第八話 女王アリエコーのプレゼン力
場所は移り、ルミナスト王都。
ルミナスト王都──
それは光と秩序が交差する、石造りの都。
遥か上空にそびえる「七光の塔」が、魔力を反射する結晶ガラスをまとい、昼は太陽の光を、夜は星々の光を街に降らせている。
王都の中心を走るのは、古代より流れ続ける《聖銀の水路》。
水路は音もなく、まるで意思を持っているかのように街角の水車を回し、花壇へ潤いを運ぶ。その水路に沿って石畳の道が延び、王宮へ、そして街の四方へと分かれていく。
南区には《魔具街》と呼ばれる職人通りがあり、鍛冶屋のハンマー音と、錬金術師の爆発音が絶えず響いていた。
北区の《政院》には王家直属の文官たちが集い、魔法の天球儀を前に静かな議論を重ねていた。
そして街の奥には《星環の宮》。
王の住まうその城は、空に浮かぶ星のように光輝いて見え、聖紋の刻まれた橋が唯一の接続路として宮と街を繋いでいる。
その宮に住むフィルネア・セリオネス第二王子は、今日も夢にうなされていた。
最近ほとんど毎日見る夢だ。
夢では、顔が見えないのだが、予言者のような人物が毎度同じことを言う。
『お前は1人の友と出会うだろう。
その者は光でも闇でもなく、世界の狭間より来たりて、お前の心に欠けた半身となる。
互いの影を照らす時、道は一つに結ばれ、
滅びの鐘は静まり、眠れる秩序が目を覚ます。
その友を疑うな。その友を失うな。
世界の命運は、お前の隣に立つその者に託されている。』
「あなたは、誰なのです!?何故いつも同じことを言うのでしょうか?」
いつもは予言を聞いてすぐ目が覚めていたのだが、日に日に疑問が深くなり、絶対聞かないといけない。という思いから今日はやっとのことで問いを投げることが出来たようだ。
『ふふふ。大事なことは2度以上言わなければならんからな。…ま、わしも年寄りでな?
同じこと何回も言わんと気がすまんのじゃ。
イッツ・デスティニーじゃ!ふぁ〜↑↑!』
変わった人だな。最後のイッツ・デスティニーとやらは何かの呪文だろうか?
イッツ・デスティニー・・・。
それからというものの、予言者は夢に出てくることはなくなった。
心配性な予言者は、大事なことを伝えることが出来て、やっと落ち着いたのだろう。
王子はそれから毎日アルシェラム記録院へ赴いた。
アルシェラム記録院へ一歩足を踏み入れると、空気が変わる。
ざわめく王都の喧騒はまるで魔法のように遮られ、代わりに“紙の香り”と“静寂の重み”が空間を支配していた。
天井は高く、幾何学模様のステンドグラスが淡い光を落とす。
その光に照らされて、ホコリひとつない大理石の床がぼんやりと青白く輝く。
書架は天井近くまでそびえ、古今東西の文献や禁書、地図、伝承、魔術書がぎっしりと収められている。
中央には“記録の泉”と呼ばれる魔力で動く円卓があり、指をかざすだけで書物を浮かび上がらせる仕組みになっている。現代でいう、検索コーナーだ。
司書たちは皆、顔の半分を仮面で覆い、無言で滑るように書架の間を移動している。
彼らは“閲覧者”ではなく、“守書者”──この記録院の秘密を護る存在でもあるという。
時折、天井付近の梁からは光る羽根を持つ“紙精”たちが舞い降り、閲覧者のもとへ本を運ぶ。
この幻想的な光景を初めて目にした者は、決まって息を飲むのだ。
王子は調べ物をしていた。
記録の泉で、「イッツ・デスティニー」と唱える。
が、全く反応が出ない。
仕方ないので手作業でイッツ・デスティニーについて調べてみているのだが、全く見当たらない。
「せめて意味だけでも、知りたい」
王子はそう呟いた。
予言といい、意味深な言葉といい、謎は深まるばかりだった。
一方その頃、危険度5 魔王樹海ーー
みんなのレベルを知った来夢は、更なる修行に励んでいた。
何故ならば、チュニの言いつけにより、自分のステータスをみることは禁じられていたのだ。
転生してからずっとつけ続けているお手製のカレンダーがある。
縦線1本で1日、4日で縦線4本、5本目は1〜4に横線を引いて5日ごとに区切っている。
イェイな家の壁は一面だけカレンダーになっていた。
この塊が6個で1ヶ月。几帳面で効率重視の来夢は、6個出来るごとに四角で囲んでいく。
四角を数えるともうかれこれ8ヶ月が過ぎ去っていた。
一年で結界が消滅し、いつ魔物が襲ってくるか分からない状況なのでカレンダーはとても重要な役割を果たしていた。
今まで修行を重ねてはきたが、自分がどのような強さなのかまるっきり分かっていないのだ。
チュニ曰く、ステータスを見てしまっては“力に驕って(おごって)しまう”かららしい。
要は慢心するなということだ。
それはそうだ。
ここは未知の世界、どんな魔物がいるのか、どんな強さなのか全く分からない。
ゲームで例えるならば、まだ第一の村を出ていないのに、そこにラスボスがいる状態なのだから。
楽しい楽しい冒険途中のレベル上げを我が家で終わらせないといけないのだ。
おそらくはこの間マクマクセンサーでみたバランスボール(のように大きな反応を示していた魔力)がラスボス級だろう。
幸いなことにずっと同じ所から殆ど動かない。
死んでるのかな?
んな、まさかね。
どうにかして調べることは出来ないだろうか?
と、悩んでいるとエコーがどこからともなく現れた。
「我、この森、調査したい。主、ご許可を」
え?ナイスタイミング!!
『でも、調査って危険じゃない?大丈夫なの?』
「我の下部、御身の為ならば喜んで尽くしましょうぞ」
『そ、そっか』レベルも高そうだったし、自信もありそうだから大丈夫だよね?シモベってのが少し気にかかるけど・・
『じゃあお願いしようかな!』
「お任せあれ」
その一言と同時にエコーは消えた。
その日の夕方、また突然エコーが現れた。
『おかえり!え、もう調べたの?』
「御意」
にわかには信じ難い。
だって半日で調査なんて終わるはずがない。
この森の広さ知らんだろ!
あれか、これはエコーのお戯れというやつか!
暇だからと言って調査ごっこでもしてみたのだろう。
普段からエコーだけは何をやっているか分からなかった。
ヒヨコのヒョドは草さえあれば楽しそうにしてるし、柴犬ぽい雷毛玉のイカちゃんは魔物を狩ってきては焼けと言ってくる。
生で食べるより、焼いた方が美味しかったようで、毎回違う肉を持ってくる。
ドラゴンのドラゴ(勝手に名付けた名前)は、いっつも寝てる。
朝起きたらドラゴがもう起きてるから、もしかしたら夜型なんじゃないかと考えている。
昼には寝ちゃってるから。
エコーは朝姿を見たきり次見るのは夜なので、全く何してるのか分からないのだ。
今回は調査と言って実はその辺の丘に登って周りを見渡してきただけとかそんなオチなんだろう。
ここは、ノッてあげることにした。
それらしく、それらしく。
『では、エコー、報告せよ』
かーっ!我ながら主っぽいじゃん!!!
「御意。まず結論から。
この森は魔王の根城、含む、異常な構造持つ危険地帯。
魔王の拠点、約一千の兵、魔王含む5体の高位魔物が常駐。
いずれも高い戦闘能力を有す。
主が“マクマクセンサー”にて感知したと言っていた異常魔力反応=魔力塊、まさにその魔王と推察される。
次に森の危険度分布。
危険度1〜2:森の外周域。
魔力の弱い魔物しかおらず
さほど危険ではない。
危険度3:小型魔物と獣型魔物が混在。
視界が狭く、挟撃の恐れあり。
危険度4:地形が不安定。
多数の中型魔物が群を成して徘徊。
危険度5:魔王の根城含む中心部。
存在自体が世界の均衡を脅かすレベル。
各集落あり。
ゴブリンの集落:危険度2〜3の範囲に点在。
粗末な罠と哨戒網(見張り)
オークの集落:危険度3〜4域、南西に一拠点。
鍛冶場を持ち、物資を確保している
いずれも現在侵攻意図は見受けられず。
以上が我が報告。主のご判断を。」
・・・・・・・・・・・
あんぐりしすぎて固まる来夢。
ぶふぉーっ!!!!
ごほん!ごほん!
びっくりしすぎてむせたし、目ん玉飛び出そうになった。
こんなのおかしい!どう考えてもおかしい!
調査を買ってでて、その結果を完璧かつ簡潔、そして結論ファーストで報告。
相手が要点を理解しやすいように結論を先にかつ明確に伝える、出来るビジネスマンの得意技!!
プレゼンうますぎてスカウト殺到必至のシゴデキビジネスマン!!
それをエコーが!
ただのアリさんが!!!
いや、女王アリだけど(小声)
なんてこったい。異世界ってこんなにすごいんだ。
い、いや!無理がある!アリエンティ。・・・アリだけに・・・
いやいや冗談はさておき!
ここは危険度1区域につき半径20km、5区域で100km!
それを半日で調査なんて絶対出来ない。
だけど嘘を言ってるとは思えない・・・
何者なんだエコーお前・・・




