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オッサンとの出会い。

あ、どうも。

フェンリーとのやり取りで色々とありましたが、結局はこの山の長になりました。

サユです。


長になってから1ヶ月弱。

オークが山の長になったと知った魔物達からの襲撃もやっと落ち着いてきた。


最初なんて本当に凄かった。

眠る間もなくやってくる魔物達。

大した強さの奴はいなかったから助かったけど、量が多くて本当に大変だった。


強い奴を狩りすぎると山の力が衰えちゃうから、強い個体はそこそこに相手をして

【必殺 拳骨げんこつ

にてお帰りいただきました。


これ、魔法を使っての拳骨げんこつだから、かなり痛い。

ドラゴンのフェンリーを叱る為に編み出した技で、ドラゴンさえ涙目になる。


ちなみに、中間や弱い奴等は逃げるならそのままで。向かい続けるやつは倒した。

全てを通して、調子にのってる馬鹿共は即死させてやった。


そのおかげで、今では果物や薬草なんかの貢物まで持ってこられる様になってる。


あねさん】

と呼ばれているのは非常に不本意だがな。

長と呼べ。長と。


まあ、今では山の奴等にも認められて、慕われてるから問題ないでしょう。

時々、やって来た余所者よそものを相手にするぐらいで、フェンリーと共に平和な日々を過ごしている。






はずだった。

突然、山の西端の方でウルフの叫び声が聞こえた。



「ヴルルルガァァァ!!!(人間が来たぞ!)」


とな。

え?

人間が来たの?

何でさ。

人間って、来ないんじゃないの?

困惑しながらフェンリーを見てみると


「うーむ。来おったか。人間にはこの山に入る時に【入る者は全て殺す】と宣言し、人間からは【絶対に入らない】と言葉を貰ってるのだがなぁ。

極稀ごくまれにいるんだ。ドラゴンを倒そうって馬鹿が。まぁ、ワシが相手をすると、この山を禿げ山にする可能性も高いからな。サユが行った方が良いだろう。」


とか簡単に言ってくれちゃってるけど、

前世で人間だった私に人間を殺せと?


「殺す必要はないぞ。散々に痛めつけて、【オークでさえ、こんなに強い個体がいる山】だと分からせてやれば良いだけだろうからな。」


なるほど。

それなら納得だ。

弱い筈のオークが私レベルに強ければ、山に入るのが怖くなるだろう。

適当に痛めつけて、魔法も使えるぞっとアピールもして、心を折ってやろう。

それなら出来る。やれる。

フェンリーに任せて禿げ山にするのだけは避けたい。


「分かった。私が行ってくる。適当に痛めつけて、山のふもとに叩き出してくる」


フェンリーに出陣する事を伝えてから、山の奴等に知らせる。


「ブギョョォォォォ!ブキョォォラァァァ!!!(長の私が出陣する!他の奴等は手を出すな!)」


ねえ。もう少しどうにかなんなかったのかな?

オークの鳴き声ってさ。

叫ぶ度に泣きそうになるよ。

フェンリーは人間の言葉喋れるから、普段は人間の言葉で話してるけど、他の奴等に対してはそうはいかないからね。

オークの鳴き声。テンション下がったわぁ。

今から出陣なのに。




西端を目指して全速力で走ること3分。

早いね。やれば出来る子なんだよ。私。


いた。あいつらだ。

全部で5人。

多分、冒険者のパーティだろう。


盾を構えたガタイの良い精悍なイケメン。

大きな剣を持ったキラキラしたイケメン。

ナイフを持ち周囲を一番警戒してるイケメン。

杖を構えたスタイル抜群の別嬪さん。

ウルフを担いだマッチョでもっさいオッサン。


って、はあ!?

何でこのメンバーの中にもっさいオッサンがいんの!?

謎なんですけど!?

ってか、武器は?

武器はどうしたの?オッサン。

ねぇ、腰に剣はあるみたいだけど。

ウルフを担いじゃって丸腰じゃねーか!!

すぐに殺せちゃうよ!オッサン!

もっと危機感持って!頼むから!


なんて考えてたら、周囲を一番警戒出来てた奴に気づかれた。

「見つけたっ!そこだっ!」

私が居た所に投げナイフが刺さる。


オッサンへのツッコミのせいで、出てくタイミング失っただけだよ!

と心の中で弁明しつつも、冒険者達の前に姿を現してやる。


何故か起こる笑い声。


「クッ、ハハ、ハハハ」

肩を震わせて笑う盾のイケメン


「お、お前、たかがオークに、オークに、あんなに警戒してたのかよ」

震える声で笑いながら言うキラキライケメン


「ふ、ふ、ふ、オーク相手に【見つけたっ!そこだっ!】ってナイフ投げたのね?ふ、ふ、ふ」

声真似までしちゃった別嬪さん


「オ、オークだっ!!剣!剣!」

ってウルフを落として必死に剣を握るオッサン


そして赤面した投げナイフのイケメン



って、待って!

笑う奴等もムカつく。

真っ赤になった投げナイフの奴もブッ飛ばしたい。


でもそいつらより先に、オッサン!

お前だよ!オッサン!

剣!剣!って!

オーク相手にどんだけビビってんだよ!


顔を真っ青にして両手で剣を構えちゃうの!?

何なの!?このオッサン!!

何でこのメンバーに着いて来ちゃったのさ!?


本当に、どうしたら良いか分かんないよ!

他の奴等はボコるけど、オッサンの扱い、超困るんだけど!


と、もだもだと頭の中で考えていたら、


「紛らわしいんだよ!お前のせいで笑われたじゃないか!」


と沢山のナイフを投げてくるイケメン。

全部避けることも出来るけど、避けるよりも、心を折りましょう。


まず、飛んでくるナイフを一つ残らず手で受け取ります。

そして、そのままお返しします。

勿論、ナイフは受け止めた瞬間に魔法で刃を潰し、深く刺さらないようにして。

この時、私はその場から一歩も動かずに全てのナイフを受け取ること。

更には全てのナイフを『投げてきたイケメンだけ』に当てるのがベスト。

当てはするけど、力は入れないで。刃が潰れていてもざっくり刺さっちゃうから。力を抜きつつ。

足をやっちゃうと逃げてもらえないので、急所を外した上半身を集中的に。

はい!血みどろになったイケメンさんの出来上がり♪


呻き声をあげる投げナイフのイケメンに

真剣な表情に変わった他のメンバー


そして、

「強い・・・強いオークだ・・・死ぬ・・・」

と顔がもはや土気色になっちゃったオッサン


もうほっとく事にしよう。そうしよう。

オッサンを気にしてると私のペースが狂う。


「デテケ、コノヤマ、ドラゴンノヤマ。オマエラ、ニンゲン、クルバショ、チガウ。デテケ。」


喋る魔物ってこんな感じかな?

私は既に人間の言葉はスラスラ喋れちゃうんで誤魔化しとかないと。

出てくかな?攻撃してくるかな?



「オークが馬鹿にしやがって!逃げるわけないだろう!お前を倒して、ドラゴンも倒すのは俺達だ!」


なんてキラキライケメンが言って、周りの奴等も

気合いが入った様に返事しちゃってさ。

こりゃ戦闘になるね。


チラッとオッサンを見てみたら、

『嘘だろ、お前ら。喋ったじゃん。このオーク喋ったじゃん!』

みたいな顔で私と仲間達を見比べてる。

ダメだ。ほっとこう。マジで気になっちゃうから。




魔法を撃ってきた別嬪さん。

防御魔法を纏わせた左手でその魔法を盾のイケメンへと弾き!別嬪さんには同じ魔法を2倍の威力でお返しします。

盾のイケメンはなんとか防いだみたいだけど、別嬪さんは防御魔法が間に合わなかったみたい。

直撃です。

ヤバイな。気絶しちゃったかも。帰すの大変そう。

なんて考えてたら、キラキライケメンが剣で斬りかかってきた。

避ける。

なんて事はせず、強化した素手で剣を叩き折り、驚いた表情のキラキライケメンの顔面を軽く殴る。

気絶は困るから軽くね。最低でも別嬪さんを抱える奴とオッサンを引きずる奴は確保しとかないと。


更に剣を持って盾を構えながらかかってきた盾のイケメンの盾を強化した拳で砕き、顔面に軽く拳を叩き込んで、ついでに剣を折っておく。


こんなもんかな。

ちなみに、私は一歩も動いていない。

魔法も使って見せたし、無傷で一歩も動ず、全てを軽く捻った。しかも武器も壊されるオマケ付き。

心も折れたかしら?

と辺りを見渡すと


「うわぁぁぁぁ!!強すぎる!皆、しっかりしてくれ!逃げなきゃ!殺される!」


と皆に駆け寄り、皆の体を起こしてあげてるオッサン。

良かった。腰は抜けてないみたい。

オッサンは走れるみたいだし、後はこいつらが別嬪さんを連れて逃げてくれるだけでいい。


殺さないのって疲れるんだよなぁ。

逃げれるようにしとくのも大変だし。

ふぅ。今日も1日、よく働いたなぁ。

夕飯はなんにしようかなぁ。


なんて、考えていたら


「チッ!逃げるぞ!お前ら!走れ!逃げるだけならなんとかなるだろ!

退け、オッサン!お前は囮にここに残れ!」


とオッサンから剣を奪い、私の前にオッサンを蹴飛ばし走り出したキラキライケメン。

別嬪さんを担ぎ、凄い勢いでその後に続いた盾のイケメンと投げナイフのイケメン。

あっという間に見えなくなったイケメン集団プラス気絶して担がれた別嬪さん。



そして残されたのは

口を開けてポカーンとしてる間抜け面な私。

更に私の前でポカーンとしてるもっさいオッサン。



お互いに顔を見合わせて

『何が起こったの?置いていかれたなんて嘘だよね?』

状態です。

どうすんの?

この空気。

ってか、オッサン、完全に置いてかれたんですけど。

あの野郎、オッサンの剣を奪ってったんですけど。

オッサンに死ねってか?

ああ、【囮になれ】って言ってたもんね。

そうだね。間違いないね。


あのクズ野郎共。

こんなにムカついたのは久しぶりだぞ。

腸が煮えくり返る。

警告してやったのに、自分達で勝手に勝負を挑んできて、手加減されたのにも気づかず【逃げるだけならなんとかなる】だと?

しかも、オッサンとはいえ仲間から武器を奪って丸腰にして囮にするだと?

調子にのるなよ!クソがっ!

ぶっ殺してやる。

あのクズ野郎共だけは許さん!





「グスッ、ズズッ」


あ?

何か変な音が聞こえる。

何だ?

私は今からあのクズ野郎共を瞬殺しに・・・


って泣いてる!?

オッサン、泣いてるよ!?

え?

ズズッって鼻水すする音?

ちょ、待って、オッサン、涙もヨダレも鼻水も出てる!!

完全にオッサンから汚ッサンにジョブチェンジしちゃってるから!

何なのさ!さっきまで、クズ野郎共を殺すことで頭が一杯だったのに!

オッサンのせいで、気が削がれたんですけど!



あ~あ。

もう、しょうがない。

このオッサンは軽く痛めつけて、山の麓に捨ててこよう。

オッサン弱そうだし、可哀想だから軽くね。本当に軽く。


そう決めて泣いてるオッサンに近づくと


「グスッ。置いてかれるなんて、俺ってヤツは、ズズッ 本当に、ダメだなぁ。ズズッ、もう、死ぬんだ。

カナリアちゃんに、プロポーズ、したかったなぁ。グスン 死にたく、ねぇ、なぁ、ズビッ

家を、買う金、そろそろ貯ま、るのになぁ、ズゾゾッ 」


あー!やりにくい!

完全に自分の世界に入っちゃったよ!

私なんて見えてねーよコレ!


誰だよカナリアちゃん!

ってか、オッサン、プロポーズ出来る様な女いるの!?

驚きなんですけど!?

まさか、お家を買うのはカナリアちゃんとの新居ですか!?

この、リア充野郎!

辞めた!軽くなんて辞めだ!

ボコってやる!

と心に決めて、更にオッサンに近づく


「ああ、スンッ 出会ってから5年。楽しかったなぁ。食事に買い物。ズビッ

カナリアちゃんは恥ずかしがりやで、【離れて歩いて】なんて言われてよ。ズゾッ 未だに手も繋げなくて。

ズズッ病気なお母さんの為に、グスッ 泣いてお金借りに来た、優しい子なんだよ。

ズビッ 俺が幸せにしてやりたかったなぁ。ズゾッ 小さくても良いからお母さんと住める家が欲しいなんて言って。ズズッ 本当に、優しい子・・・・・」


「ダウト!!!!オッサン、それ、ダウトォォォォ!!!!」


魔物らしい言葉使いなんて忘れて、オッサンの言葉をぶったぎり、全力で言い放った私の言葉に驚くオッサン。

だがな、驚いてる場合じゃねぇよ!オッサン!


「ちげぇ!それ、ちげぇから!絶対に嘘だから!騙されてるから!オッサン!」


と全力で語る私を前にオッサンは


「騙されてない!カナリアちゃんは優しくていい子なんだ!」


と鼻水をたらしながら叫ぶオッサン。


「ぜってぇ騙されてるから!あれだろ!?オッサン、カナリアちゃんと買い物と食事しか行ってねーんだろ?んで支払いは毎回オッサンなんだろ!?

5年も貢いで手も握らせてくれず、離れて歩けって、照れやさんのレベル完全に越えてッから!!オッサン、財布にされてるだけだからぁぁぁぁぁ!!

しかも、病気のお母さんの為に金貸せってか!?普通の女なら、女友達か親族、もしくはギルドで借金するなり仕事増やすなりするわ!!オッサンと出かける時間もねーくれーに働くわ!!

更には母親も一緒に住める家が欲しいだぁ!?ちげぇよ!それ、一緒に住む名目にしてオッサンに病気の母親押し付ける気だからぁぁぁぁ!!!」


全力で一気に言い切り、肩で息をする私。


「そんな・・・。だって、楽しいって、俺と出かけるの楽しいって、言ってくれて、頼れるのは俺だけって、お母さんの話は俺だけに打ち明けるって、他の人には心配させたくないから内緒って、二人だけの内緒って。俺しか頼れないって・・・・・」


「そりゃね、自分で支払わなくて良い買い物や食事は楽しいだろうよ。しかも、相手は離れて歩くのも、手を握らないのも許してくれて、当然、それ以上も求めてこない。楽だろうね。

母親の話も、オッサン以外の男なら面倒で離れていくだろうからね。オッサンだけとの秘密にして当然だ。オッサンなら、母親の為にって泣くカナリアちゃんに金貸す位だから、カナリアちゃんが仕事が忙しいって家に寄り付かなくなっても、カナリアちゃんの母親の世話、ちゃんとするだろ?」



目を見開き、

涙をボロボロ流し、

鼻水も垂れ流し、

ヨダレさえ出して

ウーウー呻きながら膝をおるオッサン。



なんか、本当に、可哀想なオッサンだなぁ。

囮にされたあげく、まさかのカナリアちゃんの真実を知るなんて。

憐れだ。オッサン。


どうしようか?

この、オッサン。

リア充だ!ボコってやる!って勢いだったのに

まさかの女に騙されてたオッサン。

憐れだ。

もう、可哀想だし、何か居たたまれない空気だから、オッサンには何もせずに山の麓に捨ててこよう。

そうしよう。


泣くオッサンに近づき担ぎ上げ


「山の麓に連れてってやる。舌噛まないように気をつけて。」


オッサンの返事は聞かない。

もう片方の肩にはオッサンが落としたウルフを担いで走り出す私。

出来るだけ、オッサンに衝撃が行かないようにしながら。



無事に山の麓に着き、オッサンを肩から降ろして告げる。


「今回は何もしない。そのまま帰してあげる。でも、次は無いからね。この山に入った奴は殺す。これがこの山の決まりだから。もう、入ってこないでね?」


と警告しつつ、オッサンにウルフを持たせてやる。


「あ゛あ゛。あ゛りがどう。約束ずる。ごの山にはもう入らない゛。

でも、でも、俺はカナリアちゃんを信じだい・・・。」


目を真っ赤にしながら、掠れてザラザラとした声で

私に告げるオッサン。


「別に私を信じる必要は無い。オッサンが良いならカナリアちゃんを信じれば良い。好きなだけ騙されれば良いよ。」


思ったことを言ってやる。

私はただ単に忠告してあげただけだから。


なのに何故かまた泣きそうな顔をするオッサン。

何か言いたそうに、こっちを見ながらも、


「あ゛りがどう。」


のひとことと共にウルフを担いでよろよろと帰って行った。


私は何だかモヤモヤした気持ちで

後ろ姿が見えなくなるまでオッサンを見ていた。


よく分からない、このモヤモヤを抱えて、私はフェンリーの待つ洞窟へと帰った。

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