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逢魔が時!  作者: 日野ヒカリ
第四話 【魔と降魔】
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…… 7 ……


 もう大丈夫だからと、巡は家に帰された。

 けれど不安は消えない。

 もう家に帰った方がいいと朝比奈は言っていたが、大丈夫ってどう大丈夫なのかと問い質したいくらいだ。正直、家の中なら安心だなどと今の巡には到底思えなかった。相手は既に巡の家も知っていて、いつどんな手を使って乗り込んでくるかもわからないのだ。だからといって、他に逃げ場がある訳でもないのだが。


 どういうつもりで、かぼと一緒にいるのかと訊かれた。

 どういうつもりって、要は成り行きで。

 でも今は家にかぼやシンがいるのが当たり前になっていて、いなくなればいいとか、そういう風には思わない。

 それを知って、相手はどうしようというのだろう。

 そこに魔の刻の者がいる限り、また彼が現れるのは必至だ。本人もそう言っていた。

 それで、どうする?

 朝比奈の言うことをそのまま受け止めるとするなら、氷村はかぼを、どうにかしようとしているのではないか。例えば、物の怪であるかぼを、消してしまう――とか。

 彼にそんなことが出来るのかはわからない。

 けれど、そうする気満々なような、そんな気配だった。

 それをするためなら手段も選ばないような、そんな気さえする。そんな容赦のない印象が、あの氷村にはあった。


「どうすればいい?」

 考えの煮詰まった巡は、かぼに向かって訊いた。

「どうもこうもないわな。なるようになるし、なるようにしかならん」

 かぼの返答は明快だが曖昧だ。

「過去にそういう輩がまったくいなかったわけでもないしの。わちらは慣れっこだ。それをかいくぐってきたから今わちはここにいる。けど、負ければそういうわけにはいかんの」

 相変わらずの、不真面目そうなニヤけ顔。多分、かぼ自身は大真面目に答えているのだろうが。

 けれど巡は落ち着かない。当然だ。

 自分が誰かに狙われるなど、これまでに経験したこともなくて。それが、どう出てくるかもわからない。

 正直、怖い。

「まあ、少なくともあ奴そのものは、ぬしにはそれほど危険はないだろ。この界隈にいる限りはな」

 呑気そうに、かぼは言う。

「なんで」

「奴の身元は、割れてるだろう。経歴に何がしかの虚偽がある可能性もなくはないが、それにしたってこの近辺の学校で教鞭を取っている身だ。警察沙汰になるような無茶はしないだろうよ」

 かぼの言葉は少々難しかったが、それでも、それもそうか、と巡は思う。が。警察沙汰。あまり体験したくはないが、実際はどうだろう。

「もっとも、あの男以外の誰かが出てくればわからんがの。そもそもその何とか機関というのは、わちも良く知らん」

「……」

 嫌なことを言ってくれる。

 こんな状況で、頼るものが何もないというのは苦しい。何かが起こった時に、身体を張って大丈夫だと安心させてくれる存在がないというのは。

 普通に生活している限りは、巡はまだ年長者の保護下にいるのが当然な年頃なのだ。

「……メグ。これは母上にも相談した方がいいかもしれん」

「えっ?」

 自分の思考を読むかのような台詞に、巡は驚いてかぼを見る。

「メグ自身の危険の可能性もそうだがの。やはり、ぬしひとりで対抗しようとするのは良くない」

 それに、遅かれ早かれ、この世界は別のものへと変貌していく。

 できることなら、それを知っている人間から少しずつ、そういう世界への免疫を作っていった方がいいと、かぼは考える。

 もうメグは知っているのだから。

 メグから家族へ。そして地域へ。急ぐことはないし、ただ単純にそんなことをふれ回っても、どうかしてしまったと思われるのがオチだ。だから、まずは一番近いところから。幸いメグの家族はかぼたち物の怪に一応の理解がある。それに関係するところで巡が狙われていると知れば、彼女たちなりに守ってくれるだろうし、自衛もしてくれるだろう。

 その時、かぼやシンがどう思われるかは定かではないが。



 カリカリ。


 ドアの向こうで、微かな音がした。


 カリカリカリカリ。


 巡はすぐに察する。これは、猫のシンが扉に爪を立てている音だ。入れてくれとせがんでいるのだろう。

 かぼが立ち上がって、ドアを僅かに開けてやると、「やーん」と甘えるような声で飛び込んできたシンが、巡に飛びついてきた。

「シン。どうした?」

 ぐいぐいと押し付ける勢いで、巡の肩にやたらと擦り寄るシン。普段から人懐こいが、こういう彼は珍しい。

「……」

 かぼが、そんなシンの様子に目を細めた。


「そう来るか。相談する間も与えてくれんらしい」

 かぼは、小さな声で呟いた。




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