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やっつけ転生〜絶景スポット探してたのに、なぜか救世主ポジにされて困ってます〜  作者: アサゴ


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第十八話 魔王とヒョドの前世

「来夢よ。そろそろ種明かしをしてはくれぬか?

 ここ数年でこんなに気分が良かったことは

 なかった」


感動が溢れた声で魔王が言った。

来夢は返す言葉に困って黙り込む。


「お主が言わぬなら、ワシが言おう。

 お主……賢者の生まれ変わりであろう?」


???


え?えぇーー!?

賢者?どこをどう飛躍したらそうなるんだ?


「あのー、魔王様?何を仰っているのか本当に分かりません」


「誤魔化すでない。

 あの書状には賢者の匂いが染み付いておった。

 お主がよこしたのだから、

 お主の匂いに決まっておろう?

 それにこのスープ……ワシの魔力でさえ

 癒せなかった胃痛を完治させた。

 これは賢者でなければ出来まいて」


そうなの?そんなにこじらせてたの!?

落ち着け俺。まず深呼吸だ。


たしかに手紙を書いたのは俺だ。

でも賢者とかは知らん。

神様にもそんな話されてないし。


来夢は正直に告げた。


「……あの、食べ物はヒョドが作ったもの

 なんです。芽命草の研究をしていて、

 胃に優しいスープを……」


その瞬間、魔王が椅子をガタッと鳴らして立ち上がる。


「まさか……この小さき物が?」


魔王はヒョドに歩み寄り、そっと抱き上げた。


そして——


魔王の表情が、一瞬だけ戦場で見せたあの顔に戻る。

強者が、触れてはならぬ何かに触れた時の……

静かな恐れ。


抱いたヒョドから、懐かしい匂いがふっと上がった。

匂いと同時に、魔王の記憶が蘇る。


──百年前。


魔王と賢者スーシャが戦っていた日々。


お互い望んだ戦ではなかった。

スーシャは大巫女でありながら、聡明さとその魔力の高さから数々の功績を残し続け、いつしか“賢者”と呼ばれるようになっていた。


王の命令で魔王と戦うことになったが、

“魔王を倒してはいけない”というお告げに従い、

八百長試合を繰り返した。


逆に魔王は争いを好まない性格だった。

だが人間が襲ってくるため、

戦は避けられなかった。


何度も戦場で剣を交え、

両者の間に奇妙な友情が芽生えた。


最後の日。


「魔王よ。我が輩がお主を倒すまで争いは

 終わらない。どうだろう?

 一役買ってはくれぬか?」


「お前の頼みなら、死ねて本望よ」


魔王は倒れた。

だが表向きだけだ。


スーシャの作った薬で死んだように見せかけ、

戦後、魔王は黒紡ぎの森の奥へ姿を消した。


――今、魔王は確信していた。


「お前が……賢者の生まれ変わりなのか……?」


その手に抱かれたヒョドにも、

前世の記憶がうっすらとよみがえる。


ヒョドは目を細めてぽつりと呟いた。


「肩に力入りすぎ。……深呼吸しろ」


魔王の目が揺れた。


それは、百年前。

戦いの最中、何度もスーシャが魔王に

言っていた一言。


「魔王よ、そんなに肩に力入れたら剣鈍るぞ」

「落ち着け、深呼吸」

「はい吸って吐いてはい上出来〜」


敵なのに、完全に味方みたいなアドバイス。

魔王が敵意がないと確信した瞬間でもあった。


魔王は顔を歪め、そして——


「……ぅ……スーシャ……!」


ぼろりと涙を零し、そのままヒョドをぎゅっと抱きしめる。


「……あの時は、ありがとう……

 ふっ。ワシは今も昔も、お前には頭が上がらんわい……」


その光景を見守っていた来夢は、

静かにヒョドへ《鑑定》を飛ばす。


〈鑑定結果〉

前世:翠炎賢者スーシャ


ヒョドが賢者だった。


え、前は、すぐ閉じちゃったけど、あの時もあったのかな!?

俺、今まで鑑定の細字ちゃんと読んでなかったのかも……


あの可愛い子どもおっさんが!!


そういえば、生まれた時——


「子どもなどではございません!

いや、ヒヨコなので子どもでしょうか?

嘘を言いました、私は子どもです。すみません。

ですが中身は150歳なので大人ではないでしょうか?」


と言っていた。


中身150歳のまま転生してきたのかよ!!


Oh, my fantasy !!!


毎日産む卵から出てくる本。

あれは全部、前世の記憶だったってことか。


妙に納得する来夢だったが


大巫女と賢者の本ってこの時代でめちゃくちゃヤバいやつなんじゃないの?!


もしかして全部プレミア価格ついて、

なんならバズりまくるんじゃない!?



「魔王よ。今の我が輩は来夢様に仕えるいち眷属。

 我が輩の言葉は主の言葉、

 主の言葉は我が輩の言葉。

 そのこと、心に刻むがよい」


何言ってんの何言ってんのヒョドちゃん!

完璧盛り上がってるじゃん!


だけどこの際だから、温泉のこともヒョドから伝えてもらおう。


「ヒョド、温泉で起こった出来事を

 お話して差し上げて」


ヒョドは話した。


三つ目の湯が魔瘴湯ましょうゆと言って胃痛悪化の原因だったこと。


長時間の入浴で生命の危険があったこと。


掛け流しの湯は毒に侵されているが


幸い、ヒョドの浄化の術で湯船の毒は浄化される仕組みになっていること。


全て話し終えた頃、筆頭大臣シャルバはとても憤慨して口を開けた。


「じ、侍従長!侍従長はおらんか!!」


侍従長とは、ここでいう魔王の身の回りの世話係だ。


「お、お呼びでございましょうか?」


侍従長が慌てて駆けつけた瞬間、

シャルバの声は低く、震えるほど鋭かった。


「侍従長──問う。

 陛下が日々お入りになっていた三つ目の湯……

 あれが魔瘴湯ましょうゆであったことを、

 貴様は知っておったのか?」


侍従長は血の気が引き、膝が笑い始める。


「ま、魔瘴……ゆ……? い、いえ!

 そんな恐ろしいものとは露ほども──!」


シャルバは一歩詰め寄る。


「ではなぜ癒やしの湯と偽って魔王陛下を

 通わせた?

 湯気を吸うだけで胃を蝕み、長く浴せば

 命を奪う  毒であるぞ!!」


侍従長はガタガタ震えながら必死に弁明する。


「ち、違います! あれは以前より疲労回復のものと 

 伝えられており……

 私も、まさか……まさかそのような……!」


シャルバの声が、さらに鋭く、震えるほど怒りを帯びた。


「陛下は十年……いや二十年もの間、

 その毒に晒されていたのだぞ!

 胃痛に苦しむ陛下を見てなお、

 貴様は異変に気づかなかったのか!!」


侍従長はその場に崩れ落ちた。


「し、しかし……! 陛下が癒えると

 仰せになっていた日も……あり……」


シャルバは奥歯を噛みしめた。


「まだ言い訳を申すか!?」


「もももも、申し訳ございません!」


一瞬、シャルバの怒りと悔しさが入り混じった沈黙が生まれる。


魔王の心の声

(いや、全く気付いとらんかった

 わしが悪いだろうーー)


そして──


「侍従長。

 この件、然るべき調査を行う。

 貴様、覚悟しておけ!

 ゴブン、この者を地下牢に入れておけ!」


侍従長は涙目で頭を地につけるしかなかった。


魔王が口を開いた。


「まぁ、待て。侍従長はワシの数少ない

 味方じゃて」


魔王は侍従長を見下ろし、静かな声で問う。


「其方……本当に気付いておらなんだか?」


侍従長は震える声で答える。


「は、はい……!

 陛下が日々ご体調を崩されていることは

 承知しておりましたが……

 まさか湯そのものが毒とは……

 想像も……!

 一族の名にかけて、嘘偽りなど

 申しておりませぬ!」


魔王はしばし侍従長を見つめ、確信したかのように頷く。


そして——


「承知した。わざとではあるまい。

 こやつに限って、ワシの身を害するような

 真似など出来るはずないわい」


侍従長の肩がびくりと震える。


「ゆえに今回は罪を問わぬ。

 だが……今後このようなことがあれば

 断じて許さん。

 ワシに付き従う者として、

 恥ずかしくない働きをせよ」


侍従長はその場に額をこすりつけるように伏して叫ぶ。


「は、ははぁーーーっ!!

 い、命に代えましても……

 魔王陛下をお守りいたしまする!!」


魔王は疲れたように、しかしどこか優しく頷いた。


(それにしても、感謝してもしきれぬ。

 ここは盛大な宴を執り行わねば)


と考える魔王であったが、その考えとは裏腹に


魔王の心からのもてなしに、

来夢は窮地へと立たされるのであった。


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