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遊泳?いらねえよ

 「才能とは努力によって磨かれる」と説いたいつかの偉人はさぞ才能があったのだろう。もしくは、自分の才能は己の努力によって培ったものだと勘違いしている大バカ者だ。もし、同じ時代に生きることができたのならば一発ぶん殴ってやりたいものだ。


自分で言うのもなんだが、俺は多くの才能に恵まれて生まれた。


勉強は人並み以上にできたし、要領も悪くなかった。努力をすれば結果はついてきたし、努力しなくてもそれなりの成果は出た。

だからこそ、俺は早い段階で理解してしまったのだ。


――才能とは、生まれた瞬間にほぼ決まっている。


努力とは、それを磨くための研磨剤に過ぎない。

ダイヤの原石を磨けば輝くが、ただの石を磨いてもただの石だ。


……まあ、そんな理屈を理解したところで、人生が楽になるわけでもないんだが。


「結果的に俺が何をしていたかって? 普通に学校行って、普通に生活して、普通に死んだだけだ」


車道にはみ出した子どもを突き飛ばし、代わりにトラックに轢かれた。

ドラマチックでも何でもない、ありふれた最期。


ただ一つ違ったのは――


「死んだあとに、こんな場所に来たってことだけだな」


目を覚ますと、そこは真っ白な空間だった。上下左右の区別すら曖昧で、現実味がない。


「……さて。ここが噂に聞く“あの世”ってやつか?」


「ええ、正確には“転生待機所”ですが」


背後から声がした。


振り向くと、そこには銀髪の女性が浮かんでいた。神々しい……というより、妙に軽い雰囲気の美女だ。

白いローブ、青い瞳。テンプレ通りすぎて逆に疑わしい。


「女神、でいいのか?」


「はい。そういう役割を担当しています」


担当なんだ……。


「あなたは不慮の事故で亡くなりましたが、転生の権利を得ました。異世界で新たな人生を歩んでもらいます」


「で、チート能力をくれる、と」


「話が早くて助かります」


女神は満足そうに頷き、指を鳴らした。


空中に半透明のパネルが浮かび上がる。


【ユニークスキル付与中……】


俺は内心で思った。


剣の才能でも、魔法適性でも、未来視でもいい。

才能というものが“与えられる”世界なら、俺はそれを最大限に利用する。


努力? するさ。

だが、才能があるならの話だ。


光が収まり、文字が確定する。


【ユニークスキル:遊泳パッシブ


「…………」


一秒。

二秒。


「……いや」


俺は静かに口を開いた。


「これはなんの冗談だ?」


「冗談ではありません。あなた固有の才能です」


「遊泳って……泳ぐ、あの?」


「はい。水中での移動に関する能力です」


説明欄を見る。


水中移動速度上昇。

水中視界確保。

水中呼吸可能。

水の抵抗を軽減。


「……つまり、水がなきゃ意味ない?」


「その通りです」


即答かよ。


「戦闘能力は?」


「ありません」


「魔法は?」


「使えません」


「補助効果は?」


「泳げます」


「……」


俺は深く、深く息を吐いた。


「才能とは努力によって磨かれる、か」


思わず笑ってしまう。


これは“磨く前の原石”ですらない。

そもそも土俵が狭すぎる。


「……まあいい。どうせ文句言っても変わらないんだろ」


「物分かりが良くて助かります」


女神はにこやかに言った。


「では、異世界での健闘を祈っています」


次の瞬間、視界が白に塗りつぶされた。


気がつくと、石畳の街の中央に立っていた。


人、人、人。

剣、魔法、鎧、ローブ。


――完全に異世界だ。


「まずは情報収集だな」


俺は冷静に状況を整理し、冒険者ギルドへ向かった。

 

「まさか、暇つぶしに読んでみた異世界転生漫画の情報が役に立つとはな」


登録のため、スキルを提示する。


【遊泳】


場の空気が一気に変わる。


「……は?」

「泳ぐだけ?」

「水場専用じゃん」


失笑、嘲笑、哀れみ。


予想通りだ。むしろ驚くほど想定内。


受付の少女だけが、困ったように眉を下げていた。


「登録は可能ですが……戦闘職としては……」


「問題ない」


俺は首を振った。


「俺は“使えない才能”を使うのが得意なんだ」


それは半分、強がりだったが。


……半分は本音でもあった。


街外れの川で、俺は水に入った。


【スキル《遊泳》発動】


身体が軽くなる。

水が、邪魔にならない。


息が、いらない。


「……なるほど」


これはただ泳げるだけじゃない。


水中という環境そのものを、自分のフィールドに変えるスキルだ。


魚のように動き、流れを読み、危険を察知する。


「才能がない、か」


水面を見上げながら、俺は静かに呟いた。


「才能があるかどうかなんて、使い方次第だろ」


冷たい水の中で、俺は初めて確信していた。


この世界には、

俺にしか立てない場所がある。


 

 

ご拝読ありがとうございます。忌憚なきご意見をいただけると幸いです。

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