素直になれない二人
翌朝、レミールと共に山の民の様子を見に行くために早々と村を出ようとした。まだ村人たちはほとんど外に出てきていなかったが、村長が門の傍に立っている。
「山の民のもとへ行くのか?」
挨拶もせず、真っ直ぐそれだけを聞いてきた。
「そうです。」
レミールは目も合わせずにそう答えた。村長はレミールをジッと見つめている。その時間がずっと長く感じる程、その眼は鋭かった。何か言うべきか迷っていた所、村長は再び言葉紡いだ。
「昨日はすまなかったな。」
「今更謝罪の言葉なんていりませんよ!……、放っておいてください。」
レミールは顔を逸らしてもう話すことなどないと拒否した。
「行くなら止めぬが、夕方には帰って来なさい。」
そう言って村長は門から村の中央へ向かって歩き出した。レミールはすぐに前を向いて村を出て行く。村を出た後は山を登っていくように坂を上がっていく。セオドアは辺りを見渡しながらレミールに話した。
「村長はほんとに気にかけてくれているじゃないか。いいのか?あんな言い方して。」
「ちょっと……言い過ぎたと思ってます。でも、実際それだけで問題を解決しようとはしてくれません。もう慣れたんです。この村に生まれた時から迫害は受け続けていますから。だけど、少しでも認めてほしくて、この事件を解決したかったんです。皆さんを巻き込んでしまってすみません。」
レミールがそうしおらしくなっていると、ヨハンネスは思いきり彼の背を叩いた。
「シャキッとしろよ。俺達だって、お前がただ被害者面してるだけだったらこんな手出ししねぇんだから。」
レミールは悶絶していた。彼はヨハンネスに背中を叩かれた場所の一部が傷に当たり、その衝撃で傷が痛んでしまったらしい。
「ああああ、ごめん!!大丈夫か?」
ヨハンネスがすぐに彼を支えてやると、レミールは気にしないでくれと言ったが、ヘレーナの説教は免れなかった。
「馬鹿っ!!怪我全部治した訳じゃないんだよ!?誰でも彼でもお兄ちゃん達みたいに無駄に丈夫だと思わないでよね!?」
「ぼ、僕は大丈夫です……。本当に気にしないでください、魔法でもうほとんど治っていますし、ヘレーナさんの痛み止めが効いていますから。」
「馬鹿でごめんな。でも、ヨハンの言う通り、君が現状を変えたいって思って行動したから、俺達も手伝いたくなったんだよ。」
セオドアはレミールを励ますように言い、今度は優しくその背に触れた。レミールは少し嬉しそうに返答する。
「ありがとう。」
セオドアはその言葉に笑顔で応え、先に向かって歩いて行く。森の中は故郷の森と似ているようでやはり異なる空気が流れている。地面が湿って、歩く度足が重くなっていく。鳥の鳴き声や草木が揺れる音と共に木々を抜けていく風が心地よかった。少し進んだ所で、レミールは木々の間から見えるとても大きな木を指差して言った。
「あれが長老の樹です。あの樹に魔法を……。」
レミールはまた言いかけたところで話を止めてしまった。どうしたのか彼の顔を見ると、何かを見つけたようだった。するとレミールのもとへ一匹の黄色い小鳥が舞い降りる。レミールはその頭を優しく撫でながら小鳥に声を掛けた。
「フィル、どうした。」
レミールにフィルと呼ばれた小鳥は彼に何かを訴えるように鳴いている。その鳴き声を理解する事は出来ないが、レミールだけはその想いを受け取っていた。
「山の民が、村へ襲撃しようとしているみたいです……。それを伝えに来てくれた。」
「ならすぐに村に知らせないと!」
「でも村の人が、僕の言葉を信じてくれるとは思えません……。」
まだ、勇気の出ないレミールはこの状況でもまだ迷いを抱えているらしい。そんな姿にセオドアは一喝した。
「でもやるんだよ!ここで逃げたら一生後悔するぞ。なんだかんだここは大事なんだろ?俺達が山の民の足止めはしておくから、その間に行ってくれ。村長なら話くらい聞いてくれるはずだ!」
セオドアはそう言ってレミールを押し出した。彼は一瞬下を向いた後、セオドア達の背中を見てついに決心し、村へ向かって走り出した。セオドアの両隣にヨハンネスとヘレーナが並ぶ。その表情は誇らしげだった。
「さて、山の民ってどのくらい来るんだろうな。」
「大丈夫、時間稼ぎ位なら出来るさ。俺達も山の民みたいなもんだろ?まぁ、襲うのは手が早いって思うけど。それ位向こうも後がなかったんだろうさ。」
「ちゃんと、分かり合えるように出来る限りのことをしよう。私も、魔法で戦うから。」
ヨハンネスは勿論のこと、ヘレーナの魔法も心強い。いつ訪れるのか分からない戦いの時に備えて、緊張した空気が漂っているといつの間にかセオドア達を囲うように、動物達が現れ始めた。野良の鹿や猪、熊まで現れ、足元を見ると小さなウサギや蛇、空には鳥たちが集結している。彼らは怯える事もなく、セオドアと共に前を見据えている。
「レミールが呼んだのかな。」
「あいつ愛されてるな、動物に。」
動物達と共に、山の民たちの訪れに備えていると、やがて地面を踏みしめる音が聞こえてきた。ついに来たかとセオドアは背中に背負った銀の剣を引き抜き、襲撃に備えた。ヨハンネスも腰に隠したナイフをいつでも抜けるようにしている。動物たちもまた、唸りを上げて威嚇し始めた。山の民の姿が見えると、殺気立った彼らの先頭に長と思わしき大男が大地を揺らしながら歩いて来る。