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やっつけ転生〜絶景スポット探してたのに、なぜか救世主ポジにされて困ってます〜  作者: アサゴ


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第十七話 魔王の涙

魔王は場所を移した。


案内された来客用の個室には、魔王とその側近(ゴブンともう1人)、そして来夢と眷属たちが向き合っていた。


魔王は静かに切り出す。


「此奴は、この会合の見届け人、わしの側近で筆頭大臣兼四魔将シャルバである」


シャルバは会釈した。四魔将というだけあって高身長で筋肉質、黒髪を束ね、目は鋭い。

浅黒い肌と淡い傷が数々の戦闘を物語っている。


重厚な肩当てで、見た目は魔王より明らかに強そうだが、態度は極めて控えめである。


そんなことよりも来夢は、新しくでたワード、

会合の方が気になっていた。


会合とは一体どこからそういう流れになったのであろうか?


「そちらは、うむ。

 その者たちで差し支えないだろう」


何がです?


「では、早速本題へ移る。

 来夢よ──此度の和平の申し入れ、

 まこと感謝しておる」


へ?

和平?

……やっぱり盛大に勘違いしてるぅぅ!!


魔王は続けた。


「ある日を境に、人間どもが森へ入り、

 魔物狩りを始めた。

 しかも不意打ちばかりでな。

 何の手立てもできずそのまま討たれる者……

 正当防衛で反撃し、人間を傷つけてしまう者……

 命からがら逃げ帰る者……」


魔王の瞳が沈んだ。


「もはや、わしらは人間が恐ろしくなって

 しまった」


──逆だよ!?

多分それ、人間側も同じこと言ってるよ魔王さん!!


「いつのまにやら人間による一方的な戦争が

 はじまっていた」


ほんの一瞬だけ――

鋭い黄金の瞳が、

まるで幼子のようにすくみ、

影を帯びて震えた。


え、人間が一方的に・・・!?


来夢は恐る恐る口を開く。


「人間も……きっと怖かったんだと思いますよ?」


魔王は怪訝そうに眉をひそめた。


「ふむ? そうは見えんかったがな。

 中には森の外へ逃げ出す配下もおった。

 あれは……」


「ま、魔王様!!」


シャルバが慌てて言葉を遮った。


そして魔王にだけ聞こえるよう、

小声で耳打ちを始める。


(魔王様……。配下が逃げ出したのは人間が怖かったからではございません。

魔王様のため息が重すぎて……いつ暴風が起こるか分からず、森は暗く沈み、住めたものではなかったと……捕らえた者らが……)


魔王、心の声。


(わ、わしの……せい!?なぜ今頃申す!?)


(ま、魔王様にこれ以上負担をかけまいと・・・

申し訳ござりません!!)


魔王は目に見えてガーンッ!となったが、

すぐに無理やり表情を整える。


魔王は咳払いをひとつして続けた。


「……ともかく。配下の中には自らの身を守るため

 に、人間世界を征服しようという動きすら

 あった。だが、それは魔帝様の意に反すること。 

 わしは止めねばならぬと考えたが……

 下手に介入すれば内部分裂が起きる。

 身動きが取れず、ほとほと困り果てておった

 ところ──」


え、魔帝様って誰!?

また強キャラっぽいの出てきたよ!!

てかやっぱり魔王さん中間管理職じゃん!

上と下に挟まれてストレスMAXなんでしょ!?


なんか俺の知らんところで物騒な国際問題

みたいなの、起きちゃってるし!?


俺はただ湖畔ライフを送りたいだけなのに!!


(主・・・主・・・!!)


この声は・・エコー!!


(どうした?)


(魔帝とは魔王の祖父のこと。

 今は実在しておりませぬ)


(なるほど。助かった!ありがとう)


亡き祖父の言いつけを今でも頑なに守ってるってことか。

律儀なのか固い絆なのか平和主義なのか・・・。

だから胃痛が余計酷くなってたんだね。

今も手でおさえてるし。


魔王は片手を広げ、重々しく宣言した。


「その時……お前から救いの書状が届いた。

 あれは人間と魔族で和平を結ぼうという

 意思表示であろう?」


──違います!

違いますーーー!!

あれ引っ越しのご挨拶なんですぅぅぅ!!!


魔王の言葉が終わると同時に、

部屋の空気がしん……と静まり返った。


シャルバは息を飲み、

ゴブンは胸の前でそっと両手を組み、

ヒョドはなぜか目をうるませている。


そして──

魔王が、ゆっくりとこちらを見た。


期待で潤んだ瞳。

救いを求めるような表情。

長年の苦悩からほんの少しだけ

解放されたような顔。


やめて。そんな目で見ないで。


ここで

「違いますぅぅぅ!!」

なんて言った日には──


・魔王:胃痛悪化(確定)

・側近:絶望で卒倒たぶん

・城:深いため息で倒壊(多分)

・俺:帰れない(確実)


全員の未来が一気に暗転する未来しか見えない。


心の中でチュニが小声で言う。


(来夢、お前の負けだ……)


うんわかってるよチュニ……

だから俺は……


ここは生きて帰るためーー

揺るぎない湖畔ライフを満喫する為



YESあるのみ。



来夢は喉をこくりと鳴らし、

引きつった笑顔で口を開く。


「……その……和平みたいなもので……

 ございます……?」


魔王の瞳がぱぁぁぁっと光る。


「やはり!!

 来夢よ、そなたは……救国の使者……!」


側近「おぉぉぉぉ……!!」


イカちゃん

(なぁ主、なんかめっちゃ持ち上げられてんぞ?)

ヒョド(すごいです主!天才です主!!)

エコー(……予想的中)

チュニはニヤッと笑う。


ちが……ちがうのぉぉぉ……!!!

いま否定したら全員不幸になるから!!


「これで!これでようやっと長年苦しめられた胃痛から解放されるかもしれぬ!」


そうだ!一旦胃痛に話を逸そう!


「そのことで魔王陛下。

 こちらをお召し上がりください」


ヒョド特製の贈り物三点セットだ!

こんなにたくさんいらなかったかもしれないけど!


まず一品目、芽命草のポタージュ。


「こちら、胃壁の修復に特化した、芽命草のポタージュにございます」


「魔王陛下、毒味を!」

ゴブンが声を張った。


「ストップ」と言わんばかりに 

片手を前に出す魔王。

その姿から来夢は察する。

完全に信用されていると。


魔王は一口、

本当に舐めるくらいの慎重さでスプーンを口に運んだ。


舌に乗った瞬間、

顎の力がほんの一瞬だけ抜けた。


「……む……?」


そのまま、喉が勝手に動いた。


ごくり。


次の瞬間だった。


魔王の肩が、ふ、と落ちた。

胸の奥にずっと居座っていた針のような痛みが、

ふわぁ…と溶けていく。


「……お、おぉ……?

 胃が……あたたかい……?」


胃の中がまるで魔法のようにキレイになっていく。

魔王の辛そうな顔つきが明らかに和らいだ。


来夢の心の声

(効いてるッ!!秒で効いてるッ!!)


魔王は自分の腹を押さえて目を見開いた。


「……痛みが……ない……!?

 なんと……なんと軽い……!?」


魔王の顔に、

子どもみたいなほっとした笑みが浮かんだ。


「長年悩まされた胃痛ぞ!?

自己回復も効かず、どんな回復魔法も効かなかったのに・・・そなた一体どのような魔法を使ったのだ!!」


「全部食べていただいてからお話ししましょう」


来夢はにっこりと笑った。

それは、時間稼ぎだった。


ヒョドの作ったスープ、胃壁修復、マジだった。

なんて言おう。


次に来夢は二品目を差し出した。


「こちら、二品目──森の根菜癒やしたっぷりスープになります」


魔王はスプーンで掬い、口へ。


……ふわ。


たったひと口で、

まぶたがとろぉんと落ちた。


「……なんだ……この香りは……

 胸が……軽く……ほどけていく……」


魔王は首をコテンと傾けて

玉座の背もたれへ預けた。



魔王はゆっくり瞬きをした。

鋭かった目つきが、すっかり普通のおじさんの目になっている。


瘴気のようなものが魔王の体から浄化され消えていったのだ。


ヒョドがえっへんと胸を張る。


魔王さん、完全にリラックスモード入ってる……


シャルバは目を疑った。

「魔王様……!そのお姿はいつぶりでございましょうか……!?」


鋭かった目つきは柔らかくなり、

虚ろだった瞳は、水をひと滴たらしたみたいに澄みはじめる。


くぼんでいた目の下には、ほんのり血色が戻っていた。

頬のこわばりも解け、口元がわずかに緩む。


魔王さん、やっぱりあの温泉に侵されていたんだ・・・。

来夢はそう確信した。


魔王は無言でおかゆにも手を伸ばす。


ゆっくりとスプーンを運び──


……とぷ。


口の中でとろける優しい温度。

芽命草の香りが鼻に抜け、

胃ではなく心を直接撫でられるような感覚。


魔王は、瞬きを一度だけした。


もう一度した。


そして三度目の瞬きのあと──


ぽろ。


魔王は慌てて目元を袖で拭ったが、

次の瞬間にはもう涙が止まらなかった。


ぽろぽろぽろ。


玉座の間がしんと静まる。


誰も笑わない。


魔物たちはただ、

長年苦しんでいた主の涙を、

深く深く、尊いものとして受け止めていた。


魔王は来夢の元へ歩みより、来夢を抱きしめながら言った。


「胃痛が治り、瘴気も消えた。ありがとう。

本当にありがとう」


声が震えている。


来夢は少し照れた様子をみせ・・・た。


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