第三話ーようこそ、オドカシ商会へー
「うおっ...!」
びっくりした...まさか本当にここで合っていたとは。そしてここに人が住んでいるとは。
「おっ、来たね。待ってたよ。」
中から出てきたのは黒い服を着た清々しい青年だった。しかし、どういう事だ?
「待ってた?」会ったことも無いのに?
色々な事を考えながらも、とりあえずは後でゆっくり聞こうと思い、中へ入っていった。
中は以外に広く、連れられた所は控室のようだった。椅子、畳、様々な所に人が座っており、十数名程は居るようだ。
すると、一番奧の椅子に座っていた俺と同世代くらいの女性が、声をかけて来てくれた。
「あなたが新入希望の人ですね。名前は何だ?」
「あ、あぁ、俺は石崎文也って言います。よろしくお願い申し上げます。」
「石崎さんですか。宜しくお願いします。私はここの総監督の柿原梨奈と申します。あと、いいですよ。敬語なんて。だいたいみんな同世代ですから。かる〜くやって下さい。」
話を聞きながら、ほのぼのした人だなぁ...
と思っていると、
後ろから先程の清々しい青年が話しかけて来た。
「どうも。僕、篠宮 光樹って言うんだ。宜しくね。今みんな忙しそうだから、ついでにいろんな人の紹介もしちゃおう。」
「あの畳の上で堂々と寝転がっているのは、大久保 草太っていうんだ。...良いやつなんだけれども、よく寝るんだよねー。あとたまに理解不能な発言するし。まぁ、良いやつだから、仲良くしてやって。」
大久保と呼ばれた男は、文字通り爆睡していて、起きるそぶりも無かった。きっと彼は、目の前で爆発や大火事が起きても目が覚めないだろう。柿原さんに「おーい、新入りが来ましたよー。起きて下さーい。」と言われながら顔を何度も踏まれても目が覚めないのだから、相当凄い。
「はい、次は椅子に座ってるこいつなんだけど...」
そこに座っていたのは、中学生かと思うほどの小柄で物静かな女の子だった。だが、何故か俺のことを途轍もなく鋭い目で睨んでいた。と、篠宮がこう呟いた。
「こいつは、宇崎美月。これでも一応高3だから。あ、あと、射程距離の半径1mには近づかない方がいいよ。」
「しゃ、射程距離!?何その鉄砲みたいな表し方!?」
「うん。射程距離入ると、鉄砲より怖いかもしれない正拳づきが来るよ。あ、あと性格も変わるんだ。」
「な、何故正拳づきが来るのかイマイチよく分からんのだが...」
こんなに小さな女の子の何処に鉄砲より怖い力があるのか考えていると、間違って少しけつまづいて、その射程距離の中へ入ってしまった。
「わーーーー!!!!!!...ぶっ殺す!!」
といきなり宇崎が大声で叫んだ次の瞬間、みぞおち部分に、まるで鉄球に撥ねられたのかと思うほどの衝撃が走った。
「あ...ぐっ...がはっ...」
「はーっ、はーっ、...あ...」
しばらくの間、上手く呼吸ができなかった。その間に彼女は、タタタッと走って何処かへ行ってしまった。
「ね。だから言ったでしょ。怖いって。まぁ、普段はおとなしいから、近寄らなければ大丈夫だとは思うけど...ガンバって!」
「こ、この子...強い...」
「えーと、あと喋れない奴は...」
「え?何あいつら喋れないの?」
「いや、だってそうじゃん。草太は寝てて会話できないし、宇崎は重度のコミュ障だから。石崎くんずっと睨まれてたでしょ。あれ、睨んでるんじゃなくて、あいつなりの挨拶だったんだよ。」
「あれが...挨拶...?おかしいだろ...」
「うーん、冬樹は宣伝行っちゃったし、立花は今準備中だもんなー...よし、とりあえずはこれで終わりかな。あと2人いるけど、また後で会えると思うから。」
「は、はぁ。了解です...」
何だかモヤモヤした終わり方で、話がよく掴めずあたふたしていた俺は、これから何をすれば良いのか悩んでいた。すると、篠宮が柿原さんに、
「ほら、柿原さん!新入り君入ったから、例のアレやろうよ!!」
と、言い出した。
「え、あ、アレやるんですか...?嫌ですよ。恥ずかしいじゃないですか。」
「まぁまぁ、そんなこと言わずに...」
「ね、ねぇ、これってもしかして私もやる感じ...?」
宇崎が口を挟む。思えば会ってすぐとはいえ、ここまで喋っているのを見るのは初めてだった。
「もちろん‼あ、拒否権は無いよ。強制参加ね。」
「ひぃぃぃぃぃ!!」
強制参加と聞いた途端、宇崎の顔色が一気に悪くなった。よほど人に見られるのが嫌いらしい。
「ほら、草太も...」
「ぐごー...がごー...」
「あ、やっぱいいや。起こすのめんどくせぇ。」
あ、見捨てた。さすがの篠宮も、大久保はスルーしていた。だが、そんな大久保は何も知らず、豪快ないびきをかいて爆睡している。
「よーし、みんなで一緒にやろうよ!!」
「しょうがないですね。分かりましたよ。」
「ほ、本当にやるの...?」
「せーのッ!!」
「「「オドカシ商会へようこそ‼」」」