僕の小説は面白くない
書いた小説を、自分では「いいな」と、思っていても全く評価されない事がある。僕は書いた小説を、とある小説投稿サイトにいつも投稿しているのだけど、その時書いたそれの出来には少し自信があった。なのに、実際に投稿してみると、ほぼスルー状態だったのだ。それで知り合いの塚原さんという女の人に、それを相談しに行った。
……ニュアンス的には、の○太が、○ラえもんに「助けて~」って言うのと似たようなもんだと思ってくれればいいかもしれない。
すると、
「気にするな」
と、一言、そう返された。これじゃ身も蓋もない。
「どういう事なのか教えてくださいよ~。僕の小説のどこがダメだとか」
因みにその時僕の書いた小説は、“ウサギとカメ”の寓話をベースにカメの視点からそれを描き直したもので、主には『ベストを尽くす』というのがテーマだった。タイトルは“カメとウサギ”。
それを聞くと塚原さんは、呆れたような視線を僕に投げかけながら、こう応えた。
「完璧だとも言えるし、穴だらけだとも言える」
「何それ?」
「文学という価値基準なら、文章の質が少しコメディ過ぎるし、児童文学という価値基準なら、大人びているから没。娯楽、特にネット上で人気のゲームパロものの価値基準で評価するのなら、駄目駄目だろう。
ただ、君独自の価値基準で独自の世界を描けてはいると思う。その価値基準なら、完璧だ」
僕は少し考えるとこう訊いた。
「つまり、人それぞれって事?」
「その通り。敢えて付け足すのなら、それを多くの人に読ませれば、世の中に良い影響を与えるような作品を書けば良い。小説なんてそんなもんだよ。だから、評価されなくても気にするな」
「理屈では分かるけど、感情が追いつかないよ、塚原さん。評価されたい~」
僕の投稿しているサイトには、僕の何百倍、何千倍の評価を得ている人が何人もいるのだ。僕にはそこまで差があるとは思えないのだけど。塚原さんはそれを聞くと、やれやれといった様子でこう言った。まるで駄々子に向かって言うような感じで。
「そんなに言うなら、方法がない訳じゃないぞ」
僕はそれに驚く。
「え? マジで?
……あの、断っておくけど、不正とかはしたくないんだけど」
「安心しろ、不正じゃない。方法は簡単だよ。君の投稿しているサイトは、半分はコミュニティサイトだろう? 誰かの作品を評価して感想を書いて残せば、相手にもそれが伝わる仕組みになっている。
なら、他の人の作品を読んで評価していけばいいんだ。もちろん、高く。そして、お返しにこちらの作品を評価してくれる人を見つけたら、それからもその人の作品に評価をつけていく。後は、この繰り返し。それだけで自分の作品の評価も上がっていくさ」
僕はその塚原さんの説明を聞くなり、「何それ~」と思わず声を漏らしていた。
「そんなんで評価を貰っても仕方ないじゃない」
塚原さんは「はっ」と言うと、こう返す。
「なら、評価なんて気にするなって。サイト運営者の方針が、コミュニティサイト化なら、自ずからそうなっていく。趣味の仲間で固まっていくさ」
「なんで運営側は、そんな方針にしたのだろう? 小説の価値ってものを…」
「おい、おい。無料でサイトを利用させてもらっている立場で、運営方針に文句を言うもんじゃないよ。それに、それだって一つの小説の姿ではあるぞ」
「そりゃ、分かってるけど……」
それから塚原さんは、口調を少し変えるとこんな事を言った。
「それに、普通の市販されている小説だって大差ないさ。正のフィードバックって知ってるか? まぁ、結果が原因に影響を与えるような現象で、それを更に強めるようなものを言うんだが、小説の人気にはこれがある。つまり、人気を集めて読む人が多くなると更に人気が高くなって読む人が多くなる… これが繰り返される事で、一部に人気と読者が集中するんだ。
この正のフィードバックが起こると、ベキ則ってのが現れて… って、まぁ、難しい話は省略するが、物凄い差が現れるんだよ。これは簡単に理解できるだろう? 正のフィードバックが起こっていない作品と起こっている作品の間には激しい差が生まれる。もちろん、ネット上の作品にもこれはあるよ。そして、作品の質ももちろん関係あるが、それ以上に話題性が重要なんだ、正のフィードバックが起こるのには。
因みに、インターネットを用いて行った社会学者の実験でも、“作品の人気”と作品の質はそれほど相関関係がないという結果が出たそうだ。作品の質が影響するのは、漠然とした傾向程度だな」
僕はそれを聞いて、自分の作品と他の人の作品の間にある差を思い浮かべた。何百倍、何千倍ってな差を。作品の質とはあまり関係がないと思える……。つまり、そんなに自分の書いたものを卑下する必要はないって事だ。
「でもさ、それでも訴えたいテーマがあるのなら、何とか読んでもらえるようにしなくちゃ駄目じゃないの? 気にするな、とは思えないよ」
その僕の問いを聞くと、塚原さんはこう答えた。
「なら、テーマだけ抜き取って、入れ物だけ読者が多そうなものを採用すれば良いじゃないか。少しはマシになるさ。
重要なのはテーマで、どんな物語でそれを描くかは飾りに過ぎないだろう?」
僕はその塚原さんの説明に納得をした。そして、投稿サイトで人気のジャンルに、どう自分のテーマを落とし込もうかと考え始めたのだった。
なんだか、負けたような気がしないでもないけど……。
多少は、悔しさもあって書きました(笑)。
因みに、作中に出てきた社会学者は、ダンカン・ワッツてな人です。ネットワーク科学者でもあって、実験の内容は「偶然の科学」って本に載っているので、図書館なんかでもし見かけたら立ち読みしてみてください。
音楽のダウンロードで、あるコミュニティでは1位だったものが、別のコミュニティでは26位なるとか、そんな事が起こったそうです(もちろん、対象被験者達の趣味嗜好にそれほどの差はない)。




