第一章 10 お茶会
「ここが、レクシュール伯爵の、、、お家?」
な、ナンジャコリャー!!
ドルメネールのお屋敷ももちろん負けてないけど
わたしとしては、前世のヨーロッパの写真でよく見た形のお城のような美しい建物の造形に圧倒されていた。
あれだ、ネズミーランドのツンデレラ城。
ふ、ファンタジーだ。
本当にこんなロマンチックなの
立てる人いるんだな。
どうやって住んでるんだ?
部屋の構造も
ここでの日常生活が全く想像つかない。
「ミレーユ、お口」
城の豪華さに圧倒され、口があんぐり開いていたようだ。慌てて口を閉じる私。
「さ、行きますよ」
母のエリーゼに連れられて、城の中へ入る。
今回のミレーユのドレスは
黒地の生地に大きな薔薇の刺繍が散りばめられた
プリンセスラインの膝下のドレスだ。
お茶会なので、今回は丈を軽めなドレスにした。
それでも薔薇の刺繍が手が込んでいてリアルなので
地が黒だからこそしっかり華やかな重厚感があるアメリ自慢のドレッシーなものに仕上がっている。
でも、子供が黒地のドレスをきることは
今のこの国のトレンドにはなかなかないので、
かなり個性的とも言えるが、
おしゃれ番長と言われる夫人の前に立つために、勝負を仕掛けたものだ。
ヘアドレスにも、同じ刺繍を施している。
「ドルメネール公爵夫人。お久しぶりです。ようこそいらっしゃいました。お会いできるの楽しみにしておりましたのよ」
そう言って、私たちを出迎えてきたのは
この館の女主人、レクシュール伯爵夫人だ。
「こちらこそお招きくださりありがとうございます。本日は娘までお声をかけてくださりこちらこそ楽しみにしておりました。本日は娘ともどもよろしくお願いいたします。レクシュール伯爵夫人」
レクシュール伯爵家。この国ではレクシュール伯爵の影響力は大きい。
テクシュール伯爵家は、魔力が強い家系で、ご子息たちも魔力が膨大なことで有名だ。この国では、希少な光魔法の使い手として、レクシュール公爵令嬢(16歳)はこの国では上級名誉となる優秀な「聖女」として神殿に正式に上がることが噂されている。
我が家は公爵家で彼らよりも高位の貴族ではあるが、有能な伯爵家と繋がっている事は、今後の公爵家の在り方にも大きな影響を及ぼす。
ご夫人を見るに、他の貴族のご夫人やこれ以上たちとは、少し違う雰囲気のドレスを着ている。
この国で今のドレスの流行りはプリンセスラインが主流だが、今日の夫人はマーメイドラインの美しい艶やかなボディラインが強調されるドレスだ。
自分に自信がなきゃ絶対着れないやつ。
ファッションの良し悪しは、その家の権威性を表す一つの手でもあるだろうが、このご婦人のセンスが抜群なのは生まれ持った感性も大きいのだろう。ある程度の感性はファッションには必要だとわたしは昔から思っている。
少々派手だが、前世の「表参道とかで見かける目立っておしゃれな人」と言ったような感じだろうか。上品さがあるなかに、ちょっと個性的な雰囲気のあるご婦人だ。
私は知っている。こういう雰囲気のご婦人とは、絶対仲良くなっていたほうがいい。
前世でも同じだった。
私は取引先の会社で、この人に似たランジェリー会社の女社長がおり、ものすごいカリスマ性を持っていて、人望も厚く、メディアにも顔を出してい他ほどの人だった。
なぜか私は気に入られ『うちの会社に来ないか』と何度も誘われていた。彼女から学ぶものはとても多く、いろんな展示会もご一緒させてもらった。
何度も食事に誘ってくれ、たくさんご馳走も
してもらったものだ。
社長元気かなぁ。
挨拶もせず死んじゃったもんなぁ。
きっと、ここでも、こういう人がカリスマと言われるものなのだろうし、世界のファッションリーダーになるんだろうな。
なんてことを考えていると伯爵夫人は、わたしにも声をかけてきた。
「ミレーユ様も、本日は遠い中お越しくださりありがとうございます。はじめましてではございませんよ。先日はルーデウス殿下とのご婚約パーティーでご一緒させていただきました。改めましてご婚約おめでとうございます。」
「はい、先日はお声をかけてくださり誠にありがとうございます。素敵なご婦人でしたので僭越ながら覚えております。本日はあの日のものとは違うけれど、本日もまた、素敵なドレスとジュエリーをお召しでございますね。色も鮮やかでとっても美しいです。どのようなお仕立てなのか、詳しくお聞きしたいです!」
「あらあら、まぁ。パーティの時もそうでしたが、6歳ですのに、ミレーユ様はしっかりしていらっしゃること。ドレスも褒めてくださってありがとう。ミレーユ様に褒めていただけるなんて。しかも自信作だから、嬉しいわ!ミレーユ様こそ今日も素敵なドレスだこと。あまり見ないデザインだけど、刺繍が素敵ね!ミレーユ様は、おかあさまのドルメネール公爵夫人もオシャレでいらっしゃいますものね。今日はミレーユ様とお話をしたくて、わたくし、とっても楽しみにしておりましたの。それではまた後ほど、お話ししましょうね」
ようし!つかみはオッケイだ!
しかも、ドレスを褒めることを、わたしから先攻して夫人に話せたのはポイント高いはず!!
でもここで、気を許すことはまだ危険だ。
なにしろオシャレな女子って
オシャレな女子を好きではあるけど
それは、同じ同族だと認めた上でのこと。
それは交流としては、好感度1レベル
必要最低限のものだ。
1レベルがクリアすると
次に待っているのは
気を許せる友人になるか
ライバルとして敵となるか
この二つに分かれるのを
わたしは何度も見てきたのだ。
わたしはあくまで
たくさんの女子と平和に
楽しめる方を選択したいのだが
そうじゃなく、
マウントが好きな人もいるのが
女の世界には存在する。
過去の、その女社長には
可愛がられたが
彼女の秘書にはしばらくの間
疎まれたことがあった。
最後は和解したがその間の
マウントは凄まじかった。
このご婦人がどちらになるのかを
見極めないと女の世界は
大変なことになるのだ。
女は恨むからなぁ、、、。
ましてやわたしは
5歳にして、これまで悪評が絶えなかった
悪役令嬢だ。
すでに、疎んでるご令嬢たちもいるだろう。
ましてや、ルーデウス王子は見た目も麗しいが、能力値も高く、教養も身分も頂点に近い。
だからこそご令嬢にもご婦人方にも人気がある。
バカだアホだと陰で噂話されまくっていた
わたしがつい先日、その王子と婚約をし、
今回のお茶会に出席するのだ。
わたしのことを、色眼鏡で見に来てる人間の方がきっと多いはずだ。
あわよくば、伯爵夫人に私の醜態を見せ幻滅させようと企んでいる人間が潜んでる可能性もある。
「だから気をつけろよ。僕のお姫様❤︎」
と、アルノルト兄の助言だ。
思い出しゲンナリ。
「ミレーユ、顔」
「はい!おかあさま!」
はいはい、誰が見てるかわからないよな。
貴族ってめんどくさい。
すっかり序盤から疲れてはいたが、
淑女の笑顔を決める。
前世で営業しててよかったわ。
お茶会は和やかにすすみ、
お一人でのご参加のご婦人たちがレクシュール伯爵夫人と歓談してる中、わたしはご令嬢方に囲まれた。
「ミレーユ様ご挨拶させてくださいませ。〇〇侯爵家長女〇〇と申します。どうぞお見知り置きを」
「ミレーユ様、先日のルーデウス殿下とのご婚約おめでとうございます」
「ミレーユ様、今後も仲良くしてくださいな」
「ミレーユ様」「ミレーユ様」
チーン。
うう、こういうの苦手だわぁ。
「花を摘みにいく」と言って
抜け出してはきたけど
女子の凄まじさよ、、、。
会場に戻ると、新しいケーキやお菓子が運ばれてきた。
会場は新しい甘い香りに包まれている。
わたしも、そろそろ食べても良いかしらね。
うふふー、とテーブルに近づくと
なにこれぇー!
苺の乗った生クリームのケーキ
色とりどりのマカロン
マドレーヌ、フィナンシェ、
山になったプチシュークリーム!
まずは大好きな苺のケーキ
パクリ。
うんまーーーい!!
生クリームも絶妙な美味しさっ!!
我が家の敏腕お菓子作り担当シェフの
ニーチェのケーキにも負けないくらいの
美味しだわ!!
プチシューもパクリ
んー!!これも絶品!
サクッとほろほろ口の中で崩れるシュー生地の中からこれでもか!というくらい優しい甘さの生クリームとカスタード!
負けたわ、、、。
完敗よ。
紅茶を飲む。
うんまーい!!
「ミレーユ様」
レクシュール伯爵夫人だ。
「なかなか抜け出せなくてごめんなさいね」
「いえ、こちらこそなかなかお話しできず申し訳おりません」
お菓子はどう?お口に合うものがあったかしら?
「はい!どれも美味しくて、食べ過ぎに気をつけたいです」
「ふふふ。喜んでいただけたようでよかったわ。そうそう、お茶会が終わったらお母様とご一緒に私のドレスサロンにいらっしゃいませんこと?」
「ドレスサロンですか!行きたいです!」
おお!それはきっとすごいのが見れるぞ!
今日の夫人のドレスは少しだけ暗めの上品な紅色のドレスで、マーメイドシルエットが、夫人の完璧なプロポーションを映えさせ、美しく見せている。耳と胸元にはお揃いのブラックダイヤのような美しい黒い宝石だ。
このご婦人のセンスはカッコ良すぎる!
「レクシュール様、ご挨拶を…」
「あら、お久しぶりね。それではミレーユ様、ごゆっくり楽しんでくださいませ」
「ありがとうございます」
あれで三人も産んでるように見えないよなぁ。
今度、プロポーションを保つ秘訣を伝授願いたい。
レクシュール夫人が行ってしまうと、ご婦人方の話が聞こえてくる。
「今日のお茶会、建物の中でよかったですわね」
「お庭だったら今回残念だけど、お断りしたかったの」
「私もよ、襲われたらたまらないものね」
なんか、物騒なはなしだな。
お茶会を襲いにくる族とかの事件が
流行ってるのだろうか?
そういえば、おかあさまたちもなんか
言ってたような、、、。
いや、でも今はそんなことより
ケーキだ!!
さてさて、じゃあ次のケーキは
見ると、そこには
チーズケーキの盛り合わせ!!
レアチーズケーキも
バ●クみたいなのもある!
はむっ。はむっ。
うんまぁーい❤︎
紅茶を飲む。
はぁ、幸せ❤︎
「………レーユ様」
はあ、天国だわぁ。
「…レーユ様」
次は何食べようかしら。あれもいいな。
でもやっぱフィナンシェ?
「ミレーユ様!ご挨拶が遅れまして失礼しました!」
「うわぁ!」
び、びっくりした。
しまった、ケーキにがっつきすぎた。
振り返ると、後ろに2人ほどご令嬢を従えた(?)ご令嬢が、機嫌悪そうに立っている。
年齢は10歳か11歳ってところか。
「あ、どうも。」
さっき、挨拶しそびれた令嬢かな?
全員挨拶したって聞いてたけど。
遅刻?
でも、遅刻ってあんまりよろしくないはずだし、やっぱり挨拶しそびれたのかな?
「ミレーユ・ドルメネールですわ。どうぞよろしくお願いします」
「あなた、殿下とご婚約されたそうね。」
おやおや?ずいぶん不躾というか
これって「挨拶」じゃないよね?
ストレートに殴りかかってきたかんじね。
ルーデウス王子のファンか?
このご令嬢、どこの家だろ?
私は公爵令嬢だから
他のご令嬢はあんまり失礼ができないはずなのだけど。
周りを見ると、大人のご婦人方は少し離れていて
こちらの会話は聞こえてないようだ。
いや、場合によっては
聞いているのかもな。
私と同じように耳が良い人もいるはずだ。
ま、この手のご令嬢のやりたいことはわかる。
大人の見てないところで、わたしをやってやろうってか。
悪知恵が働くお嬢さんなのね。
それとも、親の入れ知恵かしら?
「失礼ですが、あなたはどなた?」
「んまぁ!私かのことをご存知ないの?以前もご挨拶させていただきましたのに!?」
そうなんだ。まあ、記憶喪失だし。
でも、記憶喪失だって知られちゃダメなんだよね。兄様たちやエリーゼに言われたもんな。
「ごめんなさいね。わたし、頭悪くってあまり印象が薄い方って覚えていられませんの」
まぁ、こういうことしか言えないよなぁ。
なんとなく、嫌な感じだし少しくらい言い返しておかないと舐められたらずっと絡まれそうだし。
するとご令嬢は、よほど気に障ったのか
みるみる顔がタコみたいに赤くなった。
「あ、頭が悪いというのは本当のようね。わ、私を毎回忘れるなんて」
毎回?
とりあえず今のわたしは本当に知らないので仕方ない。そして、失礼は失礼で返す。
「ですから、どなたですか?」
全く気にせずに返答する。
「エ、エリクサール公爵の次女、エポニーヌですわ!何回言わせるのよ!いつもいつも!」
公爵令嬢。なるほど。
ある程度対等だから平気でけんか
売ってきたのね。
後ろの2人も公爵家かしら?
ドレスを見る限りちょっと見ない気がするけど。
エポニーヌはこの世界だと、顔は普通かな。
というか、美形が多すぎるのよね。
顔が普通でゴージャスな巻き毛って。
ドレスも薄ピンクでフリフリしまくっている。
昔よく見た渋谷のギャルって感じだ。
というか、いつも名前聞いちゃってたのね。
もしかしたら、本物のミレーユも好きじゃなかったのかな?
まあ、前のミレーユも意地悪だったろうし、でも、これってお互い様じゃね?
「エポニーヌ様ですね。失礼しました。今日でなんとか覚えますわ。それで、わたしに何か御用でしょうか?」
「相変わらずなんて失礼な方なの!なんでこんな方に殿下はご婚約を!」
やはりルーデウスのファンか。
ん?そう言えばこの子……って
おや?
エポニーヌが騒いでいるからか、令嬢たちはヒソヒソと静かに話しながら全員こちらを見ている。
「また、エポニーヌ様とミレーユ様が」
「少し離れましょうか」
そりゃ近づきたくないよね。
公爵家同士のやり合いなんて関わらないのがベストだわぁ。
ご婦人方は、歓談が盛り上がってるようで、こちらのことに、気がついていないようだ。
すると、ガチャっと会場のドアが開いた。
来客のようだが…うわぁ。
新しい来客があったことに気がついていないな。
他のご令嬢方はしっかり私たちを見て聞いているので、こちらも気がついていない。
「殿下がなにか?」
とりあえず、来客は無視しよう。なんでもないという顔して冷めたように返す。
「なんであなたが殿下の婚約者なのか、理解に苦しむわ!」
「エポニーヌ様は、私と殿下との婚約が気に入らないのですか?」
「本来なら私が決まるはずでしたのよ!」
「そうなんですか?なぜ?」
「なぜって、殿下はわたくしのことを気に入ってくださっていたんですのよ!」
ルーデウスが?この巻毛ちゃんを?
へーそうなんだ。
「へーそうなんですね」
ずっと呆けた顔で、もむもむケーキを食べながら聞く。
「ケーキ食べながら聞いてるんじゃないわよ!バカにしてるの!?」
「いーえ、そんなことは、あ、いちご美味しい」
「絶対聞いてないでしょ!」
「そんなことないですー。モグモグ」
エポニーヌは痺れを切らしたように
さらに大きな声で言った。
「あなたの父親が!殿下は嫌がっていたのに、無理矢理決めたのだと言いますわ!」
おっと、それはここで言っていいのか?
ならば、
「じゃあ、国王陛下や、第二王子殿下は、私の父には逆らえず、言いなりだったと?」
「そうよ!あなたの父はそういう人なんだから!」
おやおや、いいのかな?この子。
「わたくしはそんな話、存じあげませんが、それは、どなたから聞いたのですか?」
私、意地悪だなぁ。聞いちゃうなんて。
「私の、おとうさまとおかあさまよ!」
あーあ。言っちゃった⭐︎
「へぇーそうなのか?エリクサール令嬢」
「そうよ!って、あなただれ!?」
エポニーヌが振り返ったその先には
ルーデウス第二王子が立っていた。
「ル、ルーデウス…でん…」
「そなたに名前を呼ぶことをわたしは許していないのだが?」
麗しいその笑顔には、何故か濃い影が差していた。
こえぇ。
一一一一一一一一一一一一一一一一一
大人たちがようやくルーデウス王太子の訪問に気がついた時、大人たちにとっては最悪の状況だった。
エポニーヌは凍りついている。
わたしは、王子に礼をして跪く。
と、周りのご令嬢たちもハッと気がついて、
礼をしていく。
エポニーヌも周囲の様子にようやく気がつき、
礼をし、跪こうとしたその時
「で?僕と父上がなんだと?」
この言葉にエポニーヌはビクッとして、
「ち、違うのです殿下!さっきのは」
「僕と父上がドルメネール公爵に逆らえず本当は君と婚約していたはずだと言っていたね」
「ち、ちがいます!お、おかあさま!」
「そして、僕は君のことを気に入っていたと?そんなに君とは、話したこともないのに?」
「え、でも、おかあさまが」
「ほう、おかあさまがそう言ってたのかい?夫人とはそういう話をした記憶がないのだが」
「え、で、でもっ」
「ならば、ご夫人が君に嘘を言っていた、ということになるかな?」
「え?ちっ、ちがっ」
「違うのか?では君は、事実とは違うことを、こんな大きな社交の場で大きな声で僕の婚約者に宣っていたわけか?」
「ち、ちがいま…」
「それも違うのか?」
「いえ、その」
「僕も見ていたのに?」
「いや、いや、」
「君はさっきから全部違うと言っているが、じゃあ僕の耳がおかしかったのかな?僕の体がおかしくて、聞き間違えたのか?」
「い、いいえ、いいえ」
「君は何が言いたい「殿下、そこまでに」」
わたしが割って入った。
「無礼を承知で殿下のお言葉を遮ったこと、どうかお許しくださいませ」
「そうだね。君も無礼だな」
ルーデウスは睨む。
「では、ここで私を断罪なさいます?」
にっこりして言った。
この私の言葉に、他のご令嬢だけじゃない、
ご婦人方も「ひっ」と私たちのやりとりに引いている。
シーーーーン
「………ふっ」
静寂を遮り、会場の1人が吹き出す。
ルーデウスが横を向いている。
「殿下、お戯が過ぎますよ、かわいそうに。」
はぁ、とため息をついてルーデウスの顔をみると
ち、近い!顔がすぐ目の前に!いつの間に!!
ルーデウスはミレーユの手を取り引き上げると、腰に手を回しミレーユを体ごと自分へ引き寄せ、ふっと笑う。
「僕の婚約者は、恐れることを知らないな」
「恐れておりますよ。王族の方に対して恐れ多いです。震えが止まりませんわ」
「くくくっ。」
正直、6歳同士の掛け合いにしては
シュールすぎる。
でも、この世界はマジなのだ。
きっと日本でこれをやってたら、
爆笑ものなのだが。
ルーデウスのミレーユへの態度に
他のご令嬢がほうっと頬を染めている。
なにか都合のいい花畑でも妄想してるのだろうか?
私たちの様子を会場にいる人間は、エリーゼ以外は唖然をしている。
エリーゼは、私と殿下の掛け合いを見ていたので、わかってはいたが、それでもホッとした顔を見せた。
ルーデウスの手をゆっくり払いのけ、
テーブルにある大きなナプキンを手に取り、水差しで濡らし、エポニーヌの前にしゃがむ。
「あーあ、綺麗なお顔が台無しですよ」
膝から崩れ落ち、顔が涙と鼻水とへたくそな化粧でぐちょぐちょになっているエポニーヌの顔を少しだけ乱暴に拭き取る。
化粧があちこちに散らかってるが、鼻水はキレイに拭き取った。
「はい、チーンして」
ミレーユに言われるがまま、エポニーヌは鼻水を噛む。ブィーン!
思考が全く追いついてないようだ。
まだまだ会場は静まり返っている。
はっきり言って絶対笑うところだろう。完全に大阪の●喜劇じゃないか。日本なら。
そこにいち早く自我が戻ったらしいエポニーヌの母エリクサール公爵夫人がダッシュで駆け寄り、王子の前に跪く。
「殿下、この度は私どもの娘が大変なご無礼をいたしましたこと、誠に申し訳なく、お詫びいたいします!どうか、どうか、ご容赦いただきたく!」
土下座をする夫人。
一同は静かに見守っている。
貴族の頂点というべき公爵家が
王子に許しをこう場面なんて
そうそう見れるものではないはずだ。
「わたしではない。父上が決めることだ。このことは父にわたしの言葉で報告させていただくよ」
顔面蒼白になり、公爵夫人はがくがくしている。
「どうか、どうかお慈悲を」
「殿下、発言してもよろしいですか」
「なんだ、許す」
「私の父は、確かに怖いですわ」
ルーデウスは少しだけ目を見開く。
その言葉に、一瞬大人の貴族たちが、無言でざわっとしたのがわかった。
なぜなら、ドルメネール公爵のことを公の場で
しかも、顔のことをバカにしたり悪く言うなんて
誰も怖くてしたことなどなかったからだ。
逆らえば王家でさえも殺されてしまう。
そんな噂もあるくらいの冷徹公爵。
それがドルメネール・カリウスという男だ。
「君は何を言ってるんだ」
少々冷めて呆れた顔で返すルーデウス。
「本当のことですわ。ドルメネール公爵は怖い顔だし雰囲気も怖いです。なんなら、一緒にいるだけで身震いします。身内が言うのですから間違いありませんわ」
呆れた顔でふうやれやれと言ったら表情で答えると、
「「「ぶっ」」」「「「ぶっ」」」
それに反応したのは、会場の何人かの夫人らしい。何人か、扇で顔を隠して震えている。
この状況で吹き出してしまったエリクサール公爵夫人は、『しまった』と言う顔で「あ、いえ、その…」ともごもごしている。
「だ、から、なんだ?」
ん?ルーデウス王子なんか震えてないか?
なんとなく涙目なような…
トイレでも我慢してるのか?
「あの顔が怖くて、無理矢理殿下は婚約したのだろうと、心配をされ、誤解をされるご令嬢方がいらしてもおかしくはないかと」
「…ほう」
「エリクサール令嬢はまだお若く未熟です。もちろん、公爵令嬢としてはあるまじきことですが。でも、だからこそ、そのように素直に殿下や陛下をご心配されたのですわ。ご自分のことではないのに、あんなに憤られるなんて、エポニーヌ様は本当にお優しい方ですね」
会場中の貴族たちが目を見開いた。
まさか、わたしがエポニーヌを援護するなんて思わなかったのだろう。
「私は存じあげませんが、エポニーヌ様も殿下をお慕いしておられたご様子ではないかと先ほどの言葉から推測します。我が家もそうですが、娘が好きな人がいると話したら、どんな親御さんだって、よほど地位が下がっていなければ、「きっとお前が一番に気に入られてるよ」、と話すものではないでしょうか。エポニーヌ様はまだ幼いですから、きっと、そんな言葉を鵜呑みにされてしまったのでしょう。勘違いしてもしかたのないことでございます。私だって、もしかしたら同じ立場になっていた可能性もございますから」
「君は今回の騒動はそう言うことだと私に言いたいのか?」
「ええ、だってエポニーヌ様はきっと、私同様に殿下をお慕いしておりますもの。お気持ちはわかりますわ。まあ、言葉選びがアレでしたが」
これは、はっきり言って演技だ。
これまでにこの手の漫画はある程度読んできたから、なんとなくだけど
平和に解決した方が良いと感じたのだ。
ここで、わたしの敵を増やすのは得策じゃない。
それに子供が断罪されるとか、処刑されるとか、その後の目覚めが悪い。
「それでも、エポニーヌの言葉は、王族を侮辱する言葉だと私は受け取るよ」
「お気持ちはわかります。私だって、恐ろしい顔をしている父だとしても、身内を罵られれば嬉しくはありません。エポニーヌ様も今回のことで、誰かを悪く言えば自分に返ってくる、ということを学ばれることでしょう。人は、過ちを犯すものです。そして、そこから学ぶものだと私は優秀な兄たちや家族に教えられております。エポニーヌ様は残念ながら今日まで、そういうことが腑に落ちる機会がなかっただけでございます。
どうか、わたくしたちが未来で支えるこの国の成長のためにも、エポニーヌ様もこれからこの国を支える方ですわ。だからこそ、寛大な処置を。今回は子供の言ったことです。言葉の信憑性は微塵もございませんわ」
最後の言葉は、完全にエリクサール家を援護し、子供の戯言のため、王族への中傷は一切なかったことだと言い切る言葉だ。父としてはきっと面白くないだろうけど、私にとってはきっとこの方が都合が良いはずだ。
これにより、王族がエリクサール公爵家に断罪するのはきっとやりづらくなるだろう。
正直、こうなるとドルメネール家にはなんの旨味もない。けれど、私にはそんなの関係ないのだ。
私は敵を作るわけにはいかないから!
「そなたも、まだ子供だ」
「そうですわね。でも、陛下もでしてよ?だからこそでございますわ。陛下だって、少しくらいの意地悪や悪戯をなさったことくらいございますでしょう?」
少しだけ悪戯気に上目遣いをして、ウィンクする。
その言葉に少し「うっ」とした表情をしたルーデウスは、気持ちを切り替えたのか、なにか迷いが吹っ切れた顔をした。
「今回のことは、父に私の言葉で報告はする。しかし、今回に関してはミレーユとエポニーヌそして、わたしの間の子供の騒動だと、父には報告をするつもりだ。エポニーヌに言われた言葉はそのまま国王には伝える。エリクサール公爵夫人」
「は!」
突然呼ばれてまた青ざめる公爵夫人。
「エポニーヌと夫人に関してはしばらくの間、謹慎を命じる。謹慎を解く時期は追って知らせる。エポニーヌは今回、そなたの家の令嬢が攻撃をしかけたドルメネール家ミレーユ嬢の寛大な言葉に助けられたことを重々肝に命じることだ。今後の行動や言動は娘に向けるものもそうだが、公爵ともに、考えてからするように。そなたらの軽々しい無知な行いが今後の国や社交界に影響を及ぼし、ドルメネール家だけではなく、場合によっては国や自身の家を滅ぼすことにもなるのだ。しかも今回は、レクシュール伯爵にも迷惑をかけた。そのことをエリクサール家として国家を背負っていることを改めて理解し自覚しろ。傲慢は許さぬ。よいか」
「はっ。寛大なお言葉に感謝します」
エリクサール夫人は震えながら答えた。
エポニーヌは、すっかり大人しくなり、ずっと泣きじゃくっている。
まあ、自業自得だよね。
公爵本人なのか、夫人個人での思惑なのかわからないけど、多分、子供を使ってわたしに
嫌がらせをして、親子で
ドルメネールの評判を落とそうとしたんだろう。
幸いなのが
あのお嬢様のおつむが足りなかったところよね。
甘やかされて育ったんだろう。
それでも、甘やかしは
子供にとってはきっと良くない。
ミレーユも、家族には放置され、それを疎む
メイドたちに甘やかされてあーなったのだ。
きっと、エリクサール家にも良い兆しになることを、………願う。
とりあえず、エリクサール公爵家に恩を売れた形にはなっただろう。
そして、私の敵になりませんように。
「さて、ドルメネール公爵令嬢ミレーユ殿」
何、この呼び方。
背後から呼びかけられたその声にはなんだか
怨念がこもってそうだ。
ぎぎぎぎぎ。
首をしっかり曲げる。
「なんでしょう?」
なんでもないように、振り返る。
「君とのお茶を楽しめると思って今日は時間を使ってきたんだ。そうしたらこの騒動。口直しのためにも、付き合ってくれるかな?」
「もちろんですとも陛下。喜んで」
「また君はそんな感情のこもってない返事だね」
「そんなことありませんわ。もう楽しみで楽しみで」
「そうか、ならばじっくり付き合ってもらおう」
「喜んで…」
その後、王子に3時間ほど付き合い
ぐったりして帰ったミレーユは次の日
いつもより、こわーい顔のドルメネール公爵に、
ひんやりした冷たい部屋でガクブルしながら、今回の騒動の説明をしたのだった。
絶対に叱られる。そう思っていたミレーユだったが、公爵からの返事は
「そうか。」だけだった。
拍子抜けした私は
そのまま部屋を出た途端いつものように気絶し、
ミザリーに湯浴みをされ
そのままベッドイン。
その日、この国の社交界が揺れに揺れた。
ニコニコして顔だけの優しい頼りない、と言われていた第二王子の6歳らしからぬ言動と佇まい。
そして、自分を陥れようとしたライバルでもあるべき失礼極まりない振る舞いをした公爵令嬢を救ったその婚約者ミレーユが、
とっても仲睦まじい上、とんでもなく有能なカップルが誕生したと、この2人が次期王家を継ぎ、この国はこの2人に任せれば安泰だろうという、とんでもない世論を作り出していることを、私は何も知らずに、ケーキを食べる夢を見ながら、スヤスヤ寝ていたのだった。
今回は一気に書きました。
家族と王子以外の登場人物が
ようやくはっきり描かれた回です。
楽しんでいただけたら嬉しいです。




