第十九話 和平の宴、ゲテモノを添えて
魔王からの和平と感謝の印に、盛大な宴に出席することとなった来夢達御一行。
テーブルが横に長く連なり、魔物の中のお偉いさんのような風貌をした面々がテーブルの前に座っている。
灰色や緑の肌色にみんなビシッと黒い正装をキメている。
魔王が合図すると、テーブルの前に置かれた豪華な銀蓋が一斉に開いた。
ーーグニッ。
ーーピチピチ。
ーーなにかがこっち見てる。
いやいや待て待て待て!?
これ食べ物・・・なのか?!?
イカちゃん達はさっきまではメシだメシだと大喜びしていたが、蓋が開いた瞬間明らかに顔が引きつった。
普段はイカちゃん達は生肉でも食べていて慣れていたのだが、流石にコレは違うみたいだ。
目の前のコレは、何をどう間違ったらこんなことになるのだろうか?
完全にゲテモノだ。
テレビで昔、世界のゲテモノを食す番組があったのを思い出した。
芸能人の2人が目の前で幼虫のような芋虫のような・・・ソレが動いていて
こんなの食べるの!?
と目を丸くするが、鼻を塞ぎ目を瞑り頑張って食べて感想を述べるのだ。
食レポ魂というか根性というか、それを子どもの頃に見た俺は尊敬の念とともに、絶対こんなの食べれねぇよ!って思っていた。
ソレが今、目の前にあり来夢は完全に詰んでいた。
人生初の踊り食い体験がゲテモノ料理なんて絶対やだよ!!イカとか、シラウオでしょ普通。
ど、どうすれば……食べないと失礼……ですよね?
いや、でも無理すぎる。
ちらりと視線を上げると、魔王が穏やかすぎる顔でこっちを見てる。
横の料理長っぽい魔物も、なぜか優しい目で見てくる。
や、やめて……そのプレッシャー。
しかもカラトリーが無い。
……手掴み、だと?
今日いち心臓がバクつく。
いやもう、俺も男だ。
いっけぇぇぇ!
来夢は一度大きく深呼吸をし少し微笑んで
『いただきます』と言うと
意を決して元気がなさそうなソレを選んで指でつまんだ。
元気がなさそうなのをあえてチョイスしたのは、
噛む時に口の中で暴れられたらきっとーー
あのレポーターのように這いつくばって涙する自信がある。
つかむとソレがイヤイヤしてうねり出す。
顔がイヤイヤ期の子どもみたいに妙にリアルに見えてしまうんだ。
イヤイヤの抵抗に手が悲鳴をあげそうになりながら急いで口に運ぶ。
ーーその瞬間。
指先がじんわり温かくなった。
(え?なんか発動した?)
来夢は覚悟を決めてひと口食べた。
勿論鼻も目を開けたままだ。
ただソレを直視することは出来ないので気持ち、遠くを眺めた。
予想に反して、
——味が普通に・・・うまい。
(お、おいチュニ!!!これ美味しいよ!?
見た目完全にアレなのに!?)
チュニはピタッと硬直した。
(来夢よ。今まで黙ってたことがあるっちゃ。
生活無限スキルの中に──
《ほどよい塩梅》という、
味の調整を自動補正するサブスキルがあるっちゃ。
来夢の紡ぐ料理、すなわち、
温度は高すぎず低すぎず、味も最適解。
また、人との距離感すら天秤のごとく均される。
《ほどよい塩梅》──その補正は、いと最強なり)
要約: 料理の味、温度、距離感、人間関係のバランスも完璧に補正
(そんな大事なこと今まで黙ってないでくれ)
すまんっちゃ。
だけど、悪いことを黙ってられるよりかはいっか。
ひととき間が空いた後来夢が言った。
(見た目とは反して)
『た、大変美味でございます』
料理長は安堵し、魔王は静かに笑って言った。
「今宵は宴だ。皆楽しむがよい」
「ははっ!」
周りには楽しそうな笑い声が響いた。
(おいおい!主!俺のも美味しくしてくれよ!)
イカちゃんだ。
怒りで毛は逆立ち、体が電流で少しピリついてるようだ。
手を加えれば美味しく出来るはずだが、今はそんなこと出来る空気ではない。
(すまんなイカちゃん。
帰ってから美味しいお肉たくさん食べよう)
念話を送ったがイカちゃんの返事はなかった。
眷属達(エコー以外)は普段来夢の料理を食べているので、目の前に出された得体の知れない物に手をつけることはなかった。
幸い魔王と料理長は元いた場所に戻ってくれていたので助かった。
宴もたけなわの状態になってきた頃、魔王が上座にいる来夢に言った。
「来夢よ」
辺りが静まり返る。
「書状にあったプレゼントとやらまこと
大義であった。
そして、よくぞ誰も原因を突き止められなかった
胃痛を治してくれた。わしは感謝してもしきれぬ」
魔王は立ち上がり、大きな声で叫んだ。
「皆の者!よく聞け!今宵人間と魔族の間に
和平条約が結ばれ、長きに渡ってすさみきった
世は、ここで終わることとなる。
これからは人間との争いがなくなり、
無駄な血を流さずに済む。
それもこれもそこにいる来夢のおかげだ!」
お、俺!?来夢は目を丸くした。
『い、いや、はははー』(棒)
すると、一匹の魔物が走って近寄ってきた。
魔物にも老化現象があるのだろう。
すっかりしわくちゃのおじいちゃんみたいだ。
「おら、我が子が人間どもにやられぢまっだだ。
お前を殺してオラも死ぬだよ!」
と、走りながら叫んでいる。不意打ちだ。
う、嘘だろ!
襲いかかって来た魔物の手を慌てて掴み、動けないようにしながら来夢は言った。
『おいおい!それは逆恨みというやつだ!
ちょっと待て!落ち着いて話し合おうぜ!』
「サガ、ウラミ?」
『そうだ。俺はお前の子どもを殺していない。
殺したのは別の人間だろう?違うか?』
「そうだ。あの、アグマのような人間・・・
だけど、ごれから人間と仲良くしだっで
アイヅぁけぇってごねぇだ!」
泣きながら喚き散らかすおじいちゃん魔物。
頼むから落ち着いてくれよ。
『お前が今俺を殺せば仲良しの関係は破棄されて
人間と魔族が全面戦争になるかもしれない
んだぞ!?
そうなると、魔王様は大変お困りになられる。
それでもいいなら、やれ!』
そういうと来夢は、両手を広げた。
「ゔ、ゔぅ・・・。だが、おらはどうずれば・・・」
『子どもの分まで生きて幸せになれよ!
そうすれば子どもの魂もきっと報われるさ!
復讐なんてしたって何も残らないぞ!』
「ゔ、ゔぅぅ」と、魔物は顔を覆い隠す。
泣いているのかと思っていたら
急にこっちを向き、その魔物はニコッと笑った。
え?
魔王が言った。
「のぅ?わしの言うとおりだろう?」
魔物達は皆口々に来夢を讃える。
「来夢殿に感謝!」
「来夢殿は歴史に残る救世主だ!」
「我ら魔族に光をもたらした御方!」
地鳴りがするほどの大喝采だ。
魔王は静まれ、と手を延ばす。
笑いながら口を開いた。
「来夢よ。すまない。
皆が本当に和平になるのかと疑っておってな?
今まで執拗に攻められた故・・・
一芝居打たせてもらった。
だがお主は手出しせなんだ。
わしの想像以上に信のおけるやつよ」
うわ〜。まんまと引っかかってしまった。
もしかしてこの世界の人間と魔族の輪、
繋いじゃった感じ?
眷属達をふと見るとイカちゃんとヒョドがおんおん泣いてる。
いや、騙されるなよ!
もうネタバラシした後だぞ!?
むしろ今のシーン俺を助けるとこだろ!
エコーは敢えて動かなかったぽいな。
流れとはいえ、救世主扱いされてしまった。
これは早急に手立てを考えるしかない。
なんてったってこの世界の人間とは
会ったことないしツテなんて何にもないんだから。
そういえばあのゲテモノ料理、リスクある割にスキル取得出来なかったなぁ。
何の料理だったんだろう。
魔王樹城に来てからというもの、
一向に気が休まらない来夢であった。




