、悠華みたいに器用な攻撃はできない。火の球だって自分で投げないと攻撃にならない。でも、やることが炎を出すだけで、相手が動かずに受けてくれるなら、なんとかなる。

 なんとか、できた。


「っく、うう……」


 できたけど、消耗と反動もすごい。変身のおかげで魔力の扱いは楽になったけど、それは裏を返すと暴走しやすくなったということ。

 特にこうやって、断続的に魔力を行使していると、時間と共に加減が狂いやすくなっていく。

 頭がずきずきと痛み始め、体温が上昇して汗が浮かぶ。


「その辺りで止めておけ。下手をしたら死ぬぞ」

「……なら、負けを認めてほしい、なっ」


 身体がふらつきそうになるのは必死に堪える。右手を左手で支えておいたのは正解だったみたいだ。

 疲労で視界までかすみ始めるが、まだまだ。体力と魔力を使い果たすのは慣れているのだ。こんな途中で倒れるわけにはいかない。

 倒れるのは、全力でやりきって気絶する時だ。


「……全く、このわからず屋が……っ」


 吐き捨てる声と共に、ぴしり、と小さな音。するとその音に悠華がかすかに身を震わせる。

 見れば、彼女の額にも汗が浮かんでいる。

 ――辛いのは私だけじゃない。


「……なら、我慢比べだね」

「………」


 全身が熱くて仕方ない。なのに背筋には寒気が走り、心臓はさっきからどくどくと鳴り続けている。身体が上げる悲鳴に冗談ではなく「死」が見える。

 でも、死なない。死にたくない。

 意識を保って、立っている間は死にはしない。生きてさえいれば後で休めるし、治して貰うこともできる。

 また、ぴしりとひび割れる音。


「意地、じゃ」


 悠華が歯を食いしばり、血を吐くように呟く。


「ここまでして引けるか。よかろう、最後まで付き合ってやる」

「ありが……けほっ、けほっ」


 咳き込んだ口から赤い唾が飛んだ。内蔵の方もやられ始めたらしい。

 でも、姿勢は崩さない。炎は止めない。


「お二人とも、もう止めてください! それ以上やっても……」

「なら、華澄よ。その石を手放すがよい。それでわらわたちの負け。悠奈と紗羅はこの地を去り、わらわは二度と顔を出せぬほど衰弱して終わりじゃ」

「……そんな、そんなこと……」


 できるわけない。

 涙を零しながら蹲った華澄は、そこで何かに気づいたように表情を変える。彼女が恐る恐る、ゆっくりと手を開くと――全体にひびが入り、今にも砕けそうなご神体があった。


「あ、ああ……」


 絶望の悲鳴を上げながら、華澄がその場に座り込んだ。彼女の様子に胸がちくりと痛む。

 ――いや。痛んだのは罪悪感のせいじゃなくて。


「う、あ――」


 どん、と。

 殆ど衝撃のような痛みが胸に生まれ、意識が遠のく。私はかろうじて気絶しないのが精いっぱいで、炎も耳も尻尾も失いながら地面に倒れた。


 同時に。

 ぱきん。

 決定的な音と共に、華澄の手の中でご神体が砕けた。

次回、四章エピローグです。

そのあと閑話ふたつ、登場人物まとめを投稿後、数日おいて五章に移る予定です。

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