オッサンとの生活。
三人で暮らしはじめてから半年が過ぎました。
なんてゆーかさ、
もう、夫婦みたいな感じだよね。
ドズは釣りが上手くて、食べれるキノコや山菜や果物の知識が豊富で、食卓が凄く豊かになった。
私の作るご飯もいつも美味しいって食べてくれるし、ゴミを埋めたり、洗濯なんかも手伝ってくれる。
フェンリーの生え替わりの鱗取りなんかも手伝ってるし、フェンリーの背中を洗ってあげたり、爪の手入れをしてあげてたり、本当に働き者だと思う。
ちなみに、この山に住んでる魔物からのドズの評価は
【近寄るな!危険!】
だ。
何故なら、ドズに何かしようとすれば、防御魔法を通して私達に詳細が伝わる様になっているからだ。
一度、ドズに手を出そうとして防御魔法に弾かれ、執拗に攻撃を仕掛けたワイバーンは、ドズが見てないタイミングで私が全力で仕留めた。
ドズの存在を気にしてた魔物が多かった為、その瞬間の光景は瞬く間に広がった。
よって、魔物達の間では
【あいつに手を出せば、長から瞬殺される】
と常に半径300メートルは離れるように警告が出されているらしい。
だが、一部の私の信者達は違う。
私がどれほどドズを大切にしているのかを理解し、ドズが歩く先々に仕留めた兎やら、ドズが届かない所にある木の実や果実を置いて行ったりする。
ドズはそれにちゃんと気づいて
【どこにいるか分からないが、ありがとう!助かる!】
と必ず声をかけるらしい。
更に、必ず私に報告する。
【どこどこの、何の木の側にこれが置いてあった。機会があればサユからもお礼を言ってくれると助かる】
と詳しく報告する。
決して自分の成果にはしない。
そして、私はその獲物や果実に残された匂いをかぎ分け
【ドズに優しくしてくれてありがとう。嬉しい。】
と伝えに行く。
たまに皆へのお裾分けを持って。
そんな感じで楽しく、幸せに毎日を過ごしている。
更に最近、こんな毎日に追加された時間がある。
きっかけは雨の日に洞窟内に響いたフェンリーの一言だった。
「なぁ、サユもドズも暇だろ?俺の幼少期の鱗を使ってアクセサリーなんか作ったらどうだ?二人とも器用だし、売れば金になるだろ?そろそろ新しい服なんか欲しいんじゃないか?」
確かに。
ドズに新しい服を買ってあげたい。
今ドズが着ているのは、ボロボロになった服を魔法で修復して、私が集めた布切れを魔法で組み合わせた服だ。
着替えは別の布切れと毛皮で作った野性味溢れる服擬きしかない。
更に、雨の日は暇だ。
三人でまったりするのも良いが、皆で出来る趣味の様なものがあれば、生活に張りが出るだろう。
だが、気になることがある。
「フェンリーの鱗を使って平気?防御力アップとか、回復力アップとかの機能が付くと面倒なんだけど。しかも、街に入れないのにどうやってお金にするのさ?」
私の意見に頷くドズ。
私達二人の意見を聞いて頷きながらも返すフェンリー
「幼少期のだから平気だ。能力アップなんかのプラスは付かん。ただの綺麗な金属風の板みたいなもんだ。幼少期のは今に比べれば柔らかい上に普通の金属でも楽に加工出来るし、幼少期だけでも数十万枚あるはずだからな。量は充分だろう。隠してあるから出すのに少し手間取るがな。
売るのは街に行かなくても良いだろう。山の麓を通る、商隊を捕まえて売り込めば良い。ちゃんと、ドズにはワシの防御の鱗があるし、サユが姿を隠して見守っておれば大丈夫だろう?」
うーん。
確かに、魅力的な話だけど、ドズが危険な目に会うのは嫌だなぁ。
まぁ、私が見守って、フェンリーの防御魔法の鱗があれば無敵だとは思うけど。
心配は心配だよね。
またドズがあんな風にボロボロにるのは見たくない。
下手をしたら、私自身がぶちギレる可能性も高い。
と思っていたのだが、ドズは違ったらしい。
「それ、良いな!俺、細工には自信あるし!サユも手先が器用だかんな!きっと良いものが出来るぞ!二人が見守ってくれるんなら俺は最強だ!逃げ足も早くなったし、売るのは俺に任せろ!」
何だか凄くやる気になってるし、私も楽しみになってきた。
ドズは私が守るから問題ない。
よし、やってみよう!
けど、ドズさんや。
自分の力じゃなくて逃げ足に自信があるのね?
前よりずっと良い顔付きになったから良いけど。
相変わらず可愛いオッサンだなぁ。
分かってる。自分でも頬が緩んでいるのは分かっているから。
そんな生暖かい目で私を見るな!フェンリー!
その後、フェンリーに鱗を出してもらって、ドズとフェンリーを交えて三人でデザインを決めていく。
そのデザインを元に私とドズで加工していく。
髪留めやブローチ、ペンダントトップ等、可愛らしい物からシンプルな物まで。
二人で得意な部分を分担したり、相談しながら作業を進めていった。
そして、今日はその出来上がったアクセサリーをドズが売りに行く日だ。
フェンリーが商隊が近づいているのを察知し、山の魔物たちからの報告も受け、間違いないとの判断だった。
私は姿を隠してドズの少し後ろをついていく。
ドズも私もドキドキしている。
売れるのか。それ以前に攻撃されないか。
不安ではあるが、珍しくドズが積極的に自分で決めたことだから私たちは応援する!
私は見守る!
そして、何かあった時にはすぐにドズを守る!
と気合いを入れて合流ポイントへ急ぐ。
商隊が見えてきた。
「止まれ!」
商隊の人間よりも先に雇われの冒険者、護衛役に見つかったらしい。
大丈夫。あれくらいなら一捻りだ。
内心余裕の私に対し、ドズはビビったらしい。
震える声で相手に告げた
「待ってくれ!攻撃しないでくれ!買い取って欲しいもんがあるだけなんだ!ドラゴンの幼少期の鱗を使ったアクセサリーなんだ!見るだけでも良い!」
と、両手を上げて叫ぶドズ。
相手の冒険者がドズの顔に気づいたらしい。
「んだよっ!お前【裏切者のドズ】じゃないか。こんな所で会うなんてな。情けないな。仲間裏切ってまで生き延びて、あげくの果てに《ドラゴンの鱗》なんてバッタ物売るなんてな。」
とドズを蔑んだ目で見る冒険者。
私はあいつをブラックリストに入れた。
その時
「どうしたんじゃ?ドラゴンがなんたらと聞こえたんじゃが、隠れた方が良いのかい?」
商隊の馬車の中からお爺さんが出てきた。
冒険者は
「ああ、気にしなくて良いですよ。このクズが《ドラゴンの鱗》なんてバッタ物を売りたいなんて言ってるだけですから。」
と告げた。
が、商隊のお爺さんの目が鋭く光った
「何じゃと?《ドラゴンの鱗》?本当かい?」
突然話を振られたドズは驚きつつも、返事をした
「え?あ、えっと、《ドラゴンの鱗》じゃない。《幼少期のドラゴンの鱗をアクセサリーに加工した物》だ。幼少期の鱗だから能力アップなんかも無い。でも、綺麗な鱗に花や動物なんかの彫り物がしてある。見るだけでも良い。納得できる品なら買ってくれ。」
そう言って見本を手に取り、お爺さんに見える様に差し出すドズ。
お爺さんは近づいてきた冒険者を手で止め、ドズの手からブローチを受け取った。
軽く叩いたり、じっくりとブローチを観察した後、お爺さんは声を上げた
「素晴らしい!こんなに素晴らしい彫り物、久しぶりに見たぞい!デザインも良いが、軽くて艶やかで不思議な色合いのこの素材!ドラゴンの鱗じゃなかったとしても、何の問題もない!これは流行るぞ!いくらじゃ?いくらで売ってくれる?何個あるんじゃ?何個売ってくれるんじゃ?」
おい、爺。
近い。ドズに近づきすぎだ。
ドズがビビってるから離れて。
ってか、思ってたよりグイグイ来るな、爺。
だから、近いって。
私の許可なくドズに触るなってば!
なにこれ、凄くストレス溜まるわ。
そんな私の気持ちに気づかないドズは嬉々として値段、個数の交渉に入った。
最初は高めからだ。
手作りだから、そんなに個数も出来ないし、希少価値があった方が良いだろうと三人で決めたことだ。
なのだが、高値のはずの最初の値段で爺が頷いた。
マジか。
そんなに高値で買い取るの?
正気か?
そう思ったのはドズもだったらしい。
「返品や交換は受けないぞ?それでも大丈夫か?」
うん。そうだね。それを言っておかないと。
後で文句言われても困る。
「問題ない!この質でこの値段なら私にかかれば即完売じゃ!」
とウハウハ顔の爺。
もっと高値で売り付ければ良かったか?
とも思ったけど、護衛を押し退けてまで話を聞いてくれる爺は貴重だろう。
ある意味当たりを引いたみたいだ。
「じゃあ、その値段で頼む。後、出来れば服なんかを売ってもらいたいんだが、アクセサリーの値段から引いてもらうのは可能か?」
そう。
商隊なら商品を沢山積んでるから、ドズの服を手に入れられる。
アクセサリーのお金でその場で買わせてもらえば良い。そう考えたんだけど、
「すまんのう。私の商隊はこんな感じの商品しか扱っておらんのじゃ。お前さんの服は無理そうじゃな。」
と爺は少し申し訳なさそうに商品を見せた。
その時、ドズが私から隠れるように爺に商品を指差した。
小声でなんか言ってる。
一応、ドズのプライバシーもあるし、女には分からない男に必要な物があるのかもしれないから、無理には聞かない。
私はドズの周囲を最大限に警戒するだけだ。
そして、何かの商品を包んで貰い、嬉しそうにお金と共にそれを受け取ったドズ。
帰ろうとしたドズに冒険者が声をかけた
「裏切者が。冒険者の恥さらしめ。」
あ、ダメだこいつ。そう思った次の瞬間
「また声をかけてくれ!いつでも良い!いつでも買うぞ!この冒険者は二度と雇わないから安心してくれ!」
爺が叫んだ。
おい、爺。
お前、まだ街には着いてないのにそんな事言って良いのか?
「おい!じーさん!護衛の俺にそんな口聞いて良いと思ってんのか!?まだ街までは距離があんだぞ!?分かってんのか!!」
ほら、冒険者が怒鳴った。
「馬鹿もんが!私に何かあれば、お前さんの評判はガタ落ちじゃろうが!もし、手を抜いたならしっかりと評価してやるからのう!覚悟せい!商人の大切な取引先を潰そうとするとは、この愚か者が!恥を知れ!」
怒鳴った冒険者に倍の雷が落ちた。
ドズは苦笑しながら、どうすれば良いか悩んでるみたいだったけど、爺が手で 行け と合図してくれたので、頭を下げて山の中に入ってきた。
山をかけ登って少ししてからドズが口を開いた。
「サユ!高値で全部売れたぞ!やったな!」
嬉しそうに跳ねるような声で告げるドズが可愛くてしょうがない。
そう考えながらドズの前に姿を見せる。
「おわっ!そっちにいたのか!?俺、違う方を向いて話しかけてた」
なんて恥ずかしそうに頬を染めるもんだから、もう、たまらない。
ウチのオッサン、可愛すぎ。
そして帰ってきた洞窟でドズがそわそわしながら口を開いた。
「あのよ、俺、さっき買い物したからさ、俺の報酬からその分引いてくれ」
ああ。手にいれたお金は三人だ平等に分ける事にしたんです。
もとはフェンリーの鱗だし。
でも、加工は私とドズ。
売るのはドズで、護衛が私。
なので三等分。
私とフェンリーはお金を使えないので、ドズが何か良い物があれば、代わりに購入してくれる事になってる。
なので、先程のドズが個人で購入した物はドズを分け前から引かれます。
分け終わったお金をそれぞれの部屋に置きに行きます。
「あ、あのよ、サユ。ちょ、ちょ、ちょっと良いか?」
ってなに?
どうした?
吃りすぎでしょう?
なに?
またなんかあったの?
ドズの方を向いてみるとドズが真っ赤だった。
え?
もしかして!下着でも見えちゃってる!?
と慌てて確認したけど、別に見えてなかった。
ん?何で真っ赤なの?ドズ?
「あー、その、そのな、これ!これ、サユにやる!」
と押し付けられたのは、さっき買ってきたはずの包みから出された、可愛らしい紺に白と赤のお花が描かれた布。
それとその布の柄によく似た花が彫ってあるブローチだった。
「・・・え?・・・私に?」
突然の事で頭が回らない。
「あ、ああ!実は、初めて彫ったブローチがそれなんだ。サユに似合うやつって自分で考えて。初めてだったから他のより下手くそだけど、フェンリーの鱗を見た時、サユに似合いそうだと思ってよ。
この布も見た瞬間にこれだ!って。俺が彫ったブローチにそっくりだし、サユに似合うって思って買ったんだ。
あ、気に入らなかったらいいんだ!無理に受け取らなくて!俺が勝手に買っただけ・・・」
言葉が途切れ、ドズの目がこぼれ落ちそうになった
「サユ?気に入らなかったか?
次はサユの好きな柄を買うから。サユの欲しい物を買うから。サユの好きな模様を彫るから。泣かないでくれ。泣かないでくれ。サユ。」
は?
泣かないでくれ?
なに言って・・・
頬を触ると涙がこぼれ落ちた。
自分でも驚いていると
焦って泣きそうなドズが歪んで見えた。
違う。泣きたいんじゃない。
ドズを泣かせたいんじゃない。
私は必死に想いを言葉にした。
「ドズ、ドズ。違う。違うの。嬉しいの。ドズからの初めての贈り物。嬉しいの!ドズが作ってくれたブローチも、ドズが選んでくれた布も。嬉しいの!嬉しい!ありがとう!ありがとうドズゥ!」
もう、嬉しすぎて、幸せすぎて、胸がいっぱいで言葉が出てこなくて、涙が止まらなかった。
この世界に生まれて、物心ついた頃から泣いたことなんて無かったから涙の止め方が分からなかった。
幸せで本当に涙が出るなんて、知らなかった。
私は何度も ありがとうとドズの名前を繰り返した。
泣いてる時のドズに負けないくらい、ボロボロと涙をこぼし、鼻をズビズビ鳴らしながら。
ドズは目に涙を浮かべて、鼻をスンッと鳴らしながら、嬉しそうに、私の背中を優しく撫でてくれた。
私が泣き止んだのは一時間位泣いてからだった。
目は赤く腫れぼったいし、喉は痛いし、鼻も痛い。
でも、凄く幸せな気持ちでいっぱいだった。
「泣くほど喜んでもらえるとは思ってなかった。嬉しい。サユが嬉しいって言ってくれて、俺、凄く嬉しい!
本当は洋服なんかも良いなぁって思ったんだけどな、大きさとか分かんないからよ。布ならサユがサユの好きな形の服に出来るだろ?それを着てくれたら嬉しいなぁって思ったんだ。」
ドズは照れながら、そう言ってくれた。
なので、夜なべして作りました。
オークの私にも似合う、体型がカバー出来るワンピース!
ドズが私のために買ってくれた布だから、魔法でなんて作らなかった。
自分の手で、色んな布で型紙を作りながら、全部手縫いで仕上げたワンピース。
目の下に隈が出来てるのはご愛嬌。
さて、朝起きてくるドズはどんな顔をしてくれるでしょうか?
ドキドキする。
似合わないなんて思われたらどうしよう。
目を擦りながらドズが起きてきた。
「おはよう、サユ。フェン、サユ?サユ、それ、その服、それって、俺の、俺が、俺が買った、サユの布?」
フェンリーへの挨拶、ぶった切ったよドズ!
「うん。そう。ドズが贈ってくれた、大切な布で作ったワンピース。昨日、夜通しで作ったの。ドズに見てもらいたくて。これ、このブローチも胸元の中央にワンポイントで着けてるの。どうかな?似合うかな?」
自分から言葉を求めるのは恥ずかしい。
けど、ドズに褒めてほしい。
きっと今の私は、目の前で赤くなってるドズより真っ赤になってると思う。
「あ、ああ!似合う!似合うぞ!サユ、す、凄く似合う!か、かわ、可愛いぞ!」
う~あ~!!
恥ずかしい!
照れてるのか吃ってるし、可愛いとか言ったこと無いんでしょう!?
イントネーション変だもの!
無理しなくて良いから!
なんて思いつつ、私の顔は盛大に緩んでいるんだろう。
だって嬉しいもの。
ドズに褒めてもらえて。
似合うって、可愛いって言ってもらえて
嬉しいもの。幸せだもの。
「おーい、目の前でイチャイチャすんの、止めてくれないか?ワシ、寂しいんだが。拗ねるぞ?」
なんて雰囲気をぶち壊してきたフェンリーだったけど、本当に寂しそうだったし、拗ねる気満々って感じだったので、その日は一日中、ドズと二人でフェンリーの機嫌を直すのに全力を尽くした。
時々、ドズが私を見て、照れたように
【ヘヘヘッ】
って頬をかくのが可愛いくて鼻血が出そうだったのは内緒。