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リライフ  作者: おじぃ


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2/12

ツチウラサクラ2

 …。


 あれ? 私、助かったの?


 気が付くと、私は手術台のような台の上で仰向けになって寝ていた。


 ここは病院の手術室なのかな?


 生きているのか確かめるために手を握りしめると、指はしっかり掌を圧迫した。


 生きてる、私、生きてる!!


 生きていることに感動しながら周囲を見渡すため頭をまず右へ動かすと…。


 「んっ…?」


 なんだろう、ミニブタさんかな…?


 いやいや、なんで病院にミニブタさん!? しっかりしなきゃ私。これは夢、うん、そうよ、そうに違いないんだから。なんだか身体が軽い気がするし、(つね)っても痛い!!




 痛い…。




 私が寝ている台を、ピンク色の毛に被われたブタさんの様に丸い見知らぬ生物たちが、手術中の医師のように私が寝ている台を囲んでいる。


 この奇妙な動物さんの存在が目の前の現実を信じ難いものにしている。


 現況をいまひとつ受け入れられず、何度か大袈裟なくらいにパチクリ瞬きをしながら、再度状況を確認する。


 う~ん、やっぱり夢じゃないみたい。という事は私、生きてるんだ!!


 ミニブタさんたちの見た目は体長50センチメートルくらいで、牛と豚を足して2で割ったような顔つきで、犬歯が剥き出しになっている。


 胴体は尻尾が無い事を除けば殆ど豚そのもので、手足には馬に似た蹄がある。よく見ると踏み台に乗っかって私を囲んでいる姿が愛くるしい。


「やぁおはよう! 49日ぶりのお目覚めだね。起きて早々悪いけど、キミ、このまま死ぬ? それとも違う世界で第二の人生を始めるかい?」


 謎のミニブタさんの一体が陽気に話しかけてきた。


 ミニブタさんが喋った!? という驚愕はさておき、49日間も眠っていたという事や、違う世界で第二の人生をという提案の方が仰天ものだ。唐突にそんな事を言われても困惑してしまう。


 日本語が通じるようなので、起き上がってミニブタさん(仮)に恐るおそる問う。


「あの、違う世界で第二の人生とは…?」


「ああ、それはつまり、ウチ等の星で生活してもらうってこと。大丈夫、キミと同じ地球で暮らしてた日本人の先住者も結構居るし、キミに働く気があれば、就職出来るまで協力するから生計も問題ないよ~ん。それになんと住居までウチ等が用意しちゃうからホームレスにならない! う~ん、我ながらなんて良心的」


「あの、でしたら、死を選んだらどうなるのでしょうか?」


「キミをこのまま宇宙船から放り出して棄てるよ~ん♪」


 やっぱりここは宇宙船なんだ。外は見えないけれど、目が覚めてミニブタさんを見た時からなんとなく察していた。それにしても、宇宙船から放り出して棄てるなんて、丸くてちょっと可愛いくせに恐ろしい事をルンルンと言う。


 ミニブタさんの姿を見た時からなんとなく推理していたけれど、状況からして、私はつまり…。


「地球で多発してる行方不明者続出事件の真相って…」


「うん、ウチ等が地球人を連れてってるよ~ん」


 やはりそうでしたか。


「酷い!! なんて事するんですか!! あなたたちのお陰で地球は大混乱なんですよ!? 早く今まで拉致してきた人たちを地球に帰して下さい!!」


 人々を混乱させている行方不明事件の実行犯が目の前に居ると確証された途端、私は感情を抑えられなくなり、これまで出した事のないほど大きな声を船室いっぱいに響かせた。


 やっぱり悪い奴なんだ。地球の人々を拉致してるなんて、酷過ぎる。どれだけの人が悲しみ、恐怖に怯えながら日々を送っているか分かってるの!?


「地球に帰す? そりゃ出来ないね。今まで連れ去った人々は、キミを含めてその日限りで地球を去る運命だったんだから。つまりキミは今日、もう死んでる筈の存在なんだよ~ん♪♪ 死にかけたキミをウチ等が救命して生き長らえたんだからラッキーじゃんか」


 何それ!? 一体どういう事?


「死んでる筈の存在ってどういう事ですか!? 何か根拠でもあるというの!?」


「根拠というか、君の世界の神様と協定結んでるからさ。その辺は後で説明するよ~ん」


「神様と協定!? あなたたちは宗教団体ですか!? そんな説明で納得出来ると思ってるのですか!? ずっと生まれ育った地球を離れるのがどれだけ辛いか、あなたたちに分かります!?」


 本当にもう、地球には帰れないの? 眠る前まで一緒だった雪乃ちゃんにも夏くんにも、誰にも、誰にも会えないの? そんな、そんなのって…。


「絶望に暮れたような顔してるね。でもキミは生きてるんだから、まだ希望が持てるだろう? ウチ等が救命活動で助けられる人は稀なんだからさ。ぶっちゃけ、助ける前に殆どの人が死んじゃうんだよね。彼らの分まで生きてやってちょ!」


 そう言われると、返す言葉がない。私はもう助からないと思った。死は宿命で、雪乃ちゃんと夏くんに看取られて、あの世へ旅立てるだけでも幸せだと思った。


 生きたくても生きられないって思った。


 でも、奇跡が起きた。彼らが死の淵に立たされた私を救ってくれたんだ。


「そう、ですよね…。この身体が、命があれば、希望はまた持てますよね。助けていただいたのにご無礼を働いてしまい、すみません。それと、助けていただいて、ありがとうございます」


 私が彼等に救われたのなら…。


「私の命が救われたのなら、あの子の命も救われたのですか?」


 その言葉に半分ずつ、不安と希望を込めた。


「あの子?」


「そうです!!」


「ああ、あの子か。それは、残念ながら」


「そう、でしたか…」


 それを聞いて、悔しさと喪失感が込み上げてきた反面、少しホッとしてしまった自分がいた。それは事情が事情といえば世間は納得する理由かもしれないけれど、そんな自分がとても(いや)しい。


「ウチ等が迎えに行った時、キミはあの子を流産した後みたいで、既に命はなかった。死者蘇生は地球より文明が進んだウチ等の技術でも不可能なんだよね」


「…」


 命の(ともしび)が消えたというのに、私は自分でも意外と思うくらい冷静だ。


「こんな時に悪いけど、キミは以前、生きる義務を放棄して自殺しようとしたね」


「えっ!?」


 ミニブタさんが私の過去を知ってる!?


 確かに私は以前、訳あって自殺しようとした。しかし、それには至らなかった。


「もしあの時、キミが自殺してたら、ウチ等はキミに第二の人生を用意出来なかった。これは、キミの世界の神様との協定だよ~ん」


「また神様との協定ですか?」


「そうだよ~ん。協定についてはさっき言った通り後で説明するとして、キミはこれからウチ等の星で第二の人生を始めるか、それとも宇宙のゴミクズになってもらうか決めてもらうよ~ん。後者を選んだら説明する必要ないし。さあどうする? 生きる? 死ぬ?」


 ゴミクズって、このミニブタさん、お星さまになってもらうとか、柔らかい表現は出来ないのかな。


「まだお星さまにはなりたくありません。よろしければ、あなたたちの星で生活させて頂きたいと思います」


 生きていれば、きっといつか地球へ帰れる。そんな希望がゼロではなくなる。だからとりあえず、生きてみよう!


「はいよ~ん、じゃあキミをそのまま連れてくからね~」


 ミニブタさんは表情一つ変えず、二つ返事した。


 別のミニブタさんが言った。


「あとウチ等、地球でいう豚よりは牛に近いからそこんトコよろしくね~」


「えっ? 牛さんだったのですか。すみません。失礼しました」


 ブタさんみたいな格好してるくせに~。


「あ、いや、うん…」


「本当に失礼しました」


「まぁ気にしなくていいよ~ん♪♪ それに、牛って言っても牛じゃないし、そもそも哺乳類じゃないし。それじゃ、おやすみんみんぜみ~♪♪」


「えっ?」


 哺乳類じゃないの!? お乳出ないとカルビになっちゃうよ!?


「あっ、おやすみなさい」


 言って、彼らは私を残し、この広い手術室のような部屋から出ていった。


 セミ、知ってるんだ…。


 おやすみんみんぜみと言われても、正直なところ不安と混乱でどうにかなってしまいそうで、とても眠れる状況ではない。


 地球に沢山の悔いを残した私の未来には、一体何が待ち受けているのだろう? そして、地球に生還出来る日は来るのだろうか?


 ◇◇◇


「おはよウジムシ~。さ~て、そろそろ星に入るよ~ん」


「おはようございます!」


 モーニングコールがウジムシって…。


 あ、私、いつの間にか眠ってたんだ。


 謎の生物さんに起こされて、窓辺まで案内された。外に広がるのは、まるでカフェオレにココアパウダーをトッピングしたような色をした茶色い天体。この茶色いものがオゾン層で、宇宙からは地表が見えない。


 オゾン層を抜けると、青い海や緑の陸地が広がっているのが見えてきた。海が青いということは、恒星の青い光がオゾン層を突き抜けているという事だろう。


「凄い」


 その景色に、私はただ圧巻され、ワクワクしていた。初めての海外旅行で間もなく目的地に着陸する飛行機から異国の地を見下ろした時の感覚が更に強くなったような感じ。身近なところでいえば、トンネルを抜けた先に、辺り一面の雪景色が広がっていたり、ビルが建ち並んでいたり、さっきまで居た場所とはまるで違う世界が広がっていたというところだろうか。


「着陸体制に入るから、椅子に座ってシートベルト締めてね~」


「あっ、はいっ!」


 そこに居る全員が素早く着席し、座席横のひじ掛けにあるボタンを押して、シートベルトを締めた。


 彼らは私たち人間と違って五本の指を使えないので、ボタン一つで動作するシステムは画期的だろう。


 そう考えると、この椅子や宇宙船はどうやって造られたのだろう?


 考えているうちに、宇宙船は時計回りに旋回を始め、傾いた。いよいよ、新しい人生の舞台に着陸だ。


 ワクワクしながら、しかし一方で地球を思い出して切なくもなった。二つの感情が私の胸を締め付けて、少し泣きたくなった。

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