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逢魔が時!  作者: 日野ヒカリ
第四話 【魔と降魔】
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…… 9 ……



 かぼの表情は渋い。

 一同の視線が集中する中、かぼはどすんと床に尻をついてあぐらをかいた。

「この逢魔が時に、あんな魔物がほいほいと出てくるわけがない」

 まだ、そういう時期ではない。

 かぼたちのような、拠り所のある物の怪、つまり、生の刻に近しいものから次々と動き始めるが、魔の刻の空気そのものから生まれるような、純粋な魔物は、今のこの時代にそうそう生まれるものではないはず。

 かぼの言葉に、シンだけがうんうんと頷いた。

 さっき対峙したような魔物は、魔の刻に生まれ、生の刻には消滅する。生の刻の空気では存在し続けるのは難しいからだ。時代をまたぐことは、まったくと言っていいほどに無い。そこがかぼたち物の怪との大きな差だ。

 だからまだ、生まれてくるには早いはずで。

「じゃあなんで、あんなのがうちの中にいたんだよ」

 巡の疑問に、かぼは唸る。


降魔こうま、しか考えられん」


「降魔?」

「奴らならやるかもしれん。氷村か、研究機関の過激派とかいうお仲間か」

 機関と聞いて、巡は氷村との会話を思い出す。だが、降魔とは何だ。

「魔の刻になれば、人間の持つ力の中でも、魔に関する部分が強くなる。そういった力に長けている人種は、己の力で魔の力を魔物として形作り、生み出すことが出来る。それを、降魔という。多分奴らの中に、その力を持っている者がおるのだろ」

 力のある者といっても、その力の大きさは、時代が大きく左右する。生の刻と魔の刻では、力の大きさには歴然とした差が生まれる。生の刻の住人の「生きる力」は魔の刻には弱くなるが、生の刻の住人が持つ、逢魔の力を含む魔に属する力だけは、魔の刻の方が格段に上がるのだ。だから、先程相手にした魔物は今は大した強さを持っておらず、苦労せずに倒すことが出来た。もちろん手加減している可能性もあるが。

「あの人かその仲間が、あれを作り出したっていうのか? それで僕の家を襲わせて……なんて、なんでそんな必要が……って」

 あれ、と巡は思う。

 彼らはどうも、物の怪と一緒にいる巡か、もしくは巡と一緒にいるかぼが気に入らないらしいが、その巡を脅す目的があったにしろ、いくらなんでも早急すぎるというか、それよりむしろ。

「魔物を良しとしない人間が、なんで魔物なんて作り出すんだよ……」

 目的と手段が相反しているというか。

「ん~、まあ、の」

 今日のかぼは、うなりがちだ。

「例えば魔の刻に、人間が己の生み出した魔物を使い魔とし、襲い掛かってくる魔物に対抗したという事例はあるな。逆に、魔物を使って悪さをしようとする人間も、当然いつの世にもいる訳だが。しかしの……」

 この世界に魔物はいらない、人間が一番だと考えているような連中が、わざわざ自分で魔物を作ってまで、物の怪に向かわせるとは。それほどまでに、物の怪が憎いか。

 魔物には魔物。

 純粋な魔物でないかぼのような物の怪に、浄化の力はまず効かない。魔の力には魔の力で対抗するのが一番いいと、知っているのだろうが。

 しかしその危険性は、理解しているのだろうか?

 もともと、生の刻に属する者の力自体が弱まるのが魔の刻なのだ。

 魔の空気に当てられて、魔の力を使役できる人間は増えてくるが、それでも人間は魔の刻において圧倒的に不利。当然だ。生の刻の住人は、生の刻に繁栄する者なのだから。

 魔物を使役できる人間にしたって、力の強い者はそう多くないし、その少数の人間がどんなに頑張ったところで、せいぜい自分の身近の安全を少々確保するくらいのもので。自分の作り出した魔物を制御しきれなくて、破滅を迎える者だっている。諸刃の剣だ。

 そうとわかっていても、抗わずにはいられないのが人間なのかもしれないが。

 同じ人間である、巡の安全を脅かそうというのはいただけない。

 まさか、魔物と共にいる人間は、一緒に消し去ってしまえばいいとでも思っているのか。魔物を肯定する、人間の敵として? 降魔を使ってくるなど、そうとしか思えない危険行為だ。

 だからこそ過激派と呼ばれているのだろうが。

 かぼたちを敵としているのは、機関そのものではなくその一部の過激派だ。


「話してる意味がよくわからないんだけど~」

 それまで黙っていた芽衣が、口を開いた。

 そういえば芽衣には、ちゃんとした形でかぼや逢魔が時の話をしたことはなかった。かぼが人間ではないということだけはナチュラルに受け入れてしまっていたようだが、なぜかぼが現れたのかとか、そういうことはまったく知らない。

「とにかく、これって安心して眠れないってことなんじゃないのかなあ?」

「……」

 言われてみればそうだ。

 こんな風に、いつどこで魔物に襲われるかわからない状況では、夜眠ることも難しい。

「まあ、問題なかろ」

 かぼは、サラリと言う。

「芽衣がさっき塩を投げたら効いただろう? 魔物は人間の作る結界や浄化の守りには弱いものだ。あの、お札を貼ったり塩を盛ったりする行為だな。あれで案外防げるものだ」

 魔の刻の全盛期には、人間もそうやって身を守ってきた。もともと、自然な状態であるなら、人の作った建物自体、ある程度結界の役目を果たすものなのだ。その代わり、魔物が活性化する夜に外をうろつく人間はほとんどいなかったが。

 不夜城のようなこの時代ではどうなることやら、と思わなくもないが、人間の作る喧騒も、魔物の弱点となり得る場合があるから、その辺の良し悪しは相殺といったところか。

「まあ、今回のようにわざわざ家の中に向けて魔物を放たれた場合、防ぎようがないがの。そうとわかっていれば、かぼがいるから一応は安心だぞ」

 人間の作る『建物』という領域の中では、魔の力は弱まる。が、それに加えて。

「わちは物の怪だからの。実は不眠不休で大丈夫なんだ。メグたちが寝ている間、家の中を見張っていることくらいは出来るぞ。おかしな気配があれば、すぐに叩き起こしてやれるしの」

 かぼは雨には弱いが、家の中に雨は降らないし。それに雨自体は、苦手というだけで、かぼの存在自体を危うくする弱点ではない。さっきは一瞬虚を突かれたが、そうと覚悟していれば、あんな不覚は取らないで、もっと早くに気配を察知できる。

「そっか……」

 とりあえず、巡と芽衣は納得するが。


 本当は、わかっている。

 どんな目的があるのかは知らないが、こんなことが繰り返されるのだとしたら、多分いずれはこちらの神経が参ってしまう。

 どうにか、対策が必要なのだと、この場にいる全員が考えていた。




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