ツチウラサクラ3
私たちを乗せた宇宙船は、いよいよ新しい人生を始める星、フンガ星の地に降りた。
宇宙船は、飛行機の着陸と同様に滑走路を文字通り滑るように走りながら、徐々にスピードを落としていく。
窓の外には滑走路や他の宇宙船、この離着陸施設のものと思われる建物以外は、ただ草原が広がっているだけの開けた場所のようだ。
まもなく宇宙船は50日間の長旅を終えて停止。機体はきっと小さなデフリと何度もぶつかって傷んでいるだろう。
停止してから数秒して進行方向左側の扉がスライドして開いた。
「さ~て、着いたよ~ん。重力は地球とほぼ同じだから、今で通りの案配で立ち上がってオッケーだよ~ん♪♪」
「は、はいっ」
私は少々動揺しながらミニブタさんの誘導に従って宇宙船を降りた。
宇宙船と建物を繋ぐ通路には飛行機と空港を繋ぐ通路と同じような屋根があり、地に降り立った実感がない。まるで初めて異国の空港に降りた時のような、なんとなく、到着したんだなという感覚だった。
建物の中に入ると、
『ようこそフンガ星へ!』
と白い地に丸みがあるゴシック体の青い文字で横書きされた大きな幕が、ガラス張りの20メーターはあるであろう高い天井から垂れ下がっていた。私は成田空港にある赤と青のゲートの案内幕を思い出した。
この星で初めて見た文字は、その幕に書かれた地球の日本語だった。本当にここは『フンガ星』なのか、実は地球なのではないかと思えるくらい違和感がない。
しかし辺りを見渡してみると、やっぱり違う、ここは地球じゃないんだと実感した。
辺りに居るのはミニブタさんばかり。そこに人間の姿はなかった。響き渡る喋り声も、人間の声より1オクターブくらいトーンが高い。
そういえば、このミニブタさんには私たち『人間』と同じように、『フンガ』という和名があるらしい。
漢字で表記すると『糞我』。
我はクソだ! どうだ凄いだろ! とでも言いたそうな名前だけど、失礼なので突っ込めなかった。
呼び方はフンガ星の万国共通で、ラテン語の学名も同様に『フンガ』と発音する。
この星にも漢字とかラテン語あるんだ…。
ちなみに他の生物、例えば魚や虫も、身体の構造はそれぞれ違っても、頭だけはフンガの頭と同じ形をしているという。
だからこの星の名前は『フンガ星』なのだ。
単純だなぁ。
◇◇◇
そのまま私は地球から連れ添ってくれたフンガさんに窓口に連れて行かれ、椅子に腰掛け、机越しに住民登録などの手続きや、この星で生活するにあたっての説明を受ける。
「え~と、遅ればせながら自己紹介だけど、ボクチャンは、この宇宙旅行や宇宙港、宇宙船その他諸々を管理、運営する『ステラーエクスプレス株式会社』で乗組員のバイトをしてるマヌケ フガオだよ~ん」
ボクチャン!?
バイト!?
乗組員がバイト!?
いいのそれ!?
ツッコミ所満載ですよ!?
名前はマヌケ フガオさんっていうんだ。
それにしてもマヌケって…。
ぷっ…。
「苗字がマヌケで、名前がフガオさん、ですか?」
「そうだよ~ん」
間抜けな一族なのかなぁ。
「ちなみにボクチャンの本業はタレントだよ~ん♪」
タレント!?
タレントがバイトで乗組員やってるの!?
もしかしてフガオさん、あまりタレントのお仕事ないのかな? だからアルバイトしてお金稼いでるのかな? フンガ星でも芸能のお仕事って、大変なんだ。私は芸能人じゃないから分からないけれど。
でも、宇宙船の乗組員がアルバイト社員だなんて、おかしいと思うのは地球人だからなのかしら?
私は恐るおそる質問してみた。
「あの、フガオさんはなぜ乗組員のアルバイトをされているのですか?」
すると、フガオさんはスターの貫禄漂う、瞼のシワと瞳の奥に何か深いものを秘めたような秘めていないような渋い顔をした。
「あぁ、じゃあキミの住民登録手続が終わったら話すよ。フンガ星の大スター、マヌケフガオの感動秘話をね」
後ほど、私は大スターの驚くべき秘密を知ることになる。




