対峙
山の民は巨大な斧や動物の骨で作られた武器を持ち、一歩一歩近づいて来た。真っ直ぐに村に狙いを定めていた長は、セオドア達に眼を大きく開き、その瞳を回転させて睨みつける。
「村の者ではないな。即刻去れ。すれば見逃してやる。」
「待ってくれ。俺たちは、この争いを止めに来たんだ。君たちの言い分も分かるが、事件は互いの村で起こっているんだよ。物が無くなっているのは君たちだけじゃない!まだ犯人が村だと決めつけるのは早いじゃないか。」
長はセオドアの言葉に耳を貸さず、左手を軽く上にあげた。瞬きをした間に長の後ろで控えていた男によって、目の前に斧が振り下ろされている。剣でその刃を受け止め、押し返すが咄嗟の反応で衝撃を受け流しきれずに手が痺れた。追撃することも出来たが、目的は足止めと話し合いの場を設ける事であり、敵を殺すことではない。そう思って踏みとどまった。その様子を見たヨハンネスはすぐに抜けるようにしていたナイフをしまい、丸腰の状態で飄々と話し始めた。
「まぁ聞けって。村は村でお前らのことを犯人だと思ってる。で、お前らは村を犯人だと思ってる。山賊とか言われて気が立ってるんだろうけどよぉ……、いや分かるぜ?なんでお前らにそんなこと言われなくちゃいけないんだよって感じだよな。でもそれで手出したらそれこそあいつらの言う通りじゃねぇか。」
「そこまで言うからには当てがあるのか?」
「あ~……、あったら良かったんだけどな。」
長はその言葉を聞いて再び左手を上に振り上げた。今度は雄叫びを上げながら山の民が一斉に襲い掛かってくる。その勢いに動物たちもついに山の民に襲い掛かって行った。ヨハンネスは山の民の刃の間をひらりと避けながらその武器を落とさせ、すぐに取り戻せぬように遠くへ蹴り上げる。へレーナは傷付いた動物たちを癒しつつ、大地を隆起させて壁を作って彼らを護った。しかし数多くの動物達を癒した彼女の魔力はすぐに尽きてしまい、その場に膝を着いた。もともと魔法を多くは使えないことが彼女の弱点だった。その隙を山の民に狙われ、刃が目の前を掠った。もはや戦えないと察した彼女はただ怯えるのではなく、その場から離れることを選択し、山の民のいない少し離れた木の下まで移動したいと願った。わずかに残った魔力でその願いは叶えられ、ヘレーナは戦線を離脱する。セオドアはヘレーナの異常に気が付いていたが、彼女が安全な場所へ移動したことを確認し、再び長の前へ立ちはだかった。
「攻撃を止めさせてくれ。こんなに無駄な争いはない。」
「それはお前たち部外者が決める事ではない。我らにとっては誇りが掛かっているのだ。」
長もまた、セオドアにその巨大な剣を振り下ろそうとした時、老人の力強い声がその戦場に響いた。その声に皆が攻撃を止め、戦場には静寂が訪れる。
「久しぶりに会ったな、山の長よ。」
「村の長、我々はこの戦いに決着をつけにきた。」
「分かっている。我々もその用意が出来ているぞ。さぁ、こちらは全員丸腰だ。対話をしようではないか。」
体格には明らかな差があるが、その迫力はどちらも引けを取らない。山の民の長もわずかに考えた後その言葉を了承し、長の二人は野に直接腰かけた。とりあえず村人が来るまで時間はもたせた上に、ヘレーナの魔法で少なくとも動物たちに怪我はない。セオドア達のこの瞬間の任務は完了だろう。また暴動が起きれば別だが、後のことは口をはさむべきではない。そう思い、セオドアはヨハンネスとヘレーナのもとへ向かい一歩下がった所から彼らの対談を見守った。