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逢魔が時!  作者: 日野ヒカリ
第四話 【魔と降魔】
39/63

…… 6 ……



 世界のいたる場所には、魔物が出現しやすいポイントというものがある。

 それに関する定義は確立されてはいないが、長い歴史の中で、その地点だけは確実なものとして確認されている。未だに発見されていない地点もいくつもあるのではないかという仮説もあるのだが。

 それは日本にもいくつか点在していて、そのひとつが、藤乃木学園グループの小中高の学舎が近接して建つ地域一帯なのだ。

「なんでそんな場所に学校なんて作ったの……」

 巡の疑問ももっともだ。

 朝比奈は苦笑する。

「まず最初に言っておくけどな。魔の刻に対する研究機関、これを起ち上げた創立者の中に、藤乃木学園グループの理事長もいるんだ」

 藤乃木学園グループの理事長。学園を創立した人物だ。

 随分な高齢と聞くが、巡はその人物を見たことがなかった。これまでに一度も、学校で姿を見せたことはない。その名を聞く機会があるような場面でも、いつも代理を立てていた。見たこともない人物だから、もちろんそんな怪しげな機関の創立メンバーだなんてことも知るわけがなかった。もっとも、そんな機関の存在自体を、巡はついさっき知ったのだが。

「もともとあそこには古くから魔の浄化を生業としてきた藤乃木家の有する社があって、神域とされていたんだけどな。成瀬は知らないかもしれないが、高校の裏手には、今も小さな社は残っているんだぞ。で、まあ……」

 朝比奈、少々言いよどむ。

「学校の作り自体が祓いに都合のいい形になっているとか色々あるんだが、要は、将来的に退魔に優れた人材を育成する場にしたいと、そういう目論見があったんだけどな」

「…………」

「……コメントに苦しむ心境なのは良くわかる。がな、まあ、あまり馬鹿にしたものでもないんだぞ。近い将来、魔の刻が訪れれば、おのずとそういうものに対抗できる人間ってのは増えてくるのが自然の摂理ってもんで、それを教育する専門機関があれば、さらにそれは優秀な者になる」

 朝比奈の言いたいことはわかる。

 だが巡にとってはどうしても現実味がないというか、想像の世界に行きがちな子供を現実に引き戻す役割を担っているはずの大人が、率先してそんなことをやっているなんて信じがたい、という感情の方が先に立ってしまうのが正直なところだ。

 もっとも、今となりにかぼがいる時点で、それは想像の世界ではないのはわかっているのだが。

「だから今は、あくまで準備段階で、藤乃木学園は普通の学校として機能しているんだけどな」

 まあそのうちわかるよ、と、朝比奈は言う。

「いずれ、10年20年と経てば、時代の変化にお前も気付く」

 魔の刻という、現実に。

「で、話を戻すけどな。そうやって創立した学校なんでな。その中の教員や学生には、研究機関の人間が紛れ込んでるんだよ」

「学生も?」

 巡の意外そうな言葉に、朝比奈はうんと頷く。

「高校だけだけどな。そもそもその機関ってのが、古くから横の繋がりのある連中だけが関わっている由緒正しき内輪受け軍団なんでな。せいぜい高校生くらいにはなっていないと、内情が露呈しかねないんで、そもそも機関にほとんど子供はいない」

 本当に、現実にあるとは思えない話だ。


 朝比奈も実のところ、ふと気付いたらそのメンバーの中に名前を連ねていた、という経歴がある。

 朝比奈家というのも、古くからそういったことに深く関わりのある家系で、神道に身を置く親類も多くいる。その中には機関に関わっている人間も少なからずいて、朝比奈自身、知らずの内にその力ゆえにメンバー候補に上がっていて。

 高校在学中にそれを知った朝比奈は、それ以来、頑なにそれを拒んでいたのだが。

「本人の意志もお構い無しにそんなことを言われてもなあ……」

 それで、内情を少々知っているのに仲間にならないからといって裏切り者扱いされても、正直困る。というか理不尽この上ない。

 こんなはずではなかった。

 機関の創始者の中では、朝比奈は藤乃木家とだけ面識がある。他のメンバーは日本や世界のあちこちに散らばっていて、名前さえも良く知らない。けれど。藤乃木に関して言えば、そんな風に人を拘束するような人間ではなかったはずだ。

 裏切り者の烙印を避けられない――なんて。

 そんな風に言われなければならない理由が思いつかない。

 誰も最初から、そんな機関を作ってくれとも入れてくれとも頼んでいない。

 多分、そんなことを言っているのは一部の過激派の人間だけなのだと思うが。一度しっかりと、藤乃木に確認を取った方がいいのかもしれない。


「先生が藤乃木小の教師なのは、その機関の関係?」

 機関の人間ではないと、朝比奈は言うが。無関係であるとは、巡には思えない。

「確かに、普通の教師とはルートは違うな。まあ教職は取ってたし、知らない仲でもないし、機関云々とは関係無しに、これからの時代、ゲートであるこの場所で勤務することで、多少は子供たちを護ることが出来るんじゃないかと藤乃木に打診はされたんだよな」

 機関とは関係無しに。そういうはずだったのだが。

「ふうん……」

 無表情に納得する巡に、朝比奈は多少の居心地悪さを感じる。後ろめたさというか。今この子に、自分はどういう感想を持たれているのか。

「正直な話、別にオレは機関に悪い感情は持っていない。けどな、いちいち乱暴な行動を取る連中には、感心できないんだよ」

 そんな人間ではないと思っていた氷村でさえ。

 かぼに対する負の感情は、まるで隠していなかった。

 物の怪であるが故に、人間と共にいていい存在ではないと、全身で語っていた。

 どうしてあんな風に攻撃的になってしまったのか。


 当のかぼはといえば、朝比奈と巡のやり取りを横で聞きながら、呑気な顔でソフトクリームを征服している。巡に負けないくらい、感情の読み取れない少女だ。


 さて、どうしたものかな。

 朝比奈は、隣に座る巡にも聞こえないような微かな声で呟いた。




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