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逢魔が時!  作者: 日野ヒカリ
第四話 【魔と降魔】
43/63

…… 10 ……


 一度魔物に襲われてからは、その日一日は何事もなく、翌日を迎えた。

 それで巡がぐっすりと安眠できた訳ではないが、少なくとも、かぼがいるだけで一応の睡眠はとることができる。今が夏休みで良かったのかもしれない。授業中に舟をこぐという事態だけは避けられる。


 それにしても、よくわからない。


 魔物を放つことで、こちらを倒すなり脅すなりの何がしかの目的があるのなら、一息にやってしまえばいいのに、と巡は思う。もちろん、それを実際にやられて困るのはこちらなのだが、出会って別れた途端に魔物を放ってきたくせに、やることが中途半端というか。それとも、そうできない事情でもあるのか。

「事情、か。ないでもないかもしれんが」

 かぼ、もってまわった言い方をする。

「降魔などという行為を、ホイホイとやって消耗しない人間などいないからの。そう一度には魔物は作れまい」

 まだ魔の刻の空気も薄いから尚更だ。

 しかし、その温存期間の長さがわからない。一日なのか、一週間なのか。

 それも、あの魔物が力の限界だったとしての話だ。実は全然力など余っていて、様子を見ている可能性だってある。かなり低い可能性だが。

 それ以外に、この中途半端な攻撃に理由があったとしても、まるで思いつかない。

 巡は唸る。

 あまり現実的ではないが、思いついたこともあって。

「あの氷村って人、話できないかな……?」

「……」

 話し合いでどうにかなる人種なのかどうかはかなり謎だが。

 正直なところ、あの氷村という男が巡とかぼをどうしたいのか、はっきりとした目的がまだわからない。あまり友好的な雰囲気でなかったのは確かだが、一体彼は、巡たちをどうしたかったのか。氷村が魔物を放ったという証拠もない。

 どうしたいのか、なんて、それを聞いて、巡の望むような事態になるかどうかもわからないし、むしろそうでない可能性が高いわけだが。相手の思惑がわからないうちは、具体的に動くのも難しい。

 そしてこのまま一生、逃げ隠れしながら生きて行けるわけもない。


 どういうつもりでかぼと一緒にいるのかと、氷村はそんなようなことを巡に質した。

 ということは、かぼさえ巡から離れれば、巡をつけ狙うことをやめるというのか。

 それで全てが丸く収まるなら、かぼは躊躇なく巡から離れるだろう。けれど、この逢魔が時から魔の刻において、生の刻の住人と魔の刻の住人、攻撃的でない者同士であるなら、共に暮らすに越したことはないのだ。共存を選ぶことで、生の刻の住人は、魔の刻でも少しは過ごしやすくなるというのに。

 もっとも、純粋な魔物ではないかぼたちのような物の怪も、全てが友好的というわけでもないのだし、その見極めは正直難しい。それは生の刻の住人、いわゆる人間などにも言えることであるから、何も物の怪に限った話ではないのだが。

「まあ、あの時ヤツは、担任の妨害を受けて撤退したからの。そのうち頼まんでも姿を現してくるとは思うが」

 すぐにまた接触することになるだろう。

 その前に、理解者をひとりでも多く確保した方がいいかもしれない。

 他人を巻き込むのは本意ではないが、黙っていても危険にさらされそうな人間には、逆に事態を把握してもらっておいた方がいいだろう。

 すなわち、母や姉には。

 昨日の魔物を芽衣だけは目撃しているが、結局のところ、逢魔が時のことについて詳しい話はまったくしていないのだ。

 理解しておいてもらった方が、何かの時に素早く対応できる。


「あとは、天笠の爺にも言っておいた方がいいな」

「……なんで?」

 思いも寄らぬ名前が出て、巡は面食らう。

「爺さまにはミズがいたからの。物の怪と接触のある人物として、チェックが入っている可能性がある」

 ミズは、かぼたちのような物の怪とは少し違う。こういった付喪神的な物の怪は、ほとんど間違いなく人間に害を及ぼしたりしない。なのにどうして、そのミズと接触があるからといって荘二郎が狙われなければならないのか、巡には即座に理解が及ばない。

「あくまで仮定だから、本当に奴らが爺を監視しているかどうかはわからんが」

 わからないが。しかし、おそらくは。

 いくらそれが付喪神のような存在でも、一度そういったものに接触した人間は、基本的に魔の存在を察知しやすくなる。荘二郎にその傾向は現れていないように思えるが、実際はいつまた魔を見つけてしまうかわからない。連中もそれを知っているだろうから、荘二郎を監視していても、何ら不思議はない。それどころか、すでに釘を指す方向で動いている可能性だってある。

 巡だって、気付けば彼らの監視下にいた。

 彼らの視界は、どこまで広がっているのだろう。想像だにできない。


 最初にどう行動すべきか。

 巡は迷った。


 家族に話すか、荘二郎に確認を取るか。連中との接触を試みる方向で行くか、その前に朝比奈に相談すべきか。

 選択肢の多さに、巡はしばし、頭を抱えて悩むことになった。




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