ツチウラサクラ11
一ヶ月後、幸いにもインターネットで応募したエントリーシートによる選考を通過した私は、トノサマフンガさんからプレゼントして頂いたグレーのリクルートスーツで気を引き締め、自室の鏡と対面しています。今日は湘南太平洋鉄道の一次試験です。
よし、頑張るぞ!
自宅マンションを出てバスと電車を乗り継ぎ、時原島南部の間抜協会にある、湘南太平洋鉄道本社のエントランス前に到着。地上二十階建の高層ビルは、会社の規模を感じさせる荘厳なものです。
極秘のため残念ながらお話し出来ない午前の試験が終了し、会社が用意して下さったお弁当を試験会場となっている会議室でいただきます。試験会場とあって、みんな黙々とお弁当を口へ運んでいます。お弁当の中身はお肉を食べないフンガ星ならではの、お米、地球では見た事のないお豆、お野菜という草食系ヘルシーメニュー。
昼食を含む一時間の休憩が終わり、午後の試験が始まりました。机にはタイピング機能付きのモニターがカスタマイズされており、机がそのまま問題用紙の役割を果たしています。フンガさんたちは馬のような手足をしているのでペンが持てないため、フンガ星ではこのシステムが一般的だそうです。私は人間なので、タッチペンを使いながら慣れない手つきで問題を解いてゆきます。科目は言語、非言語五割ずつで、タイピング操作により自由に問題を片付けられる方式です。
試験問題の内容は、地球で学習した義務教育過程のものが中心で、入社試験の応募条件が、義務教育過程の途中で地球から連れられた人々の就職希望を考慮し、『来年三月までに中学校卒業見込み』、もしくは『中学校卒業以上』となっているため、高校や大学で学習するレベルの問題はありません。会場には百名を超えるフンガの受験者たちに紛れ、私のような人間の中高生とみられる方も数名いらっしゃいます。
また、入社後の社内選考と、提携している学校の入学試験を通過する事により高校や大学に無償で進学出来る制度があります。
◇◇◇
「あの! すいません!」
一日目の試験が終了し、間抜協会駅のホームで帰りの電車を待っていると、背後から人間の男性に不意に声をかけられました。
「はひ?」
事情があり、男性恐怖症の私は焦ってしまい、声が少し裏返ってしまいました。
呼ばれて振り返ると、私に話しかけてきた学校制服のブレザーを着た同い年くらいの男性の他に、学ランを着た身長150センチ前後の可愛らしい男の子が立っています。こちらの方は中学生でしょうか。
「突然すいません。試験会場で見かけたので…」
照れ臭そうに頬を赤らめて笑顔を見せる男性。もしかして私みたいな人見知りで、勇気を出して話しかけてくれたのかな?
「あ、そう、でしたね」
うぅ、やっぱりオドオドしちゃう…。世の中の男性みんなが悪い人ではないのに、どうしても怖くて、オドオドした口調になるだけでなく、視線が泳いだりしてしまいます。
ぱっと見ただけでも判る、凛としていながら、あどけなさのある顔立ちで、爽やかな印象。いわゆるイケメンの部類に入るであろう彼を、私は確かに試験会場で見かけました。もしかしたら来春から仕事仲間になるかもしれません。
「あの、頑張りましょう! 救われた命、無駄にしないように!」
「はっ、はいっ! 頑張りましょう!」
フンガ星に住んでる人って、やっぱりフンガさんに救命されてるんだ。私も命を無駄にしないように、頑張って夢を叶えるんだ!
それから私たち三人は電車の中で、それぞれ自己紹介をしました。私に話しかけてきた爽やかな印象の男性が、柏優さん。かわいい印象の方は藤代優太さん。柏さんは私より一歳年下の十七歳で高校二年生。藤代さんは三つ年下の十五歳で中学三年生だそうです。
◇◇◇
一次試験から一ヶ月後、私はまた、湘南太平洋鉄道の本社に居ました。そう、一次試験を通過して、最終試験の二次試験に到達したのです。そこには柏さんと藤代さんの姿もありました。私たち三人はエントランス前で円陣を組み、目立たぬよう小さな声で、がんばるぞ、おーっ!! と、お互いに励まし合いました。二人が居てくれたおかげで、緊張の面接も自身をもって臨めました。
更に一ヶ月後、季節はもう冬。クリスマスの二週間前。私は採用通知の電話連絡をいただき、見事、湘南太平洋鉄道に内定しました。柏さんと藤代さんも内定したようで、とても嬉しいです。フンガ星に来て約三ヶ月、駅員の水希ちゃん、共に入社試験を突破した柏さんと藤代さんといった人間のお友達もでき、私の再びの人生は、いよいよこれから本番を迎えようとしています。




