第十三話 魔物協奏曲という名の不協和音がとてもうつく…辛いです
双方の準備が整い、出発の日当日。
ーーー魔王樹城
家来が慌ただしく走って玉座の間に現れた。
「魔王様、物見からの伝令であります!
来夢様御一行ログハウスを出発したとのこと!
およそひと灯り後に到着する模様です!」
ひと灯り・・・それは黒紡ぎの森特有の時間単位。
黒紡ぎの森の発光虫が光り続ける時間が目安となっており、ひと灯りが30分だ。
あたりがざわつく
「ひ、一灯り後!?
まさか……そんなに早く・・!?急襲なので
は!?」
「シーっ!これは和平の儀だ!
ほざくな!
魔王様の胃に穴が空くわ!」
(聞こえとるてぇ)
魔王はしかめっつらをしながら言った。
「しかしひと灯りとは早いな!今宵の迎賓はこれま
で通りの段取りで進める。
お前たちの動きひとつが、この魔領の未来を左右
するぞ」
……頼む、今日だけは絶対に失敗するでない。
胃がもたぬ。昔賢者と戦った時以来の緊張じゃ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
魔王の根城へ伸びる一本道。
こんな道、昨日まで無かったはずなのに……いつの間にか神殿前参道みたいに整えられている。
道の脇には蟻たちが整列し、こぞって頭を垂れていた。
エコーの部隊だ。
そうか、エコーが魔物が通らない道を整備してくれたのか。
半ばまで進んでも魔物の影ひとつ無い。
流石はエコー、完璧だ。
仕事早すぎて怖いよ。
『エコー、ありがとな。』
エコー
「・・・?」
するとゴブリンの高位種らしき使者が馬車とともに新たに現れ頭を下げてきた。
森で出会ったゴブリンより3倍はデカい。
それに貧弱なゴブリンとは真逆でとても筋肉質だ。
ここまで来るのに相当努力したのだろう。
筋肉ゴブリンは、
まるで舞踏会に出るかのような黒のタキシード風衣装を着込んでいた。
胸元には白い布を四角く折ったなんちゃってチーフ
シャツはパリッと……したかったのだろうが、
よく見るとボタンの止め位置がズレているし、筋肥大により、ボタンが全部今にもはち切れそうだ。
当人は誇らしげに深々と礼をした。
「来夢様……ようこそお越しくださいました……!
ご案内役のゴブンでございます。
魔王軍一同心よりお待ちしておりました」
イメージしていたゴブリンとはギャップがありすぎる気品と言葉遣い。
ゴブリンが喋れるなんてまず知らなかった。
耳の先まで緊張しすぎてぴんっと立っているのが愛おしくさえ思える。
……来夢様!?
なになに?すんごい歓迎されてる風ですけど!?
「はじめまして来夢です。
不束者ですがよろしくお願いします」
何言ってんだ俺。雰囲気にのまれ、心にもないことを言ってしまった。
それからは、筋肉ゴブリン・・もとい、ゴブンに馬車に乗るように言われ、城まで馬車で行くことになった。
みんながついてるし、なんとかなる……よな?
と、考えを巡らせているうちに、大変なことに気付いた。
ただの引っ越しの挨拶だからと、服装のチョイスを完璧にミスったようで・・・
相手はタキシードっぽいの来てるのに
田舎のじいちゃん家行くときみたいな服装で来ちゃったけど!?
簡単に言うとジャージだ。
修行中、動きやすいからとジャージを自作していたのだった。
しまった、もう少し正装した方が良かったのか!?
そんな俺の動揺を察したのか、エコーが
いつの間にか高品質の一張羅を手にしていた。
布に光沢がありテカテカしてそれでいて艶やか。
肌触り最高だ。
こんなのなんで持ってんのエコー!!
女王アリなのにマネージャー感すごいって!
サンキューエコー!
馬車の中で来夢は急いで着替えた。
城が見えてくると、今度は魔族たちが道の両側に整列し、深く、深く頭を垂れる。
これさ、もしかしてだけどーー
引っ越しの挨拶の規模じゃなくね!?
すると、演奏が鳴り響く。
道の両脇で魔物たちが演奏を奏で始めた。
ダンス担当、楽器担当がずらりと並んだその瞬間、
俺は思わず二度見した。
おそらく魔物のなかでも際立って美男美女を選んだんだろう。
それなのに──どう説明すればいいんだ。
美形のパーツを無理やり魔物に乗せたみたいな、不思議な完成度なのだ。
―――例えば。
美女っぽい魔物
しなやかな体つきに、モデルのように長い脚。
首筋のラインは人間とそっくりなのに、顔をよく見るとーーー
瞳孔が縦に裂けた黄金色で、口元からちょこんと牙がのぞく。
前髪をかきあげる仕草が妙に艶っぽいんだけど、
動くたびに耳の横の鱗が「カサ…」と鳴るんだ。
イケメンっぽい魔物
背は高く、黒髪はゆるく後ろに流れていて、
たしかにイケメンの部類。
けどーーー
肌が淡い灰紫で、よく見ると筋肉の動きに合わせて体表の模様が光る。
決めポーズのたびに背中から羽らしきものがバサッと出たり引っ込んだりする。
羽が絵的にうるさいし、無駄にファンサが多めで逆に困る。
ダンスは上手い。本当に上手い。
だけど同時になんとも奇妙な光景であった。
これが魔物協奏曲ってやつか?
俺の耳には不協和音の塊にしか聞こえない。
黒板を爪で引っ掻いたような、壊れたラジオが3局同時に流してくる感じ・・・
だが、そばで聞く魔物たちはうっとりしている。
ヴァイオリン担当
白銀の髪。細い指。美しい所作。
……だが、ヴァイオリンが得体が知れない何かの牙で出来てる。
弓の先から黒い火花が散ってるし。
音色がどう考えても絶叫してるようにしか聞こえないんだ。おばけ屋敷にいるみたい。
いや、あえて良く言うならば
反抗期の声変わりみたいな音を出してる。
何をそんなに叫んでいるか分からないがやめたまえ!
と全力で阻止したくなるような音だ。
パーカッション担当
リズム感バチバチで、体の動きも軽い。
だけど叩いているのが丸太じゃなくて
巨大な甲殻類の背中みたいな楽器。
たぶん生きてる。たまに痙攣してるから。
それ、リズムだけSランク
だけど音色は永遠にEランクなんだよ・・・
ノリノリの魔物たちに囲まれ、
俺はひとり、完全に時空の違う場所に立っていた。
奇妙としか言えない風景に来夢はたじろいだ。
公演が終わるまで馬車は一歩も進まなかった。
来夢もまた、心のどこかで足を止めていた。
ーーー 一方その頃、魔王樹城
「もてなしは順調であるか?!」
シャルバは部下に問いかけた。
部下であり、このもてなしを一任されたコルバ。
「はっ!料理長が肉を焼き始めました。
焼くのに時間を要する故、道端で舞を披露し、
足止めをしている所でございます」
シャルバは、込み上げる怒りを抑えながら言った。
「ほう?お主、ぬかったな?
この一大事にそんな計算もしていなかったの
か?」
「も、申し訳ござりませぬ!!!」
「この者を地下牢へ閉じ込めよ!」
警備兵
「はっ!」
あたりは静まり返る。
その出来事により、この会合がどのようなものか、みな骨身に染みていた。
「失敗は許されない」
みな、身の毛もよだつほど
このおもてなしに恐怖した。
そんなことは露知らず。
来夢たちは舞を見終わり、馬車が動き始めた。
そうこうしていると、目的地に到着。
近づけば近づくほど、樹木の存在感に圧倒される。
城ははるか上空。
都会のタワマンよりでっけぇ!!
この樹の上に城があるのはうっすら分かった。
今までは暗くて気付かなかったが、この高さならイェイな家からも見えていたことだろう。
ふと門に目をやると
「歓迎 来夢様及び眷属御一行様」
と書いてあった。
めちゃくちゃ歓迎されてる〜!!!
道端から薄々気付いていたんだ、相当もてなされてることに。
はやくご挨拶だけしてそそくさと帰ろう。
門がきぃ……と開いた瞬間。
『……え?』
そこにいたのは──
全長20メートル級の竜だった。
黒紡ぎの森の闇を吸い込んだみたいな漆黒の鱗。
琥珀色の瞳がギロリとこちらを向く。
いやいやいやいや!!!!
なんで門に竜、出てくるの!?
案内役のゴブンはゆっくりと首を垂れ、
室内に響く声で言った。
「……来夢様。
ただいまより天空の湯屋 黒雲ノ湯へご案内いたします」
天空の湯屋!?ただの引っ越し挨拶ですけど!?
湯屋って、温泉のことだよね?
やだやだ!帰りたい!
エコーが横で当たり前のようにうなずく。
ゴブンが言う。
「来夢様、こちら、魔王城名物となっている送迎用邪竜でございます」
送迎用!?
邪竜ってエレベーター扱いされるものなの!?
確かにタワマンより高いから歩いて登るのかなぁとか気になってましたけども!!
邪竜は背中をぐいっと下げ、まるで
『どうぞお乗りください』
と言わんばかりの角度になった。
来夢は恐る恐る乗った。
動物になんて乗ったことなかったからだ。
イカちゃんはワクワクが止まらないらしく、
「ドラゴンに乗れるじゃん!!ひゃっほー!!」
とテンションMAX。
頼むからテンション上がりすぎて
間違って放電しないでくれよ?
ヒョドは羽をばたつかせて、
「主〜!これは高級竜でございますぞ!
しゅごい〜〜!!」
ドラゴがいたらどう思っただろうな。
チュニは引きこもりにしては珍しくついてきていた。
「邪竜など私が手なづけてやるっちゃ!」
いいからお前は黙っていてくれ。
チュニには漫画を渡し、大人しくしてもらうことにした。
来夢と魔物の不協和音は、
このあと湯屋でも高らかに鳴り響くこととなる──
ーーいや、本当にもう帰りたい。




