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逢魔が時!  作者: 日野ヒカリ
第一話 【逢魔が時、来たる!】
6/63

…… 6 ……


 食ってる。本当に食ってるよ。


 結局夕食の時間になってもかぼを追い出すことが出来ず、巡は複雑な面持ちで一家の団らんの中にいた。

 初対面で居候を申し出る方もアレだが、本当に夕飯まで用意する由美香もナニだ。それとも、今日一日のお泊りごっことでも思っているのか。これまで紹介されたこともない初対面の幼女なのに?

 巡の父親は、単身赴任で家を空けている。だから現在家を守っているのは母の由美香で、あとは二人姉弟の芽衣と巡しかいないのだから、こんなに無用心でいいものか。


「最近の食べ物はよくわからんの。このやたら乳臭いトロトロしたのはなんだ?」

 かぼは、まるで生まれたときからの家族のように、躊躇も遠慮もなく夕食を楽しんでいる。

「それはシチューよ。食べたことない? おいしい?」

「初めてだが、これは美味いぞ、母上。もっともわちは、基本的に人間の食べ物であれば好き嫌いはないがの」

 何気に普通に会話が成り立っている。居候騒動を冗談だと思っているにしても、かなりノリが良い方と言えるだろう。

「かぼちゃんって~、人間じゃないって、じゃあゃあ犬とか? それとも猫なのかな」

 芽衣ですら、こんな調子だ。

 大体、人間じゃないとなれば犬か猫しか思いつかないのか、この姉は。

「犬も猫もマネ事くらいはできるが、あやつらと同じ飯を食わされるのはかなわんぞお~」

 かぼは、何気にオヤジっぽい。

「で、かぼちゃんって、メグの、か、彼女とかじゃないよね?」

 芽衣、見た目幼児に真顔で質問。冗談ではなく、本気で確かめたいらしい。

「芽ー衣!」

「なっははは、カノジョとはあれだな、コイビトというヤツだな! それは無理だ。そういうのはきちんと人間の中から選んだほうがよかろうよ」

 それにしても、巡のように決定的場面を見たわけでもないのに、母も姉もかぼが連発する「人間じゃない」発言を、怪しがりもせずに受け止めているあたりが、巡には理解できない。信用しているいないはともかくとして、しつこくそんなおかしな発言をする少女を苦もなく受け入れているなんて。



 夕食後、巡はかぼを自分の部屋に押し込んで、夕食後の洗い物に精を出す由美香に詰め寄った。

「知らないヤツに夕飯まで作ってやるなんて、どうしちゃったんだよ。人間じゃないなんて言われて、変だと思わない?」

 こんなおかしなのと一緒にいて平気な顔をしているなんて、巡には母や姉の感覚が、まったく理解できない。もしこの場に、留守にしている父がいたら、どう思うだろう。

 由美香はそんな巡にニッコリと微笑んでみせた。

「じゃあ~」

 あまりにも、のんびりとした口調。

「メグがちゃんと、おうちに送り届けてあげればいいじゃない」

 もっともな意見だが、それを出来れば苦労はない。が、由美香は無言のままの巡に、お構い無しに続けた。

「それが、できないんでしょ?」

 ギクリ。

「ご家族のもとに帰してあげられない事情があるんでしょう? それが出来るようならとっくにしているんじゃない? だとすれば、あの子には家に帰れない事情があるってことよね。例えば、本当に帰る家がないとか」

 もしもまったく知らない子にいきなりまとわり付かれているのなら、それを勢いであれ家に上げるような息子でないことを、由美香はよく理解している。何しろ母親なのだから。そしてもしも彼女がいわゆる普通の理由でただ家に帰りたがっていないような状況なら、巡は由美香にそれをきちんと話すだろう。

「人間じゃないとか~、そういうこと、あの子が言った時だって、あなたはあんな風にうろたえないわよね。それが、冗談なのなら」

 ぼんやりしているように見える母親、これできっちり、巡のことを観察している。

「あなた、否定しなかったじゃない。お母さんは~、それがどれだけありえないことでも、バカバカしく思えることでも、息子のことは信じるわよ。世界中が信じてくれなくてもね」

 寛大すぎる母親、だろうか。

 これほどに無心に、自分の息子のことを信じきることができるなんて。

 それともまさか、巡のわからないところで別の計算でもあるとか。でもそんな計算があったとして、それが何であるのか、それによって母にとって何か有益なことがあるのか、さっぱりわからない。

 多分本当に、息子を信じているのだろう。

 もしも本当に、ここに魔物がいると息子が言ったとしても、それさえも。

「じゃあメグ、一応確認するけど、かぼちゃんをうちに置いておくとして、それで困る人が、どこかにいるかしら? 何か社会的に問題が生じる?」

 巡は、首を横に振るしかない。

 正直、かぼのことは何も知らない。知らないけれど、かぼの言うことを鵜呑みにするとすれば、彼女は現在天涯孤独で身寄りのない魔物だ。少なくとも、かぼのやってみせたあれやこれやは、とても人間のできることとは思えないし。もしも彼女の言うとおり、うちに居候させたとすれば、彼女が喜ぶ。それだけだ。魔物をうちに住まわせて、何か別の問題が起きるとしても、それは今の巡には想像だにできないことで。

「ならいいじゃない?」

「母さん!」

「かぼちゃんのことは、後でゆっくりと知っていくからいいわよ。それでもしも何か問題が起きたとして、お母さんはメグのせいになんかしないから大丈夫」

 それは充分すぎるほどわかっている。わかってはいるが、そういう問題だろうか。

「女の子の家族が増えるなんて、素敵じゃない」

 結局そこか!

 すでに女二人男ひとりの三人家族の中にあって、さらに女が増えるのか。

 第一、ご近所にはどう説明するつもりなのだろう。

「とにかく、あの子に帰る場所がないのなら、うちに置いてあげなさいな」

 巡には、返す言葉がない。

 母の発言は、この家の中において最大権力なのだ。

 そしてだからこそ、家族のためにならないようなことは、決してしない母でもある。


 でもあの子をなあ……。

 ここでも巡は、ただため息をつくしかなかった。




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