第四話ー雑用パラダイスー
「...よし、挨拶も終わったし、そろそろ石崎くんにも働いてもらおうかな。」
篠宮は何事も無かった様な顔をして話を進めようとしていた。この人には恥じらいというものが無いのか...後ろでは柿原さんがとんでもなく赤面しているし、宇崎に至っては壁を何回も殴ってボロボロにしているのに...
「...い...おーいったら、石崎くーん?聞こえてるー?返事してー。」
「...はっ、あぁ、ごめんごめん。全っ然聞いてなかったわ。もう一回良い?」
「まずは雑用。大体一ヶ月くらいかな。」
「ふぇ?」
話の内容を上手く飲み込めない俺を無視して、篠宮は話を続ける。
「まぁ、詳しい事は立花に聞いて。あいつ、もうちょいで帰ってくると思う...」
と、独走状態で篠宮が話していると、関係者以外立ち入り禁止のドアが開いた。
「...っと、噂をしてたら本人登場だ。んじゃねー。俺も仕事あるから。」
中から出て来たのは、灰色のタンクトップを着た容姿端麗な女性だった。
「え?何?何の事?てかこの人誰?」
彼女は俺を指差して言った。
「あら、立花さん。おかえりなさい。彼は、今日からここで働く事になった石崎さんです。ここ一ヶ月間は、貴女の元で働く事になるから、よろしくお願いしますね。」
俺はあたふたしながらも、必死に自己紹介をしようと試みた。
「あ、俺、石崎文也って言います。年は19デス。これからよろしくお願いします。」
「ふーん...私、立花哀花っての。担当は主に修理、修復。これからよろしくね。あと、私も19よ。敬語なんていいから。」
びっくりした。こんな人が俺と同い年だなんて...それに比べて俺は...と、自分への劣等感で泣きそうになった。
「私の所に来たって事はつまり、雑用ね。色々あるわよ〜。お化け屋敷内の雑巾掛けだの、衣装道具の片付けだの...ここの掃除だの...
まぁ、辛いけど、ガンバって。」
説明は、聞いてはいたが、先程の劣等感で頭がいっぱいになり、説明が入るスペースが無かった。
「おや、どうしたのかな?もしかして今の説明聞いて先が重く感じ...って、何故泣く!?え!?何?そこまで将来が心配!?」
「いや、大丈夫っす...グスッ...ホント何でも無いんです...ヒッグ...」
もう嫌だ。死にたい。人前で泣くとは。情けない、それでも男か‼と、自分に言いたくなる。そして何故敬語?さっき良いといわれたのに。バカなのか俺は!
「あ、そ。じゃ早速仕事仕事‼」
だが、そんな俺の心の葛藤も知らず、立花は無慈悲に仕事へ行こうと切り出した。
「あぁ、ハイ。了解です...」
「だからなんでそんな元気無いの!?あと何故敬語!?」
お化け屋敷内に入ると、冷たい様な、生暖かい様な風が身体を包んだ。まだ開演前なのに、手がこんでるなぁと思いながら歩いていると、やがて、とても長い渡り廊下のような場所に出た。
「はーい、着いたー。石崎くんには、まず、ここを拭いてもらいまーす。あ、一周じゃ無いよ?十周くらい。」
「あ、あのー、この廊下って大体何mくらい...?」
「うーん、何mだろうねー。軽く500mくらいはあると思うよ。」
立花のと言葉に思わず絶句した。雑巾掛けなんて10mぐらいしか走れないぞ‼無理に決まってる‼と、思いながらも、渋々雑巾掛けを始めた。
最初の10mは楽々こなせたのだが、100mを過ぎた頃から意識が朦朧とし始め、一周を過ぎた所で倒れてしまった。
意識が戻ったのはそれから1時間後のことだった。
「...はっ‼」
「お、起きたなー。良かった。目が覚めて。びっくりしたよ。様子を見に行ったら倒れてるんだもの。」
どうやら、まだ少しヤバいかもしれない。手足は痺れているし、頭がクラクラする。そりゃあそうだ。しょうがない。ついこの間まで、ニートだったのだから。
「こんなんでバテてたら、この先なってけないよ?私だっていつもここ5分ぐらいしかかからないのに。」
...前言撤回。しょうがなくない。女の人でさえできるのに男の俺ができなくてどうする。本当にここで働いていけるか心配になってきた...
「うん。今日は体力付けだな。...よーし、石崎、残り9周ガンバ!!」
「マジで...?」
こうして、結局、この日はずーっと体力付けをされたのであった...