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逢魔が時!  作者: 日野ヒカリ
第四話 【魔と降魔】
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…… 12 ……



 床に下り立つ前に靴を脱ぐのに難儀していた朝比奈だが、何とか生徒の部屋に土足で踏み込まずに済んだようだ。

 何しろ、二階の窓からの訪問は、朝比奈にとって初めての経験だ。


「昨日は災難だったな~」

 こともなげに言う朝比奈。

「お気楽に言うな。ぬしが大丈夫だと言うから家でのんびりしていたというに、即座に襲われるとは思っていなかったぞ」

 のんびりしていたと言うべきかどうかはわからないが。

 しかし、魔物に襲われたのを朝比奈は知っているような口ぶりだ。

「そう言うなよ。結構弱かったろう? この家の周りにはオレがまじないをかけといたし、使いも出しておいたからさ。君らで手こずるようならフォローを入れられるようにはしておいたんだぜ、これでも」

「……使い?」

 巡が首を傾げるのに、朝比奈は頷く。

「オレが四六時中見張ってる訳にもいかないからさ。ちょっとした魔物を作って連絡役にこの家の周りに放しておいたんだよ。そいつからいつでも情報がオレに伝わるし、多少の戦力にもなる」

 お気楽な様子で説明する朝比奈だが、巡には彼の言葉が今いち噛み砕けない。具体的にそれがどういうことなのか、さっぱりわからなかった。

 かぼが、朝比奈を見る。

「担任。ぬしも降魔の力が使えるのだな?」

「まあね」

 朝比奈は、降魔の力を使っていわゆる魔物を生み出し、巡の家の周りに放しておいたのだ。それはつまり、巡を襲った魔物と同様の作り方をされた魔物だが、だからといって人間を襲ったりしない、朝比奈の役に立つ使い魔だ。

 要は、降魔で生まれる魔物も、使い手次第、というところか。

「全然知らなかった……」

 巡だけが、呆然としている。

 つい最近までただのクラス担任だった男が、実は魔物も作れるオカルトマニアだなんて、まったく気付かなかった。というか、気付かなくて当然だ。いや、別に朝比奈はオカルトマニアという訳ではないが。魔物のことなら何でも知っていそうな朝比奈は、巡にはそう見えてしまう。

 もっとも、朝比奈が降魔の力を持っているのも当然というか、その程度の力がなければ、そもそも機関からお呼びがかかる訳がない。

「しかもぬし、属性的には浄化か」

「大当たり~」

 朝比奈は、降魔という魔物を作り出す力を持ちながら、もっとも得意とするのは、浄化や祓いの方面だった。作り出した魔物ですら、敵対する魔物を祓うために駆使される。そう、家の周辺にまじないをかける、すなわち結界を張るなど、誰にでもできることではない。人にはそれぞれ、得手不得手がある。朝比奈は、場を浄化することで、そこを魔の入りにくい結界とするのだ。

 だがそれも、今回は完璧ではなかったようだが。

 魔の刻が深くなるにつれ、朝比奈の力も強くなるのかもしれないが、比例して、敵対する魔の力も強くなって行く。皮肉なものだ。

「そういうことは、ちゃんと言っておいてよ……」

 巡はぼやく。

 結界や使い魔のこともそうだが、人間が作り出した魔物に襲われる可能性があるなんて、そうなるまで誰も教えてくれなかった。予備知識があったなら、少しは覚悟も出来ただろうに。

「悪かった悪かった。あんまり怖がらせても良くないと思って言わなかったんだけどなー。あ、だったらあれか。オレの使いも、目に見えるところに目に見える形でいたほうが安心できるか?」

 もともと魔物は形を存続させるのが難しいから、形のある物に詰め込んであるけどな、などと、朝比奈が呑気に話している内に、窓の外から何かがのそりと部屋に入り込んで来た。

 窓枠を乗り越え、ぼたりと部屋に落下したそれは、よいしょとでも言うように二本の足で立ち上がり、とことこと歩いて巡の前を横切る。

「…………ッ!」

 クルクル巻かれた金の髪が美しい、深紅のドレスに身を包んだ西洋人形だった。

 その人形は、すたすたと歩いて壁際までたどり着くと、そこに積んであるコミック雑誌の上に這い上がり、トスンと腰掛けて、微動だにしなくなった。

 終始、無表情。

 魔物は感情を持たないし、その器は人形であるから表情がないのは当たり前だが、壁にもたれかかったその人形は、人工的な青い瞳だけが瞬きもせずに、ただただ巡を見つめている。

「……」

「あれがオレの使いだ。家の周りを張っていたんだがな。部屋の中に置いておいてもいいぞ」

 巡は、その人形から視線を逸らしながら呟く。

「……先生」

「ん?」

「怖いよ……」

 魔物に西洋人形という朝比奈のセンスも疑いたいところだが、それより何より、今まであんなものが家の周りを徘徊していたのかと思うと、うなだれてしまう巡だ。よく誰にも発見されなかったものだ。

 それに、今は微動だにしないから、その動かない瞳が、朝から晩まで巡を見つめているということになる。瞬きもせずに。それは怖いというか、それに見つめられたままで、夜ひとりで眠れそうにない。

「やっぱり外でいいよ。むしろ外がいい。家の裏にでも待機させててよ」

「そうかあ?」

 首を傾げる朝比奈は、西洋人形がオカルトアイテムとして名高いという事実を、失念しているようだ。巡の言葉の意味が良くわかっていない。


 黙って成り行きを見守っていたかぼは、朝比奈が少女趣味な西洋人形を所持しているという事実の方に、興味津々なようだったが。




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