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逢魔が時!  作者: 日野ヒカリ
第四話 【魔と降魔】
47/63

…… 14 ……



 思えば。

 当然かもしれなかった。

 目の前に現れた氷村と対峙しながら、巡はそんな風に考える。


 家の中の方が、かえって危ないのではないかと最初に言ったのは、巡自身だ。家という人工の結界があるにせよ、人の作り出す魔物というのが、どれほどの力を持っているのかわからない。だとすれば、他人の目のない自宅というのは、格好の的になってしまうのではないかと。

 一理ある。

 それに、そうでなくたって、結局この先ずっと家の中に篭っている訳にもいかないのだし。

 そうして、家の中で襲われた翌々日にはかぼと共に外に出た巡だったが、結局何の関わりもない他人に迷惑をかけてしまうのではないかと、ついつい人のいない方いない方へと向かってしまった。


 そして、学校の裏の雑木林へ。

 そりゃあ、氷村だって現れるというものだろう。

 ミーシャに会えれば事情も説明したいと思っていたが、その前に彼に会ってしまった。


「久しぶりだな。少年」

 かすかな笑みを浮かべる、その男。

「まだ何日も経ってないよ……」

 巡のそんな言葉に、氷村は「それもそうか」と肩を揺らした。つくづく、雑木林という舞台が似合わない男だ。

「なんでまた、こういう人気のないところに来るのかな、キミは。誘っているのかい」

 ある意味、そうなのかもしれないが。

 もしも家に魔物を放ったのが氷村だとするなら、この男は他の人間の前でも何をしでかすかわからない。被害は最小限に、なんて自己犠牲の精神で行動している訳ではないが、街中に魔物が突如出現した場合の混乱を考えるのが恐ろしい。魔物が見える人間がいるかもしれない。そうでなければ、自分たちの挙動を見られて気が狂っているとでも思われるかもしれない。

「おじさんは、なんで僕を狙うの」

 距離をとったままじっと見つめてくる巡の視線をうけて、氷村は片手でガリガリと頭を掻く。

「おじさんじゃないってのに……傷つくな……」

「なんで僕を狙うの?」

 答え以外の言葉は聞きたくない。

 なんだかこの男に対して油断をしていると、都合よく煙に巻かれてしまうような気がした。

 氷村は、ちらりとかぼを見る。

 そして、唇の端をあげて笑った。

「理由を話す義務はないな。そんなに時間もない。だから単刀直入に訊くが、そこにいる物の怪と決別する気は無いかな?」

「ないよ」

 何故そんなことを訊かれるのか、それでどうするのかと質したい気持ちはあったが、巡はとりあえずはっきりと答えた。

 多分、その答えによって氷村のこれからの行動がまったく変わることになるのだろうとは思ったけれど。


 魔物を否とする氷村は、巡とかぼを引き剥がしたがっている。


 質問から察するに、これは確実なのだろう。

「そうか。……なら」

 氷村は、その場に片膝をつくと、左手をピタリと地面に当てた。

「魔物には魔物だ」

 ズルズルと、その手許から黒い影が立ち上がり始めた。

 人家や人気がないとはいえ、それでもここは隔絶された場所ではないというのに。

「なんで、物の怪と人を引き離そうとするんだ!」

 巡は叫んだが、氷村は微動だにせず魔物を作り上げている。

「質問している場合ではないと思うな。この魔物は君のそばの、その物の怪を倒しに行くぞ。もちろん、邪魔をするならキミも巻き込まれるだろうな」

 ズルリと、その影はうねり始める。カンガルーか恐竜かというようなシルエットのそれは、二本の足で走り始めた。

 まっすぐ、かぼに向かって。

「メグ、どいていろ」

 無表情というか、お気楽そうな表情で、かぼがそれだけを言う。

「かぼ!」

 巡は叫ぶが、かぼはひらひらと手を振る。

「魔物との戦いで、ぬしに出来ることなど何もなかろ。わちはそう簡単に倒れたりはせんぞ」

 巡には、逢魔の力はあるが、それを倒す力はない。少なくとも、今この時には。

 せめて朝比奈のように、魔物に影響する力があったなら。

「近寄ってくれるなよ。足手まといだ」

 ニヤニヤと笑うかぼ。

 ヒョイヒョイと魔物の攻撃をかわしながら飛び跳ねるその表情だけ見ていると、本当に、余裕そうには見えるけれど。


「魔物は、一体だけとは限らないんだよね」

 氷村の数メートル後方からの声。

 そこには、初めて氷村と会った時に一緒にいた女子高生がいた。

「そんな!?」

 彼女の足許からも、小さな黒い影。

 大きさこそ、さほどでもなかったが、子犬程度の大きさの魔物の影が、数体地面を這ってこちらに向かってくる。彼女も降魔の力を持っているらしかった。

 いくら余裕そうに見えるかぼでも、多勢に無勢で勝てないのではないか。

 巡はその場でオロオロするしかない。

 助けなきゃ。でも、あんなのとどうやって闘えばいいのか。

 巡は、人間とだって身体を張った大喧嘩などやったことがない。けれど、かぼはそれらをかわしながら、息を乱すことも無く呟く。

「こちらとて、ひとりではないわ」

 その言葉に、巡ははっとなって目を見開く。


 そこにはいつの間にか、攻撃態勢に入っているミーシャの姿があった。




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