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「ヒミカさん、あれはいったい、なんなのよ!?」
魔女ホテルに帰り着いて、カフェテリアでゆっくりしていると、アリサさんが大きな足音を響かせながら近づいてきた。
「……なにが……?」
アリサさんの勢いとは対照的に、澄まし顔で平然と声を返すヒミカ。
なにが言いたいのか、まったくわからないといった表情だ。
ただ、ボクにはなんとなくわかる。
今日はホウキ星たちのうち、有力な若手と言われて注目されている四人――すなわち、ヒミカ、アリサさん、オードリアさん、ミルクちゃんのインタビューが行われた。
その中でも、今年からスターウィッチに参戦し始めたヒミカとミルクちゃんに質問が集中したわけだけど。
ミルクちゃんはいつもどおりの明るい声で、質問する記者たちを笑いの渦に巻き込みながらも、アイドルらしく答えを返していた。
一方、ヒミカはいまだに話ベタ。
訊かれたことに答えるだけとはいえ、見ず知らずの人との会話なんて、そうそうできるはずもない。
記者たちの質問にも、おどおどするだけで、まともな答えを一度も返せないまま。
記者たちは徐々に呆れ顔でヒミカを見るようになっていった。
――こんな子が、どうしてスターウィッチで上位争いをしてるんだか。
ぼそっとつぶやいた記者がいた。
そう言われても仕方がないとは思うけど……。
それにしたって、本人に聞こえるように言うことはないだろう。
ボクはそっとヒミカに視線を向けた。
矢継ぎ早に繰り出される質問攻めに、ヒミカはうっすらと涙を浮かべていた。
ファミリアーはでしゃばったりせず、黙って横に立っていればいい。
あくまでも主役はホウキ星なのだから、それは重々わかっている。
でも、もう限界だった。
ボクはヒミカの手をぎゅっと握った。
「セスナ……」
「大丈夫、ボクに任せて」
ヒミカに笑いかけると、一瞬戸惑ってはいたけど、黙って頷いてくれた。
「彼女への質問には、ボクが答えます。ヒミカとボクは田舎の村から出てきました。飛び方は独学です。ホウキは幼い頃に出会った、とある魔女さんから譲り受けたものです。スターウィッチのレースに参戦させてもらっているのは、フェリーユさんのおかげです。他に質問はありませんか?」
ボクのあまりの勢いに、記者たちも圧倒されて声も出せなくなっているようだった。
やがて記者たちは気を取り直し、さらなる質問攻めを開始した。
それらの質問にも、ボクはハキハキとした口調で答えを返していった。
そのあいだ、ヒミカは口をきゅっと結び、ボクが答える言葉に耳を傾けるだけだった。
アリサさんは、あのインタビューでの態度に対して怒っているのだ。
「ホウキ星は女性の憧れなんだから、黙り込んでたって仕方がないでしょ!? 自分のことはちゃんと自分で説明できなきゃダメよ!」
ヒミカに顔を近づけて怒鳴り散らすアリサさん。
鼻先で怒鳴られ、ツバでも飛んでいたのかもしれない。
ヒミカは思わず眉根を寄せて顔をそむけた。
その仕草が、アリサさんのさらなる怒りを誘う。
「ちょっと、なによその態度!? せっかくあたいが忠告してやってるっていうのに! もう頭に来た!」
アリサさんは真っ赤になり、湯気を立ち昇らせる勢いでヒミカにつかみかかった。
マッハハンドの強襲。
「あう、痛い」
「痛くしてるんだから、当たり前よ! あなたの根性、叩き直してあげるわ!」
なにやら体育会系な言い分を叫びながら、ヒミカの左右の二の腕をつかみ、爪を立てた両手でぎゅーっと強く握り始めた。
ボクは慌てて止めに入る。
と同時に、アリサさんのファミリアーであるメロディさんもおろおろした声を響かせる。
「やめてあげてよ! ヒミカの態度が悪かったのは、ボクが謝るから!」
「あうあうあう、や……やめなよ、アリサ!」
ふたりがかりでアリサさんをヒミカから引き剥がそうとするけど、びくともしない。
ホウキ星として日々鍛えているからなのか、ファミリアーごときの力では太刀打ちできないようだった。
そんなアリサさんが、ヒミカの腕を締め上げながらも、ボクのほうに顔を向けて怒鳴りつけてくる。
「だいたいね、セスナさん、あなたもヒミカさんに甘すぎるのよ! ファミリアーなら、きちんとしつけることも必要でしょ!?」
怒りの矛先が急に自分に向けられて戸惑いながらも、ボクはなにも言い返せなかった。
彼女の言うとおりだと思ったからだ。
アリサさんの怒りは、一向に収まる気配がない。
ヒミカの二の腕が、みるみる青ざめていくように見えた。
そのとき。
「……あらあら、ちょっとあなたたち。どうなさったのですか?」
不意に穏やかな声が、ピリピリと緊迫した空気を静めるかのように割り込んできた。
ママさんだ。
普段どおりの優しげな笑顔を絶やさず、普段どおりに話しかけてきただけ、といった雰囲気だった。
「アリサ、どうした? ヒミカにマッサージでもしてやってるのか?」
ママさんの横から、一緒にいたフェリーユさんも声をかけてくる。
その言葉には、穏やかな口調とは裏腹に、鋭いトゲが含まれているようにも思えた。
ヒミカにマッサージをしているわけではなく、暴力を振るっているのに近い状況だと、おそらくフェリーユさんにはわかっているのだろう。
とはいえ、アリサさんの立場もある。
事を荒立てないように、やんわりと場を静めようとしてくれているのだ。
「あっ、フェリーユさん。……ええ、そうですよ。ヒミカさん、腕が疲れてるって言うから、こうやってマッサージを……。ね?」
ヒミカの両腕をさすりながら、アリサさんはフェリーユさんに答えた。
微かに震えた声で思いっきり嘘をついているアリサさんの言葉に、ヒミカは小さく頷く。
「……そう。マッサージ、してもらってた」
頷いたあと、ちゃんと自分で説明しなきゃダメ、というアリサさんの言葉が頭に残っていたのか、ヒミカはそう続けた。
自分を痛めつけようとしていたアリサさんを、ヒミカはしっかりと声に出して庇ったのだ。
「そうか」
フェリーユさんは、ただそのひと言を返すだけだった。
「ふふふ。マッサージしてあげるなんて、仲がよろしいのですね。ホウキ星はみんな、仲よくしなくてはいけません。争ってはダメなのです。争うのはコース上でだけ。それがホウキ星というものですわよ?」
優しい笑顔のママさん。
今ここでなにが起こっていたのか、ママさんにもわかっているのだろう。
「もちろんです。……それじゃ、ヒミカさん。またね」
「うん、また」
アリサさんは、微かに頬を赤く染めながら、挨拶だけを残して去っていった。
すぐにメロディさんも、軽く会釈するとアリサさんのあとを追う。
残されたヒミカは、フェリーユさんとママさんに見つめられながら、ただボクの手をぎゅっと握っていた。




