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逢魔が時!  作者: 日野ヒカリ
第四話 【魔と降魔】
50/63

…… 17 ……



「先生!!」

 全身塩まみれで駆け寄ってくる巡と芽衣に、朝比奈は渋い顔を見せた。

「お前らまで来るなよなあ……危ないぞ」

 呑気に呟くが、魔物の爪が食い込んでいるその肩からは、血が滲みはじめている。

「一番危ないのは先生だろ!」

 巡の叫びは的を射ている。が、いまこの場面で、誰が一番とか言い合うのも、既に空しい。

 巡と芽衣は、先程やったように、塩まみれの全身で魔物に抱きついた。朝比奈に負担をかけないように、そして踏みつけないようにするのは至難の業だ。

 もちろん、身体の大きいこの魔物は、巡たちの体重を受けても重みで潰れるようなことはない。が、やはり塩は効いているようだ。全身をブルブルと振って、彼らを引き剥がそうとする。

 振り回される巡たちも必至だが、下にいる朝比奈はそれどころの騒ぎではない。


 さらにそこに、かぼが飛び上がって魔物の背であろう部分に取り付いた。


「まったく、どいつもこいつも無茶をする……!」

 そこまでやったのだから、最後まで責任を持って押さえつけていろと命令を飛ばして、かぼは魔物の背をギュウ、と押さえつけた。その背後に、ミーシャがまわる。

「潰れる~……死ぬ~」

「今さら文句を言うな!」

 下でうめく朝比奈と、上から押さえつけるかぼ。巡と芽衣とミーシャと、誰かひとりの力が欠けても危険だ。五人がかりで精一杯だった。

「オレがここで逃げ出したら、みんな死ぬよなあ……」

 朝比奈が呟いた。

「ぬしがそうする人間だったら、はじめから命なんて懸けさせずに逃がしておるわ!!」

 朝比奈も、巡も芽衣も、言ってわからないのだから仕方がない。

 彼らがそうやって身体を張ろうとするなら、かぼだってそうしなければ皆の手痛い末路を目にすることになる。

「氷村さん……オレマジで死ぬって……」

 朝比奈が、頭上に位置する場所に立っている氷村へと視線を向けた。

 氷村は微笑で応える。

「まだ余裕そうじゃないか。逃げても死んでも皆無事では済まないのなら、生きて力を発揮するしかないよな? お前が一番はじめにリタイアするか?」

「オレは今、四人分以上の重量を支えてるってーの!!」

 吼える朝比奈を、巡は困ったように見下ろす。

「もうちょっと……耐えられる? 先生、辛い?」

「あー、気にするな。愚痴は言うが死にゃしないって……」

「そう簡単に死なせてたまるか、ボケ!!」

 怒鳴るかぼの身体の下で、魔物の身体がジワリと溶け始めた。

 あと少し。

 しかし、魔物のほうも大人しく浄化されるのを待ったりはしない。ブンブンと激しく身体を振って、かぼたちを振り落としにかかった。

「……クッ……離さんからな!!」

 全身の力を使って魔物を押さえるかぼ。ミーシャも、芽衣も、巡も、それぞれが全力で魔物を押さえつけた。


 ブン。


「のわ!?」

 ボタリと、かぼは朝比奈のみぞおちの辺りに落下した。

「ぐえ……ッ」

 うめく朝比奈。

「……な……」

 なぜ、かぼが朝比奈の上に落下したのか。

 魔物が、一瞬にしてその場から姿を消したからだ。

 全力で押さえていたものが急に掻き消えて、巡と芽衣もバランスを崩して倒れそうにはなったが、かろうじて朝比奈の上には倒れ込まなかった。

「なん……、どこだ?」

 状況がつかめない。かぼはキョロキョロと辺りを見回した。

 魔物が消えたのは、かぼの力によるものではない。本当に急に、その姿が消え去ったのだ。かぼだけでなく、魔物に張り付いていた面々が全員、あちこちに視線をめぐらせた。

 まさか、どこかに瞬間移動したのか。

 それほどの力を持っているなんて。


「そろそろ降りてやったらどうかな」

 氷村が、歩み寄ってきた。

「ぬ……」

 言われてとりあえず、かぼは朝比奈の腹の上から降りる。悪いなどと、実はこれっぽっちも思っていないところがかぼだ。

「魔物をどこへやった!!」

 かぼは、氷村に向かって怒鳴りつける。降魔の力で魔物を出していたのは氷村なのだから、その問いが彼に行くのは当然だ。

「私が消した」

 氷村はあっさりと言った。

「……消した……?」

 何故、なんのために。


「キミたちは、大丈夫なようだからね」

 氷村は、そう言って笑う。


「大丈夫って……」

 わけがわからない。

 大丈夫って、何が大丈夫なんだ。

 巡たちは混乱した。

 今の段階で、巡とかぼを引き剥がしたがっていた氷村の計画は、少しも達成されていない。なのに何故、彼は笑っているのか。

「もともと、オレたちを殺すつもりなんて無かったってことさ」

 朝比奈が、ムクリと起き上がった。

 眉間にしわを寄せるかぼたちには、朝比奈の言葉の意味もよくわからない。

「どういうことだ……?」

 そんなことしか言えないかぼに、朝比奈は苦笑を返した。そして、ジワリとにじみを大きくする肩の傷を気にもせずに、朝比奈は氷村を見る。

「説明、してくれるんでしょうね?」


 豆鉄砲を喰らった鳩のような状況の面々に向かって、氷村はただ、頷いて見せた。




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