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第1章②父親

昨日から投稿を始めて、閲覧数が0も覚悟してたのですが、何人もの方が見てくださってて、

正直驚いております。嬉しくて朝から踊りました。

本当にありがとうございます。



今日わたしは

いつも以上に緊張している。



スーハー。深呼吸。



平常心、平常心。




コンコンコン。

ドアをノックする。

「入れ」



ドアを挟んでるにも関わらず

低く、お腹に響く声がする。




「失礼しますお父様。」




最近習った、

お姫様みたいな

淑女の礼をする。




目の前にいるこの男は

今のわたしの父、

ドルメネール・カリウス公爵




金髪で、いかにも貴族らしい口ヒゲを生やし

立派な若草色の金の刺繍がしてある

前世にあった、博物館とかに

寄贈、展示されてるような

めちゃくちゃ重厚そうな服を着ている

男がそこにいた。



あの服、肩凝りそうだな、、、。



これが噂の公爵様(父親)か、、、




これからこのドルメネール公爵家の

中心となる人たちだ。




歳は、、、たぶんまだ若いよな。

37とか?




こっちの世界は、

結婚が早い。



17やそこらで結婚し、

子をこさえるのだ。



この男もきっとそのくらいに

母と結婚してるのだろう。



なんせ、公爵様だしな。



わたしを含め

4人の子の親。




長男が18歳

次男が17歳

三男が13歳



だったかな?

で、ミレーユが5歳か。





わたしだけ遅くに

生まれたのはなぜ?


とは思ったけど

まあいい。





しかし、威圧感とんでもねえな、、、




氷のように冷たく感じる碧眼が

この部屋の空気さえも冷やし、

わたしを見下ろす。




「こいつ」とつい言ってしまうが

このミレーユ令嬢がこんな

悪質な女に育ったのは

この男のせいなのも

あるのかなと思うほど

冷酷な感じのする男である。




そして、まだろくに

魔法の修行をしてない

わたしでもわかるし見える。




溢れ出る危険な藍色のオーラが。

まじで肉眼で見えてるって!



これがこの世界の、魔力ってやつか?



この男はヤバイ、、、。




「逆らってはいけない」と

わたしの細胞がビリビリしてる。



前世で高校生の時に肝試しに入った

心霊スポットのトンネルよりも冷気がある!




三男だったのに

公爵に抜擢されるわけだ。




魔法の才能が

桁違いだったんだろう。



そばには、長身な

少年が立っている。




これが長男ユーズワルト18歳か。



今の、わたしの兄でもある。



父親に顔つきは似ていて

切れ長の目の

かなりのイケメンだが、

こいつもたぶん冷たい。



とりあえずこの数週間、

この小僧からも公爵からも

話しかけられたことは

今のところ1度もないし、



2人とも

表情が動かないから感情が

一切わからない。



笑った顔なんて見たことない。



生きてて、楽しいのかな?



何をどう食べたら

人はこうなるのだろうか?



ドルメネール公爵は娘を表情を変えずに、

冷たい目で見下ろしながら話を切り出した。



「王家からの婚約の話が決定する。

2週間後にルーデウス王太子殿下とお前との婚約の顔合わせの席がある。エリーゼとミザリーとともに準備をするように。」




はっ、そうだった。

今日はこの話を聞きにきたんだった。




つ、ついに来たか!




2週間後にはわたしは6歳になる。



王子と私たち2人の婚約はわたしが

6歳の時だったはずだ。

今のところ、漫画にあった話の

通りに進んでるな。



って、やっぱり

あの漫画の世界なんだなって

改めて確認できちゃったな。

何かの間違いであってほしい

気持ちもあったけど、、、




まぁ、ガッカリだけど想定内だ、、、。




っていうか、こいつも!


そうだろうなって思ったけど

「頭打った娘の体調、一言も

聞かないのかよ!」

っていうツッコミは

ぐっと飲み込んで




「はい、謹んでお受けします」

とだけ返事をした。




表情を崩さず

感情を押し殺す。

最後にニコッと微笑。

歯は見せない。




ちなみに、この返事の仕方は

母のエリーゼから

キツく言われていたものである。




いつもは明るくて、こっちが

引くほどのキャピルンな

エリーゼだが、この時だけは

違った。




「お父様にはこの一言だけ話すように。

余計な話はしないようにね。」と。





何でそんなに念をおすのか

わからなかったがとりあえず

その時は、

「はい、わかりました。お母様」

と、返事をしたら

変な顔をされた。




「?」

なんか変な事を言ったのだろうか?

「わかった」と返事をしただけなんだが

これまでとの娘の調子が違うのだろう。




ミレーユはいつも

どんな返事をしていたのか

わからないけど、まぁ

予想はつくな、、、。




とりあえず、エリーゼは

すごく心配をしていた。




それが、この父親をみたら

なーるほどと、納得した。




こりゃ余計なこと

口にしたら

刺されるくらいの

事になりそうだ。




それでもきっと

以前のミレーユは

言いつけを守らずに

この父に話しかけていたんだろう。




なんていうか、

無謀というか。




ちょっと距離感がわからない

残念ちゃん、なのか。

まあ、でも小さい子供には

よくあることな気もする。



前世で近所の

全然知らないガキンチョに

いきなり「遊ぼう!」って

はなしかけられたこと

あったもんなぁ




それにしても、

また一つわかったけど、

やっぱり、この家は変だ。




多分その原因は、

家中が、この男の

支配下にあるということ。




ご機嫌を損ねたら

ダメなのだ。




そしてこの男は

誰の気持ちも考えない。



「暴君」ってやつか。



ケガから生還した

娘へひとことの心配の

そぶりもない。




それくらいは子供として

心配して欲しいよねぇ。

ミレーユちゃん。




「話は以上だ。下がれ」

「はい。失礼します」




本当にこれで終わりかよ!




そう思っても我慢。




そのまま会釈をし、

下げていた顔を上げると、



ん?



ドルメネール公爵の表情が

さっきよりも、少し

違く感じた。



後ろにいる

長男もなんだか

似たような反応だ。




「いや、何でもない。いけ」

「あ、はい」




とりあえず、余計なことは

話すなと言われているし、

少しでも早くこの場から離れたいので

ペコっとしてそそくさと退場する。




ドアを閉めて

「ふぅ」と一息ついていると、

ドアのすぐ脇で

「お嬢様」

「わぁ!」



ミザリーだった。



緊張して、安心してたところに

いきなり声かけられたたから

びっくりしたじゃないか。



「お、お嬢様。すみません、大丈夫ですか?」

「ええ、だ大丈夫よ。ちょっとびっくりしただけ。

どうかした?」



「いえ、今日は公爵さまからお叱りが

なかったのですね。良かったです。」


 

またこれか。



「あ、そうですね、お嬢様は記憶が少し

なくなっていらっしゃるのでしたね」



「あ、あはは、そうね。

いつもは叱られてたのね?わたし。」




「はい、お嬢様はいつも、旦那様からのご要件以外の事を旦那様にお話しなさろうとされて、早く立ち去るようにと、よく、、、」

「そうだったの、、、」




やっぱりね。

だから母はあんなに

念を押してたのか。




下手なことをして欲しく

なかったんだろう。




しかし、このミザリーは

優しいなぁ。

わざわざここで心配して

待っててくれたのか。




これまで、このクソガキ(ミレーユ)

に散々悩まされただろうに。

何でいい子なの若いのにできた子や。

(まあ、若いのは今のわたしもだけど)



しかし、また色々見えてきたぞ。




それまでもわたしは

この家のことを

調べていた。


最近では、メイドたちも

ちょこちょこ話してくれるように

なったので、この屋敷の

家族それぞれの癖なども

情報が入るようになってきた。


まだまだ少ないけど。



でも、調べれば調べるほど

正直、お貴族様って

こんなに怖いの!?

ってびっくりしたほど。




そして本当に、子供の気持ちを

何も思わない大人って

いるんだな、っていうのが

わたしのこの数日の

あの父の印象だ。



というかこれが

この世界ではさほど

珍しいことではないのかもしれない。

公爵家ともなると、

そういう家もあるのだと。



でもさ、

いくら広い屋敷だからって、

同じ家にいるのに



屋敷の中ですれ違っても、

会釈するのはこちらだけ。

向こうはこちらを見もしない。




1週間前、1ヶ月に一回ある

家族が全員一緒になる食事会に

参加したのだが、



同じ卓なのに家族なのに

プライベートな会話もなければ

こちらを見もしない。



というか、公爵からは

「気安く話しかけるな」オーラが半端ない。



目の前にある食事は

ものすごく美味しそうな

ご馳走のはずなのに、

全然味がわからないくらい

この男の

「俺様」な圧迫感。



こんなに楽しくない

豪華な食事会ってある?




もう、お通夜みたいで

逆に笑ってしまいたくなるわ。




シラフでいるのが

結構辛いけど

ワインをこの年で

注文するわけにもいかない。




食事って、人との

コミュニケーションを

良くする最良の方法って

心理学の先生から

聞いてたんですけど!?




というツッコミが

通用しない世界。



「女は黙ってテーブルの花になってろ」

って何かで読んだけど、

ガチの男尊女卑の世界って

こーなんだな。




というか、まだこの世界での

他の外国を知らないから

もしかしたらここの国

というか、この家だけ

そうなのかもしれないけども。



この場では、普段キャピルン全開の

母のエリーゼですら何も言わない。

まあ、言えないよねぇ。



実は、意外とちゃんとした

空気読めるお嬢様なんだよなぁ。母。



いつもはニコニコルンルンの綺麗なお顔が

まあ真面目だこと。




そりゃぁ、

こんな環境で育ったら

娘も拗ねてあーなるわな。

子供には意味わからないものね。




でもきっと、

この人たちみんな、こういう

環境で育てられたんだろう。




時期当主なんて

そりゃ厳しく

されるんだろうな。




ましてや三男なら

完全に下剋上だろ?

風当たりも強かっただろう。



下手したら

命を狙われたことも

あったかも知れない。



あーなら、こういう人格ができるか。



前のわたしの前世の家庭も

事情はだいぶ違えど

かなり殺伐してたから

何となく公爵の気持ちもわかる。



とりあえずお貴族様って

大変なんだな。



と思ったと同時に、ふと

これまでのミレーユが

何を思ってきたのかを

感じた気がした。




ミレーユはきっと、

家族と楽しく

おしゃべりしたった

だけ、なのかもなぁ、、、




彼女はたぶん

中身は普通の子だったのだ。



両親に愛されたいっていう

普通の願望を持った子。



だから、

叱られても父に

話しかけ続けた。



母親にたしなめられても

話をしたかった。




ミレーユ、残念だけど

正直、この家に

その振る舞いは皆無よ。



と、この家族を

時折りチラ見しながら

食事を進める。



とりあえず

早く食べてしまおう。




しかし、一緒に食事してる3人の

兄たちも父に似てるなぁ。

そして、全員が極上なイケメン




父の席から順番に

鋭い切れ長の目のサラサラストレート金髪

長男、ユーズワルト


アイドル的なふんわりくせ毛の金髪

次男、アルノルト


そして、一番性格的にクセの強そうなメガネ金髪

三男、ジルラーク



見てるだけなら

目の保養に最適な環境だ。

視力良くなるかもな。



美術品が喋ってると思えば

少しはストレスも軽減するかな?



作法とかも関係してるだろうけど

誰も楽しい話なんて、一切

しないもんね。息詰まるわぁ。




なんて、思ってたら

次男のアルノルトと

バチっと目が合った




ん、なんかやばい気がする。

逸らした方が良いかもな。



と思った瞬間、

周りに気づかれないように

片方の口の端をあげパッチン⭐︎

とウインクしてきた。




げ!



うぉぉ、こ、これは、、、



当のアルノルトは

もう、真顔に戻っている。



心臓がバックンバックン

してるんですがっ!!



慌ててるのを

気づかれないように

精一杯のポーカーフェイスで

ゆっくり目を逸らす。



あれに反応して

父にバレたら

叱られるのは

わたしだけだぞきっと。




あいつ、

それわかってて

やってるのか?

だとしたら相当の悪だな。




しかし、、、

美形のガイコクジンに

ウインクとか

初めてされたかも、、、




やばい、思った以上の

破壊力だ。

これは危険だ。




まだ17歳だよな?

実の兄ですらこの色気。

社交界なら兵器だな。



正直、油断したら

普通の女子なら鼻血出るレベルだろう。




恐ろしい、、、。




あ、そういえば小説では、

王子はそんじょそこらの

男とは比べものにならないほどの

美形と言われてたっけ。



こいつらよりも、、、か?



いかん!今のわたしには

美形への耐性がない!



日本の男じゃ、ここまでの

破壊力はなかったしなぁ。



こういう世界を

知らずに王子に

挑むところだった。



危ない、危ない。



こんなことで返り討ちにあうなんて

死活問題だ。




あ、そういえば、ミレーユも

そこらへんの子とは

比べられないほどの

美少女なんだよな。




もう、この世界の

美女美男率

崩壊しすぎだろ!




はぁ、、、。




そんなことを思いながら

ダラダラと背中に

冷や汗をかきつつ。

何でもないふりをしながら

食事を続ける。




恐る恐る一瞬だけチラッと

ア アルノルトを見ると、

涼しそうな顔をして

談話している。




よかった、、、もう

目が合わなくて




心の中で

小さくため息をつく。




そんなわたしを

何か思うように

見ていた残りの兄2人の視線と



ポーカーフェイスのまま

こちらをチラ見してる母、



さらに、

その全体の様子を父が

見ているとは

わたしはその時、

全く気が付かなかった。



一一一一一一一一一一一一


これが先週の出来事だった。



これまでの出来事と、

いろんな思考で

頭をクラクラさせながら

ミザリーと部屋に帰る。




ミザリーが用意してくれた

湯船で湯浴みをする。




髪を洗ってもらいながら

あー疲れが和らぐわぁ。


なんて思っていたら

ミザリーが



「お嬢様、本日も旦那様の

ご機嫌が良うございましたね。

王太子殿下とのご婚約も無事に進みそうで

ミザリーも安心しました。」



顔を上げてニカッと笑い、

「ありがとう、ミザリー」


と言ったら、ミザリーが

びっくりした顔でこちらを見ている。


「え?なに?」


すると、ミザリーの目から

ポロポロと涙が落ちてきた。



「どどどうしたの?

何か痛い?ケガでもした?」


「ち、ちがうんです。お嬢様から

ありがとうと言われたのが

初めてでしたもので、、、」




そ、そうか、、、



「これまではわたしもごめんなさい。たくさん

嫌なことを言ったりしてたと思うけど、覚えてなくて。だけど、わたしはこれからミザリーともみんなとも仲良くしたいって思ってるわ」

「お嬢様、、、!ミザリーは嬉しゅうございます」


「あはは、そんなに泣かないで」



、、、ふむ。

子供がここまで

他人を思いやらないのには

完全に育つ環境が関係してる。




優秀な兄3人といつも

比べられて、いつも

家族の前で叱られていた

5歳の女の子。




いつも、認めてほしくて

空気を読まずに

話に割って入って

いたのだろう。




何となく、これまでも

周りがわたしを

気にしていたのは

わかっていたけど




わたしが、これまで

叱られる発言を

することを



周りの全員が心苦しく

思ってたことも

あるんだろうな。



まあ、小さい子供が

大人に毎回怒鳴られてても

気持ちのいいものじゃないだろう。




公爵の機嫌が良かったのも

わたしが場の空気を、

乱さなかったからだ。




けれど、それまで

この少女は1人で

戦っていて、

そして傷ついていたのだ。




家族から拒否される

理由もわからずに。




その、自尊心の傷は

今のわたしでは

想像でしかわからない。




でも、それが

この子のこれまでの日常だ。




ミザリーに着替えさせてもらい

髪を乾かされながら、

化粧台の鏡を見ると、そこには

まだあどけない5歳の少女が映っている。




この子、こんな

家で育ったんだなぁ。




わたしの前の人生で、

親父は飲んだくれて帰ってきて

母とよく怒鳴り合いの

ケンカをしていた。




わたしが、テストで

良い点を取ってきても

ずっと酒を飲み、

どうでもいいと

聞くことさえして

こなかった。




でも、父は最初から

こうではなかった。




わたしが8歳のときに

父は変わってしまった。




親友に騙されて

借金ができてしまったのだ。



お金は破産してなんとかなったが

親友に裏切られショックだったんだろう。

最後、父は自殺。



母も、さすがに心労をかかえ、

家からは笑顔が消えた。

心と体を壊しわたしが18の時に他界。




今となってはわたしも大人になり

(今は子供だけど)

親たちも人間なのだから

仕方ないとは思うが、




あの頃はそこまで割り切れず、

子供ながらショックだったのを

覚えている。




けれど、わたしが

動かないと家が機能しなかったから

家のことはわたしがほとんどやっていた。



わたしが覚めた性格になったのは、

そういう家庭で育ったのが

原因の一つかもしれない。



誰にも頼れなかったから

やるしかなかった。

諦めるしかないと

悟ってからだ。




元彼にはよく

「お前には感情がない」

って言われてたっけ。



無くはないんだが

他の人よりは

冷めてるのは自覚してる




だけど、わたしが

ある程度腐らずに

生きられたのは




小さい頃、両親から

可愛がられた記憶が

あったからかも知れない。




それに比べると

元々のミレーユはまだ5歳だ。



まだまだ本当は、

両親に甘えたいだろう。




小さい子に

感情や欲望を抑えろ

という方が

無理があるとわたしは思う。




けれどこの家では

それが当たり前で

あの兄達もたぶん

同じ道は歩んできてるはず




ただ、人には

「適応」というものがある



彼らにできたところで

ミレーユにもできるはず、

というわけじゃない。




だならこそ、ミレーユは

叶わないその感情の行き場を

メイドやこれから出会う

ご令嬢たちに当たることで

発散してきたのかもしれない。




人の運命なんて、それぞれ

きっと大変だから

可哀想とは思わないが



6歳から味方もいない

状態で、社交界に

出なくてはいけない。



そこで、弱さを見せたら

あっという間に強いものに

利用されることになるだろう。



腹の探り合いだらけの

常にアウェーのような場所。



頭が多少なりともおかしくなるのは

当然だろうな。



ミザリーはいてくれてても

たぶん、6歳の子供に

他の大人との

見分けなんてつかない。




この子にとってここは

さぞや、冷たい

世界だったろう、、、




そう思うと、これまでは

漫画の中のどうしようもない

頭が悪いご令嬢だとしか思えなかった

ミレーユに対し、



ただ悲しい女だったという、

感覚を覚えた。




「1人で頑張ってたのね」



つい、鏡に向かって言葉が

こぼれた。


「?」

頬が濡れてる感覚がする。

鏡に映る顔を覗くと

いつのまにか目から涙が出ている。



「あれ?なんでわたし

泣いてるんだ?」


「………………。」


ふと、窓の外を見上げると

夜空に赤い月がいた。




その夜、書斎では

公爵とその長男ユーズワルトが

話をしていた。




話のネタは、わたしだ。




「お前は今日、アレをどう思った?」

「アレと言いますと」

「ふん、、、ミレーユだ」



いちいち言わせるな、とも言いたげに

公爵が答える。



「ミレーユが何か?」



すると、公爵は息子を睨みつけながら更に

不機嫌そうに答える。



「わたしが無駄な話が好かんのは知ってるだろう?」



ユーズワルトは慣れているのか、

怯むことなく、微笑を含めた顔で答える。


「失礼しました。確かにいつもとは様子が違い、死んでるように静かでしたね。いつもは関係ない話までしようとして、叱られると泣き出し、騒ぎになります。うるさいので追い出すのがいつものパターンでした。しかし、、、

今回の愚妹は前回の食事会も同様に、

全く言葉を発することもなく穏やかに終了。

食事会では、アルノルトのカマかけにも応じず、冷静だったのが意外でした。

いつもこうであれば良い、しかしいささか、

人格が変わりすぎとも感じております。

先日転んで頭を打ち、3日間ほど寝込み、起きてからは記憶もなくしていると母から聞いておりますので、その影響が人格にも出てるのか?と。

知らせを聞いた時は、婚約が破談になることも危惧したのですが、しかし、普段の生活や会話が以前よりもまともにできておりますし、むしろ、これまでよりも心配なく進めていけるのではないか、とも、考えておりました。

父上は他に、何か気になることでも?」



「いや、わたしもだいたい同じ意見だ。お前もアレに対し、そのように考えているなら良い」

「はい」

「しかし、王子との顔合わせまでは気を抜くなよ」

「かしこまりました」




公爵はそのまま黙って窓の外を眺める。

すると、何か庭の方で少し影が動くのが見えた。



公爵は眉間に皺を寄せた。

「やつらには引き続き警戒しろ」



「承知しました」



ユーズワルトは美しい一礼をして

部屋から出ていった。


一一一一一一一一



その頃、わたしは



冷酷な父と兄がそんな話をしていた

なんて知る由もなく、



これまでのミレーユのことを憂いつつも

ミザリーとこれまでよりも

仲良くなれたことを

これからのまずは第一歩を踏み出せた!

と、前向きに考えながら



窓越しに見える欠けた月と

煌めく星を眺めるのだった。


一一一一一一一一一一一一一

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