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やっつけ転生〜絶景スポット探してたのに、なぜか救世主ポジにされて困ってます〜  作者: アサゴ


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第三十一話 干からびた村に、命の水が戻る

リィに手を引かれながら、来夢は干からびた道を歩いていた。

足元の土はひび割れ、靴底がぱきぱきと音を立てる。

遠くには畑らしき区画が見えるが、草も穂も生えていない。

茶色い大地の上に、風が砂埃を巻き上げるだけだった。


家々はどれも傾き、壁は土壁が崩れ落ちて骨組みがむき出しになっている。

屋根の藁は干からび、ところどころ黒ずんでいる。

村というより、時間に忘れられた影のような場所だった。


『……ここが、君の村?』


リィは小さくうなずいた。

その顔には、誇りでも恥でもなく、ただ無表情な諦めがあった。


村の中央には、年老いた男がゆっくり歩いていた。

腰が曲がり、片手に小さな木の皿を持っている。

その皿には、わずかに残った干し肉の欠片が乗っていた。


リィの父が、低い声で言った。


「村長だ。……もう、ボケちまってる。

 毎朝こうして、食いものを持って徘徊してんだ。

 ……自分が何も食ってねぇことも忘れてな」


来夢は言葉を失った。


村長は足をもつらせ、皿を落とした。

リィが慌てて駆け寄り、拾い上げる。

来夢は村長の腕を支えた。


『おじさん!家まで送りますよ!』


村長は「すまん、すまんのぉ」と言いながら笑った。歯がほとんど残っておらず、その笑顔は子どものようだった。


村長を家に送り届けると、

そのまま布団に横になり、すぐに寝息を立てた。

 リィは静かにその布団を直し、家を出た。


「……見せたいものがある」と盗賊の頭(リィの父親)が言う。


村の奥へ進むと、草も育たないくぼ地に出た。


「昔は、大きな池だったんだ。だが、いつからか

 乾ききっちまって、井戸にも水がひけねぇ」


底が乾ききり、中央にはひび割れた地面が広がっている。

空の光を反射する水面はもうない。

代わりに、風が通るたびに白い砂埃が舞い上がるだけだった。


『……これじゃ、水すら飲めないじゃん』


来夢はしゃがみこみ、地面に手を当てた。

指先に伝わるのは、乾ききった冷たさだけ。

 それでも、どこか奥に――かすかな“気配”を感じた。


(――マクマクセンサー)


 来夢は小さく息を整え、目を閉じた。



掌の下で、かすかに光が走った。

それは稲妻のような派手なものではなく、

地面の内側を伝う“脈”が、静かに目を覚ましたような感覚だった。


乾いた大地の奥へ、意識がゆっくりと沈んでいく。

土の層、石の層、さらにその下――

何層もの重なりを抜けた先で、来夢はそれを捉えた。


見えた。


細く、しかし確かな流れ。

長い年月、閉じ込められていた水脈が、

なおも生きようと脈打っている。


『……水源だ』


来夢は目を閉じたまま、意識を固定する。

場所はここだ、と確信した。


次の瞬間、地面が低く鳴った。


ズ……ズズズ……。


まるで大地そのものが呼吸を始めたかのように、

窪みの中心が、ゆっくりと削られていく。

土と砂が内側へ引き込まれ、

見えない手で掘り進められていく感覚。


そして――


じわり。


ひび割れた地面の隙間から、

透明な水が染み出した。


最初は、ほんの一筋。

だがそれは、次の瞬間には勢いを増し、


ごぽっ。


音を立てて噴き上がった。


「……っ!?」


頭たちが息を呑む。


水は止まらなかった。

地中から、湧き水が次々と溢れ出し、

乾いた窪みを満たしていく。


ぱしゃ、ぱしゃ、と音を立てながら、

水面が広がり、深さを増し、

白く乾いた地面は、みるみるうちに姿を消した。


ほんの数分前まで、

水一滴なかった場所が――


気づけば、穏やかな水面をたたえる“池”へと変わっていた。


太陽の光が反射し、

きらきらと揺れる水面が、周囲の顔を照らす。


その光景に村人達が集まってきた。そして誰かが、震える声で呟いた。


「……み、水だ……」


風が吹き、池の水面に小さな波紋が広がる。

それはまるで、長い眠りから覚めた大地が、

ようやく息をついた証のようだった。


来夢は、そっと手を離した。


『……これで、飲めるよ』


その言葉が落ちた瞬間、

村に、静かなざわめきが広がった。


――干からびていた村に、

命の水が、戻ったのだ。


しばしの沈黙のあと、

誰かが、堪えきれないように声を上げた。


「ぼ、坊主!

 おめぇ、ただ者じゃねぇとは思ってたが……

 いったい何者なんだ!?」


振り向けば、リィの父――盗賊の頭が、目を見開いたまま立ち尽くしていた。

その声は荒いが、震えている。


「今まで誰も出来なかったんだぞ!

 祈っても、掘っても、金を積んでも……

 水は、戻らなかったんだ……!」


……坊主!?


来夢は一瞬、きょとんとした。


(あ、そうか……)


今の自分の姿を思い出す。

森では魔物しかいなかったし、誰も突っ込まなかったが――

今の来夢は、どう見ても子どもだ。


『え?

 水源があったから、そこを掘っただけですよ!

 池が戻ってきたみたいで……よかったぁ』


心から、ほっとした声だった。


その言葉を聞いた瞬間、

盗賊の頭は、がくりと膝をついた。


「あ、ありがてぇ……

 なんて、ありがてぇんだ……」


地面に手をつき、

水の揺れる池を見つめたまま、嗚咽を漏らす。


「坊主……

 お前のおかげで……

 この村の連中が、生きられる……」


その声につられるように、

家々の奥から、村人たちが集まってきた。


痩せ細った大人。

不安そうに母の裾を掴む子ども。

足を引きずる老人。


誰もが、池を見て立ち尽くし、

そして――次々と泣き出した。


「み、水が……」


「夢じゃねぇよな……?」


「冷たい……本当に、水だ……!」


恐る恐る手を伸ばし、

掌ですくった水を口に運ぶ。


「……生きてる……」


その一言が、静かに広がった。


誰かが、来夢の前に歩み出て、深く頭を下げる。

それに続き、また一人、また一人と、

村人たちが次々に頭を下げていく。


「ありがとうございます……」


「命の恩人です……」


『い、いやいや!

 そんな大したことじゃ……!』


来夢は慌てて手を振った。



だが、誰も顔を上げない。

感謝と安堵と、長い絶望から解放された涙が、

地面にぽたぽたと落ちていく。


その中で、リィが小さく前に出た。

池の水面を見つめ、

それから、来夢の服をぎゅっと掴む。


「……お兄ちゃん……」


その声は、さっきよりずっと明るかった。


水面に映る空は、どこまでも青く、

村に、ゆっくりと笑顔が戻り始めていた。


だがこれだけでは納得出来ない来夢だった。

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