デビュー作のタイトル決まらなすぎて編集さんと滝行しながら60本ノックした話。
──名前。
その事物を表す名称。
他と差別化するための記号。
あるいは、願いや希望を込めた祝福。
「名は体を表す」ということわざにもあるように、名前はその事物を象徴する重要なものです。
みなさんは、何かに名前をつけたことはありますか?
その時、すぐに決められましたか?
それとも、けっこう悩みましたか?
私は普段、あまり悩んだり迷ったりすることなく「これ!」と決められる人間なのですが、この度、めちゃくちゃに悩む命名案件がありました。
それが……
ライトノベル作家としての、デビュー作のタイトル決めです。
2025年10月、『第一回Nola原作大賞』にて早期受賞という形で商業化が決まり、担当編集さんとの二人三脚が始まりました。
そこから、「応募時のタイトルから変えましょう!」と話し合い……
最終決定したのが、今年3月です。
つまり、半年間なっかなか決まらなかったわけですね。
出し合ったタイトル案を数えてみたら、なんと60以上もありました。
ということで、今回はデビュー作のタイトルを決めるまでの紆余曲折をまとめた備忘録にございます。
■デビュー作のあらすじ
そもそも何故、こんなにタイトル決めが難航したのか。
その理由は、ひとえに本作の内容にあります。
ここで、本作のあらすじをご紹介しましょう。
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高校デビューを目論む落留咲真は、運良く入学初日から正統派美少女・烏丸芽縷、オタク系美少女・煉獄寺薄華の二人と知り合いになることに成功する。
が、その夜、彼は異世界へと召喚!?
異世界の姫・チェルシーから「世界を救うために子作りを……」と言われ超展開に巻き込まれるがこれを拒否! 彼は現代へと帰還する。
高校生活を謳歌するつもりが次の日には咲真を追いかけチェルシーが転校生として現れる。
さらに、芽縷と薄華の思いがけない正体や、咲真に秘められた特別な力まで明らかになり、彼の日常はあっさりと崩壊していくのだった──。
(NolaブックスGlanz特設ページより)
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ここからも読み取れるように、本作は高校デビューから始まる現代ラブコメディでありながら、異世界転移もします。
さらに、異世界転生要素と、タイムパラドックスも絡んできます。
その上、主人公には最強魔力があり、魔法で無双が可能です。
つまり、1作品の中にジャンルが山盛りてんこ盛り。
なので、これら要素をタイトルとしてどうまとめるか、非常に悩んだわけです。
■タイトル迷走の歴史
実は本作、書き上げたのは2019年で、『第一回Nola原作大賞』に応募する前にもいろいろなコンテストに応募していました。
その時からこの作品のタイトルを何にすべきか迷走していたので、その歴史も振り返っておこうと思います。
まず、最初に応募した某コンテストでのタイトル↓
・「異世界転移拒否から始まる非日常的高校ライフ」
続いて、「小説家になろう」をはじめとする小説投稿サイトに掲載した時のタイトル↓
・「青春ラブコメディは、異世界転移拒否から始まる。」
最後に、『第一回Nola原作大賞』応募時のタイトル↓
・「高校デビューに成功したので異世界転移を拒否したら、青春ハーレムラブコメディが始まった件」
まぁ見事に迷走していますよ。
しかもよく見ると段階を追うごとに文字数が長くなり、含んでいる要素も増えている。
ポケモンの進化かよ。
■昨今のラノベタイトル
ご存知の方も多いかと存じますが、昨今のライトノベルのタイトルには長いものが多いです。
それは、自分に合う作品を探している読者さんに、「こんな作品ですよ」とわかりやすく伝えるためなのだと思います。
しかしながら、短い文字数でビシッと魅力を伝えているタイトルもたくさんあります。
では、本作はどうするべきか。
長いタイトルと短いタイトル。どちらにも利点はありますが、本作に関して言えば、編集さんと案を出し合った当初から互いに長めのタイトルを提案していました。
理由は前述の通り、この作品は様々なジャンルを内包していて、アピールすべきポイントが多いからです。
たとえば、初期に挙がった案はこんなかんじ↓
・「姫と魔王と未来から来た女子と交差するラブコメが始まりました」
・「転移×転生×タイムリープな美少女たちとラブコメしながら異世界救う話」
ヒロインたちが持つ特殊性と、「ラブコメ」というジャンルに焦点を当てたタイトル案です。
かわつた「ヒロインたちの特殊性はぜひアピールしたいですよね!」
編集さん「方向性はいいので、これをベースによりキャッチーなものを考えましょうか!」
ということで、ここから半年に渡るタイトル案60本ノックが始まります。
■キャッチーとは何か
キャッチーとは……
人気になりそう、受けそうであるさまのこと。
キャッチーなタイトルを考えるべく、私は既存のラノベ作品のタイトルを観察しました。
超売れている人気作。
今月発売の最新作。
そして、自分がこれまでに愛読してきた作品。
すると、目に留まるタイトルには、いくつかの共通点があることに気づきました。
①「どういう意味だろう?」と興味を惹かれるワードがある
②ゲーム用語やネットスラングなどを用いる遊び心がある
③タイトル内であえて矛盾を生じさせている
※あくまで個人的に気になるタイトルに上記の特徴があったという話です。
それを踏まえて考えてみたのが、こちら↓
・「俺の青春は異世界SFラブコメディに侵略されました」
・「高校デビューに成功したら異世界救済ラブコメが始まった〜超時空なヒロインたちとの青春リスタート〜」
『異世界SFラブコメディ』という一見「??」なフレーズや、『侵略』『リスタート』というゲームっぽさのあるワード、「高校デビュー&ラブコメなのに異世界救済で超時空?」という矛盾などを入れてみました。
しかし、いまいちしっくりこない。
そこで、ラノベ業界に精通しまくっている超敏腕な編集さんが、こんな天啓を授けてくれました。
編集さん「検索に引っかかりやすいワードを入れられるといいですよね!」
け、検索に引っかかりやすいワード……!!
目から鱗でした。
言われてみれば私自身、小説投稿サイトで検索されやすいワードを「タグ」という形で設定した経験が何度もあります。
それを、タイトルに入れ込むわけです。
そうなると、ぜひとも入れたい本作のキャッチーな要素があります。
それは、「ラブコメ」そして「最強魔力」。
どちらも昨今のラノベにおける人気要素です。
で、考えてみた案がこちら↓
・「最強魔力を持つ俺は、普通の青春ラブコメディを送れない」
・「ここから入れる青春ラブコメってあります?〜最強魔力を持つ俺は訳アリ美少女たちに狙われている〜」
・「最強魔力を持つ俺が、異世界の姫と魔王とタイムトラベラーとフツーの青春を目指す話 」
編集さん「この↑3つ目のやつ、いいですね!」
かわつた「ですよね! あ、でも『タイムトラベラー』じゃなく『未来人』のほうがいいんですかね? 読者の中には私と同じハルヒ世代もいるだろうし、『未来人』ってワードに惹かれるんじゃ……」
編集さん「ここは『タイムトラベラー』でいきましょう。何故ならパッと見、異世界の姫と魔王の中に異物混入感が生まれるからです」
かわつた「異物混入感……! た、たしかに!!」
編集さん「違和感って大事ですからね。これで一度、編集部に提示してみます!」
かわつた「ぜひともお願いします!!」
そうです。うちの編集さん、ものすごくデキる方なのです。
■悩み過ぎて滝行する
数日後。編集さんからご報告がありました。
編集さん「編集部に提示してみたところ、『うーん、もうひと声!』とのことでした」
かわつた「Nola編集部ってそんな競りみたいなノリなんすね」
編集さん「『最強魔力』の路線で再考してみましょうか……」
かわつた「そうですね……」
このやり取りをしたのが、今年の2月。
早期受賞からすでに5か月が経過しています。
私も編集さんも連日タイトル案に頭を悩ませすぎて、関連ワードが完全にゲシュタルト崩壊を起こしています。
編集さん「こういうのってボーっとシャワー浴びている時とかに急にいい案が降ってきたりするんですよね……」
かわつた「それめっちゃわかります……私もいいアイディアが降りてくるのはだいたいシャンプーしている時です」
編集さん「まだ時間があるので、納得いくものをじっくり降ろしましょう」
そこから、私と編集さんは滝行のようにシャワーを浴びまくり、水道料金という名の賽銭を投げながら、アイディアの神に祈りを捧げました。
頼む。大事な大事なデビュー作なんだ。
どうか、ビシッとハマるタイトルのアイディアをクレメンス──
その祈りに応えるように、私の脳裏にあるひらめきが降りてきました。
それが……
「青春を殺す」というフレーズです。
■『青春』への加害がはじまる
かわつた「やっぱり主人公の不遇感というか、不本意感みたいなものを匂わせたいなと思って。こんなのを考えてみました!」
・「俺の最強魔力が青春を殺した結果、異次元ラブコメディが始まりました」
・「魔力強すぎて青春死んだ、代わりに異次元ラブコメ始まった」
・「青春埋めたら異世界SFラブコメディが生えてきた」
編集さん「『青春』に強い恨みでもあるんですか?」
かわつた「主人公は高校デビューをして普通の青春を送りたいのに、『最強魔力』があるせいで日常が狂った。そんな『普通のラブコメじゃない感』を強調したくて!」
編集さん「いいですね! ではそこに、ヒット作に共通する最強ワードを組み合わせてみませんか?」
かわつた「ヒット作に共通する、最強ワード……?」
編集さん「ずばり、『ゼロ』です」
■『ゼロ』の鉄則
かわつた「ぜ、『ゼロ』……!」
編集さん「『ゼロ』という言葉には不思議な魅力があるんですよね。売れている作品の中には『ゼロ』が入っているものが多いと思いませんか?」
かわつた「たしかに、思い浮かぶだけでもいくつもある!」
編集さん「主人公の青春や日常が狂わされた不遇感を『ゼロ』という言葉でうまく表現できたら、いいタイトルになるはずです!」
かわつた「あんた……天才だよ!!」
そうして、私と編集さんは『ゼロ』を使ったタイトルを考えました。
途中、『最強魔力』か『ラブコメ』、どちらかに絞ったほうがいいんじゃないか? という話になり、メインジャンルである『ラブコメ』を残すことに決めました。
・「青春期待値ゼロな俺の魔力依存なラブコメディ」
・「青春HPゼロな俺のフツーじゃないラブコメディ」
・「ラブコメ始まったと思ったら、この世界のヒロインゼロだった」
・「平凡になる可能性ゼロな俺の青春生活日記」
・「世界に秘密な俺の普遍性ゼロな青春生活日記」
違う。もっとだ。
もっとビビッとくるタイトルがあるはず。
そして……
編集さん&かわつた「こ、これだ……」
「日常感ゼロな俺の青春崩壊ラブコメディ
~異世界の姫と魔王とタイムトラベラーと世界を救う話~」
なんということでしょう。
『日常感ゼロ』の部分で普通じゃない感を演出し、
『青春崩壊』の部分で見事に主人公の不遇感を匂わせ、
その後の『ラブコメディ』で「えっ、ラブコメなのに青春崩壊?」という矛盾をも魅せる。
さらに、ヒロインの特殊性と『異世界救済』要素は副題にそっと添える。
まさに、匠のわざ。
2026年3月。
デビュー作のタイトルが、ようやく決まった瞬間でした。
おめでとう、かわつた。
きみが迷走し続けた作品の名は、最長かつ最強なタイトルにメガシンカした。
※本エッセイは編集さんに許可をいただいて作成しています。
※実際の編集さんとのやりとりはもっと丁寧だし、Nola編集部は競りみたいなノリではありません。たぶん。
※しかしながら、うちの編集さんが超絶シゴデキな匠であることは事実です。これからもお世話になります。
ということで。
滝行と60本ノックを経てバッキバキに仕上がった我がデビュー作が、最強に可愛い書影を纏って、本日2026年5月2日いよいよ発売です。
Amazon Kindle、楽天Kobo、BOOK☆WALKER、DMMブックスなど、幅広い書店さんで取り扱いがあるので、ぜひチェックしてみてください。
2巻もそのうち出ますよ。
また、同時受賞した他2作品も発売に向けて動いていますので、引き続きよろしくお願いいたします!!





