第八話ー同業者さん、コンニチワー
やっとホラー...入れた...
「よーし、とりあえず着替えて。あ、あと、ここ、更衣室もあるから。」
「あ...分かりました。」
北嶋さんに言われるがまま、更衣室に入った。
中に入ると、薄暗ーい部屋に幾つもの服がかけられており、服の間から何か出て来そうな気がする程不気味な空気を漂わせていた。だが、そんな衣装の、どれを使っていいのかがわからなかった。
「あ、あの、衣装はどれを使えば...」
と、北嶋さんに聞いてみると、
「んー?テキトーで良いよー。そんなの。」
うん。やっぱり。予想通りの返答。そんなのでこの仕事場大丈夫なのか...とさえ思えてくるが、その辺は気にしないでおこう。自分が働いている所なんだから。
服は定番(?)の血塗れ和服にした。そうして、着替えも終わり、あとはメイクだけとなった...のだが...
「あ、やっベー。控え室にメイク道具一式置いて来ちゃった。どうしよーかなー。」
おいおい。まさかの忘れ物かい。先程までのアツい眼差しはどうした。と、いうか、メイク道具って、この裏仕事していて一番大切なものじゃないの?...
みたいな事を心の中で永遠に繰り返していると、(まぁ、勿論殺されそうになりそうなので、口には出さないが)いきなり北嶋さんが、
「チョローっと取りにいってくるわ。それまでここで待ってて。」
といって控え室に走って行ってしまった。
ー数十分後ー
結構待っていると思うのだが、いっこうに帰って来る様子が無い。それどころか俺の事すら忘れているようだった。と、その時、まっすぐに伸びた渡り廊下の向こうから、誰かが歩いてきた。
「あれ...北嶋さんじゃ無い...じゃ誰?」
目を凝らしてよーく見てみると、女性のようだった。さっきは誰かと思ったが、即座に、なるほど。俺と同じくここで働いている人だな、と感じた。この半月間、ほとんど人と接触してなかったから、まだ知らない人がいたんだな。と思った。ならば挨拶をしなければ。
「こんにちは。新しくここに入った石崎と申します。これからよろしくお願い...し...ま...す?」
精一杯大きな声で挨拶したつもりなのだが、返答は無かった。いわゆるスルーだ。俺もさすがにイラっとして、せめて顔だけでもみようとすると、いきなり走り出して衣装道具部屋へ入ってしまった。しかもそれっきり出てこない。
「なんだったんだ?今の人...」
呆気に取られているうちに、いつの間にか北嶋さんが帰ってきていた。
「あ、どもっす。」
「今、おもしろい事聞いちゃったー。...ふーん。君も見たんだね。彼女を。」
どうやら話が筒抜けだったようだ。...ちょっと待て。
「え?今北嶋さん「君も」って言った?どゆこと?」
「うーん、簡単にいうと、彼女本物。俺も、みんなも見てる。」
「本...物?」
「そ。本物。本物の幽霊。」