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見事初優勝を遂げたヒミカ。
初めての表彰台、それも一番高い場所に立ち、観客たちの大きな声援を一身に受けていた。
二位、三位だったフェリーユさんとママさんも、笑顔でヒミカに向けて惜しみない拍手を送っている。
それなのに……。
ヒミカの表情は冴えない。
「初優勝なんだから、もっと笑ってよ!」
表彰台の写真を撮っている専属カメラマンがヒミカに声をかけるけど、まったく耳に届いていない様子だった。
その理由は、よくわかる。
ヒミカはアリサさんが心配で、自分の優勝を素直に喜ぶことができないでいるのだ。
アリサさんが事故に遭わなければ負けていた。そんな思いも、ないわけではないだろう。
でもヒミカは、アリサさんが無事なのか、それだけで頭がいっぱいの状態なのだ。
インタビューも右から左に聞き流すように手短に終えると、ヒミカだって疲れているはずなのに、一直線にボクのもとへと駆け寄ってきた。
「セスナ、アリサさんは?」
「……いや、ボクにも状況はわからないよ」
「……役立たず」
そう言われても……。
とはいえ、反論したところで墓穴を掘るだけなのはわかりきっているため、ボクは黙り込んでしまう。
「大丈夫ですわよ」
助け舟を出してくれたのは、ママさんだった。
その横には、フェリーユさんと彼女たちのファミリアーも並んでいる。
「近年のウィッチレースは、安全性の高さには定評がありますから。大事故と心配されるような状況でも、かすり傷ひとつなかった、といったことがほとんどなのですよ」
「アリサが防護チューブに衝突する様子も、モニターのリプレイ映像で見てみたが、ホウキから先にぶつかって衝撃を和らげているようだった。あれならケガをすることもないだろう。だから安心していいぞ」
フェリーユさんも、心配して泣きそうな顔になっていたヒミカの頭にそっと手を乗せながら、そう言ってくれた。
「アリサさんなら大丈夫ですわ~。だって、あのアリサさんですよぉ~? きっとケロっとして、あたいったら、ドジっちゃったわ、なんて笑いながらひょっこり現れるに決まってますわ~」
「にゃははっ! ありそう! うんうん、ミルちゃんもそう思うよっ!」
オードリアさんとミルクちゃん、ふたりのファミリアーも、ボクたちのそばに集まってきていた。
優勝したというのにヒミカの表情がいまだに曇ったままだから、心配して来てくれたのだろう。
「アリサは大丈夫ですよ。あんな性格ですから、他の人には絶対に見られないようにしてますけど、人一倍努力して、体力づくりも魔力トレーニングも、欠かさずにやってるんです。負けず嫌いですからね。スターウィッチの出場者の中でも、鍛え方に関しては自信があります。だから大丈夫です。……絶対に」
集まってきた中には、アリサさんのファミリアー、メロディさんもいた。
普段のメロディさんなら、おろおろわたわたと慌てふためき、目に涙を溜めて心配していそうなものなのに。
今は気丈な声で、ボクたちに訴えかけている。
大丈夫だと信じてはいても、万が一ということもある。心配しているのは確かだろう。
メロディさんの言葉は、自分自身に言い聞かせているという意味合いのほうが強かったのかもしれない。
そんな中、会場内にアナウンスが流れた。
『レース中の事故で防護チューブから救出されましたアリスミシェルラテレサさんが、先ほど医務室に運ばれました。とくに外傷などもなく、容態は安定しているとのことです』
やっぱり、アリサさんは無事だったのだ。
ボクたちは、ほっと胸を撫で下ろす。
それも束の間。
アナウンスは無情な言葉を乗せて続けられた。
『ただ、いまだに意識が戻らない模様です』
サーっと、その場にいた全員の表情が凍りつく。
『これから簡易検査を行い、そのあいだに意識が戻らないようなら総合病院のほうへと搬送し、さらなる精密検査を――』
鳴り響くアナウンスが終わるのを待たず、ボクたちは医務室へ向けて駆け出していた。
☆☆☆☆☆
医務室に着くと、
「あら、みんなお揃いで、いったいどうしたの?」
ケロっとした顔で、アリサさんが出迎えてくれた。
「あれ?」
一同、目を丸くする。
「ついさっき、目が覚めたのよ。あ~、よく寝た、って感じ? ……えっ? レースのこと? そうね~、あたいったら、ドジっちゃったわ! ほんと、バカみたいよね~、もうちょっとだったのに!」
何事もなかったように喋り続けるアリサさんに、みんな一瞬戸惑いを隠せなかったものの、徐々に安堵の色が広がる。
いつもどおりのアリサさんだった。
医務室のベッドに乗せられてはいるものの、上半身を起こした姿勢で笑っている。
アリサさんは、アナウンスされる直前には意識を取り戻していたらしい。
このあと念のため病院に移されて数日間の検査入院をすることになるみたいだけど、今の様子を見る限り、なんの問題もなさそうだった。
「あの……本当に大丈夫ですか? わたし、事故の瞬間をモニターで見ていたのですが、どうも飛び方が不自然だったように思えて……」
オードリアさんのファミリアー、マリアさんが控えめに声をかける。
「あっ、わかっちゃった? あたい、実は今日、ちょっと風邪気味だったのよね! それでぼーっとしちゃったみたいでさ~」
照れ笑いを浮かべながら頭を掻いているアリサさん。
確かに少し、頬が上気して赤みを帯びているように見えた。
「もう……心配させないでよ、アリサ。ほら、元気そうだけど無理はしないで。ゆっくり休んでよね!」
「はいはい。まったくもう。メロディは、おせっかいなんだから。言われなくてもわかってるわよ」
文句を口にしながらも、アリサさんは素直に体を横たえ、布団を肩までかける。
「……それでは、わたくしたちはおいとま致しましょうか。あまり長居すると、休むこともできませんものね」
「心配してくれて、ありがとうございました、ママさん。フェリーユさんも、お顔を拝見できて嬉しかったです。他のみんなも、わざわざ足を運んでくれてありがとね」
ママさんの言葉を受けて、アリサさんは全員に向かってお礼を述べると、そのまま目を閉じる。
そうしたほうが立ち去りやすいと、気遣ってくれたのだろう。
そんなアリサさんを残し、ボクたちは黙って医務室を出ていった。




