表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/37

-5-

 ポカポカと明るい日差しに空気が温められた、春先の午後。

 ボクたちはとある場所で、まったりとしたひとときを過ごしていた。

 そのメンバーは、昨日トレーニングルームの前で言葉を交わした面々だ。

 街のメインストリート沿いにあるオープンカフェを訪れ、ボクたちは今、ドリンクを飲みながら軽い食事やスイーツ類を楽しんでいる。


 ウィッチレースに参戦する魔女が愛用しているこのカフェ。

 レースの運営委員会と提携しているため、安く食事をさせてもらえることになっている。

 魔女ホテルのカフェテラスもいいけど、今日のような暖かい日には、清々しい青空のもとで食事を楽しみたい。

 そんな思いから、ボクたちは頻繁にオープンカフェを利用している。

 その際に一緒になるのが、いつもこのメンバーだった。


 若手のホウキ星として期待をかけられている者同士、なんだかんだとヒミカに突っかかってくるアリサさんも含めて、みんな結構仲よしなのだ。

 同じ道を歩む仲間ということになるからか、自然と連帯感が生じているのかもしれない。


「ヒミカさん~、口の周りにチョコクリームがついてますよぉ~?」

「…………っ!?」


 オードリアさんに指摘されたヒミカは、顔を赤らめながらいそいそと拭くものを探すけど見つからなくて、仕方なく服の袖で口の周りを拭き始める。


「って、ヒミカ! 袖で拭くのははしたないよ! それに、べつに、汚れてなんていなかったと思うけど……」

「ええ。もちろん、わたくしの冗談ですわ~」


 ボクの指摘に、オードリアさんは素直にイタズラだったことを認めて微笑んだ。


「あう……」


 ヒミカはさらに真っ赤になって、恥ずかしがっている。


「にゃはははっ! ヒミカちゃん、面白~いっ!」


 ……いやいや、口の周りに本当にクリームをべったりくっつけて笑っているミルクちゃんのほうが、よっぽど面白いと思うけど。

 この人、本当に二十二歳なのだろうか。年齢、さばを読んでいないだろうか。十五歳くらい。


「ふんっ。面白さで人目を惹こうなんて、なってないわね。ホウキ星なら正々堂々、美しさで勝負しなきゃ!」


 アリサさんは不機嫌そうな声でそう言い放っていたけど、視線は目の前に届けられたばかりのチョコレートパフェに釘づけのようだった。

 いつも強がっているアリサさんといえども、やっぱり女の子なのだ。


「まったく、オードリアは……。ヒミカさんをからかったりしちゃ、ダメでしょ~? ヒミカさん、素直なんだから! えいっ、おしおき!」

「ぐえっ!」


 マリアさんに後ろ髪を引っ張られ、オードリアさんはうめき声を上げる。

 というか、おしおきって……。

 やっぱり、過去に使用人だったとは、とうてい思えないやり取りだな……。


「アリサも、憎まれ口叩いてないで、素直にチョコパフェを食べればいいのに~」

「に……憎まれ口なんて叩いてないわよ! 思ったことを言っただけ! それに、あたいはべつに、チョコパフェなんて、どうだっていいんだから! 余計なこと言ってると、あんたのパフェを没収するわよ!?」


 アリサさんはアリサさんで、メロディさんの言葉で、ヒミカ同様真っ赤になっている。


「あうあうあう~。やっぱり食べたいんじゃん~。アリサ、素直じゃない~」

「余計なこと言った。没収!」

「あうあうあうあうっ! ウチのパフェ、取らないで~……」


 手の早いアリサさんは、冗談なんかではなく、本当にメロディさんのパフェを自分のほうに引き寄せてしまった。

 おろおろしながら涙目になっているメロディさんを見て、アリサさんは勝ち誇ったような表情を見せる。

 だけど、アリサさんの顔の赤味は、まだ消えていなかった。


 メロディさんの言ったとおり、ほんとに素直じゃないな。

 ……なんてこと、口には出さないけど。ボクまでパフェを没収されるのは嫌だし。


「にゃはははっ! アリサちゃんもメロディちゃんも、面白~いっ!」


 ミルクちゃんはさっきと同じようなセリフを口走り、さっきと同じようにクリームを口の周りにべったりとくっつけている。

 拭き取ったりしていないから、その分量は増加の一途をたどっていた。


「もう、ミルクったら……あなたのほうこそ笑われますよ……?」


 ミルクちゃんが楽しそうにしていたから、水を差すのも悪いとでも考えていたのだろう、これまでずっと黙ったまま見つめていたサリーさんだったのだけど。

 さすがに耐えきれなくなったのか、そそくさとハンカチを取り出し、ミルクちゃんの口の周りを拭いてあげていた。

 そんな様子を見ていると、わんぱくな子供を優しくたしなめるお母さん、といった雰囲気に思えて、微笑ましい気持ちになってくる。


「にゃははっ! サリーちゃん、ありがとう! せっかくだから、舌でペロペロ舐め取ってくれてもよかったのにっ!」

「そ……そんなはしたないこと、しません……。他の人たちもいますし、恥ずかしいです……」


 ミルクちゃんの言葉に、サリーさんは真っ赤になってうつむいてしまった。

 なんだか、ボクたちが周りにいなかったら、そうしていたとでも言いそうな感じだったけど……。


 ともかくこんな感じで、ボクたちはオープンカフェに明るい声を響かせる。

 少々騒がしすぎな気もするけど、それでも温かくて穏やかな空間が形成されている。

 和気あいあいとした雰囲気に包まれながら、午後のうららかな時間を楽しんでいた。


 と、そのとき。

 突然のシャッター音とフラッシュのまぶしい光が、ボクたちに襲いかかってきた。


「あらぁ~、写真を撮られてしまいましたわよぉ~?」


 オードリアさんが大げさな身振りで、カフェの片隅に隠れるように座ってこちらにカメラを向ける男性を指差しながら、いつもながらの間延びした声を上げた。


「ホウキ星たちのオフショット、いただきだゼ!」


 いやらしい笑いを浮かべるヒゲ面の男性はそう言い捨てると、ボクたちに背を向けて猛ダッシュ。

 声をかけたり文句を言ったりする隙すら与えず、素早く走り去っていった。




 このオープンカフェにはウィッチレースに出場する魔女が頻繁に足を運んでいるわけだから、こうやって写真を撮ろうとする人が多いのも事実だ。

 そのあたりは運営委員会やカフェの経営陣も、それに魔女たち自身も、ある程度認めている部分ではあるのだけど。

 それにしたって、本人に断りもなく撮影するなんて……。


 若干の怒りを覚えはしたものの、あまり気にしていても仕方がないことだとわかっているボクたちは、そのままオープンカフェでの温かなひとときに身を委ね続けるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ