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逢魔が時!  作者: 日野ヒカリ
第四話 【魔と降魔】
46/63

…… 13 ……



「氷村さんと話がしたい?」

 驚きの表情を作る朝比奈に、巡は頷いた。

 巡の入れてきた麦茶をひとくち飲んで、朝比奈は巡に向き直る。

「なんでまた」

「だって、何もわからないから」

 魔物を放ったのは、確実に氷村という訳ではない。が、おそらくは彼か、もしくはその仲間だろうとは思う。だから決して友好的な関係であるとは言えないのだが、それでも。

 何故、巡とかぼが一緒にいるのを見咎めるのか、それを彼の口から直接は聞いていない。

 わざわざ危険人物と話をするのも躊躇われるし、そもそも話というものが成り立つのかどうかすらわからないが、はっきりとした理由もわからないままに襲われるのも納得できるものではない。

「まあなあ……」

 困ったように呟く朝比奈。

 彼も、巡の言いたいことがわからないわけではない。が、氷村が魔狩人になっていたのだとすれば、かぼを擁護する巡の話など、聞く耳も持たないだろう。彼らは、魔物全てを人間の敵としているのだから。


「物騒な話をするけど、怒るなよ」

 朝比奈は、唸りながら両腕を組む。

「たとえば彼らが、成瀬の傍にいるその子を消してしまったとしよう」

 その言葉にピクリと反応する巡。が、とりあえずは頷いた。怒るなと釘を刺されたばかりだ。

「それでも、逢魔の力を持つお前さんの前には、また違う物の怪が現れる可能性だってあるよな」

 それはそうだ。

 現に、既に巡の周りには、かぼだけでなくミーシャやシンだっている。

「その魔物を、成瀬は拒まない。そしたらヤツらは、それも消しにかかるんだろうな。でもきっとまた、別の物の怪が、成瀬の前に現れる。それが魔の刻ってもんだ」

 魔の刻において、逢魔の力を持つ人間の前には、魔物が集まってくるものだ。その人間の近くにいる物の怪をいくら消し去ったところで、別のものが次々と現れる。つまりはキリがない。

「だとしたら、だ」

 物の怪が姿を現すのは、そこに逢魔の力を持つ人間がいるからだ、ということになる。

 実際は、目に見えていないだけでそこかしこにいる物の怪たちだが、やはり、それを目で見ることのできる人間の前に、集まりやすい。

「その人間が、物の怪を擁護する立場をとっているとなれば……」

 彼らにとって、巡自身が、魔物を庇うジャマな存在となる。

「……じゃあ……僕はどうなるの?」

 どうされるのか。

「わからない」

 朝比奈は答える。

 わからないから、怖い。逢魔の力を持つ者の中でも、巡のように物の怪と馴れ合っているような人間を、どうするつもりでいるのかがわからないから、困るのだ。わかっているなら、それがどんなに危険を伴うものでも、対策が講じられるだけマシなように思う。わからないから、どう回避していいのかもわからない。

 そういう場合のマニュアルのようなものも、あちらには存在しているのかもしれないが、朝比奈は蚊帳の外なわけで、実際のところはやはりわからない。

 魔物を良しとしないのは人間を生かそうとするからのはずで、極端な話だが、もしも魔物と馴れ合う人間を片っ端から始末して行ったとしたら、それこそ本末転倒な気もしないでもない。が、そうしてでも魔物の存在を許せない理由のようなものが、無いとも限らないし、キリがないとわかっていてやっている可能性もなくはない。

「成瀬をどうするつもりなのかがわからないから、あの人と話すってのは、危険な行為になると思うんだよなあ」

 うっかりかどわかされる可能性だってなくはないし、その後どうされるかなんて、皆目見当もつかない。どこまで非人道的な行動をやらかしてくれるか。

 そんなことをやったってキリがないのだということを、納得してくれる様子もないのだから。


 しかし、それでも。


 はっきりとした理由が知りたいという巡の気持ちもわからなくはないし、それに。

 どうせ、こちらから出向かなくても、すぐに会いに来てくれそうな気もする。

「お前さんが自分から動く必要はないような気がするな。多分、氷村さんはまた来るだろうと思うよ。例えこっちが会いたくなくてもな」

「……」

 それもそうだろう。

 氷村と話をしたいという思いはあったが、多分、それは近い未来に叶う希望だろう。考えなければならないのは、どうやって会うかということよりも、いかに安全なシチュエーションで氷村と相対するかということだ。

 魔狩人という連中の規模が、どれだけのものなのかもわからない。

「藤乃木に聞いてみたんだけどなあ……過激派や氷村さんのことは放っておけの一点張りだし」

「……」

 そんな無責任な。

「機関から派生した連中相手に、何でそんな日和見発言するかな、あの爺さんは」

 機関の頂点といえる藤乃木の頭首の、考えていることがわからない。

 朝比奈は、腕を組んでため息をつくことしか出来なかった。




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