第十二話
最後の復讐は、ある意味では私の復讐とは呼べないのかもしれない。
私は、アイメル様と結婚する前からしばらくの間、王都の地図と睨めっこをしていた。古いものから新しいものまで何十枚と集め、上流階級の行動範囲だけを徹底的に洗い出し、関連のありそうな場所も目星をつけた。サロン、宝飾品を取り扱うジュエリー店やデザイナーアトリエ、高級レストラン、大手銀行や両替商。
それらを標的にするのではない。
貴族や富豪たちが住む土地というのは、大抵は恵まれた土地だ。水捌けがよく、日当たりもよく、静かで、広く、不便の少ない安全な土地。
そういうところは自然の生命力であるマナも多く、魔法を使いやすい土地とも言える。そもそも、王都自体がマナの多い土地を選んで建てられたという説もあるほどだ。
なら、どうして『灰色女』が生まれるのだろう。
マナの豊かな土地ならば、生まれる命もマナに親しみ、よく扱えるものだ。少なくとも、強い野生動物や珍しい魔法動物は、土地の性質との関連があることが知られている。
(だったら、マナが豊かな王都で魔力のない『灰色女』が生まれるというのは、おかしくないかしら。それも、平民や貧民に『灰色女』が多く生まれるというのも……あくまで自然の産物であるマナは、そこまで偏って存在したりはしない。もしその可能性があるのだとすれば、それは人為的に偏りを生じさせているのでは?)
そこで、私は地図から王都のマナの流れをより詳細に掴んでみよう、という試みをしていた。
高位貴族ほど魔法の大家であり、マナを必要とする。王城や大聖堂は警備上の理由から魔法を使うためにマナを大量に消費する。聖女にしても、『癒しの魔法』を使うためにマナを集める補助装置として大聖堂の聖像を使っている。
結婚前に、私が普段出歩かない王都を歩いたのも、実際に現地を歩いてマナの流れを確認するためだ。
そうすると——明らかに、不自然なマナの流れを収束させる場所を、何ヶ所も発見した。
その場所を地図に書き込み、周辺の建物や道路、マナの大量消費地との関係を洗っていくと、ついに不審なものを発見した。
部屋で就寝前に地図と睨めっこしていた私は、その『不審なもの』が不自然なマナの流れがある場所と完全に一致することを突き止め、じっと考え込む。
(……間違いない。地上から見れば何もないところだけれど、地下では確かにそれがある)
王都の地下。
普通ならば、意識すら向けない場所だ。
しかし、張り巡らされた水道や地下坑道の存在を知ってさえいれば、そこに人が通れる道があり、整備のための設備があることまで思い至る。
私が目をつけた『不審なもの』は、地下配水塔だ。
配水塔とは、上水道の水を人口の多さや住宅地などに配慮して各方面へと配るための設備だ。
本来であれば地上に作られるはずの配水塔は、都市の狭さから地下へ作られた。少しでも王都を広く使いたい、という意図を持って。
しかし、隠された他の意図も含んでいたのかもしれない。
私はそれを確認するために、どうしてもいずれかの地下配水塔へ行かなければならなかった。




