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ノアの旅  作者: 衣吹
【声を聴かせて】
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隠した魔法

 宿屋に入り、その主人に話をすると既に村長からお代は貰っていると言われ、部屋に案内された。言われた部屋の一つに入り、ヨハンネスは青年をベッドに横たわらせる。部屋は質素だが、立派な暖炉とその前にソファが置かれており、簡単な作業が出来そうなテーブルもあった。ヨハンネスは少し悲しそうに彼を見つめている。その様子と、先ほどの状況を鑑みてセオドアはヘレーナに頼んだ。


「ヘレーナ、薬使ってやってくれないか。魔法は、控えた方が良いと思う。」


「分かった。」


 ヘレーナは魔法を使わず薬屋に習った治療法で彼を診た。鎖骨が折れていたらしく、複雑な気持ちがヘレーナを締め付ける。ヘレーナの治癒魔法は、彼女が元に戻れと思うことが出来ればすぐに直すことが出来るものだった。過去にセオドアやヨハンネスが骨を折って帰って来ることなど日常茶飯事であり、何度も治してきた。しかし魔法に敏感になっているこの村で、これだけの怪我が一晩で治ってしまえば、明らかに魔法の力だと分かってしまう。その結果また魔術師だからと謂れのない罪を着せられるのは御免だとセオドアも判断したため薬での治療を頼んだのであった。ヘレーナ自身も初めて自分以外の魔術師と出会った。それにも関わらず、目の前で差別を受けているその姿には悲しみを隠せない。魔術師としての才能を持って生まれる人間はあまりに数少なかった。女神からの贈り物とも言われるこの力が人間に忌み嫌われることになるとは、女神も悲しんでいるだろう。


「店閉まる前に卸してくる。飯は頼んだ。」


 ヨハンネスはそう言って部屋を出て行った。まだその暗い感情は収まっていないらしい。セオドアは治療をヘレーナに任せ、夕食作りに取り掛かった。青年の目が覚めた時のことも考えて食べやすい物にしようと思い、野菜を中心に使ったスープを作ることにした。部屋に備え付けられた暖炉の炎に鍋を掛けた。その横のテーブルで、ヨハンネスが自分たちの分として置いて行った少しの肉を小さく切って先に炒めていく。少し火が通ったところで他の野菜を入れて炒め、治療を終えたヘレーナにも手伝ってもらうことにした。ヘレーナに鍋を見てもらっているうちに麦を用意し、野菜に火が通ったら、水と塩、麦を入れて煮込んでいく。麦が柔らかくなるまで煮込めば完成だ。軽く味見をした後、ヘレーナにも食べてもらい味を調えた。


「いいじゃん!これなら食べやすそう!」


「それなら良かった。」


 ヘレーナの入れたお茶を飲みながらヨハンネスの帰宅を待っていると青年の身体がピクリと動いた。へレーナはすぐにカップを置き、彼に駆け寄って声を掛ける。何度目かの呼びかけに青年は答え、目を覚ました。


「……あれ、あなた達は……。」


 起き上がると傷が痛んだのか呻き声が漏れた。ヘレーナは無理をするなと言い、彼の背中を支えてゆっくりと身体を起こす。


「私達、旅をしていてこの村に立ち寄ったの。私はヘレーナ・ヴァリ。彼はセオドア。もう一人私の兄がいるんだけど、今は拗ねてどっか行っちゃった。」


 ヘレーナは彼に傷の具合の事を話し、準備しておいた痛み止めの薬を渡した。


「これ痛み止め。普通の薬だから安心して。」


「すみません、ご迷惑をお掛けしたみたいで……。ありがとうございます。僕はレミールと言います。でも僕に関わらない方が良いですよ。聞いているかもしれませんが、僕は……。」


 彼は言いかけた所で驚いたようにヘレーナをまじまじと見ていた。


「驚いた?私もあなたと同じ魔術師なの。私も初めて自分以外の魔術師に会ったからびっくりしてる。もしあなたが良ければ。骨折だけでも魔法で治させてもらえないかな。」


「魔法で怪我が治せるんですか!?」


 レミールは驚きながらも、その提案を受け入れた。内傷は治してもその姿を見た村人からは魔法で治したかどうかなど分からない。ヘレーナは彼の胸に手を当て、骨を正しい場所へ戻す。痛みが引いたのか彼の表情も和らいだ。丁度治療を終えた時、ヨハンネスが帰宅した。


「あれ、起きたのか。そりゃ良かった。お前ら飯食ったか?これ店のおばちゃんから貰った。後で食おうぜ。」


 ヨハンネスはだいぶ落ち着くことが出来たらしい。手には金貨の入った巾着とお菓子の甘い香りのする小包が握られている。


「まだ食べてないよ。すぐ用意するから。レミールも食べられそうだったら食べてよ。変な物入れたりしてないからさ。」


【体にも心にも優しい暖かディナー】

~野菜たっぷりスープ~

セオドア特性なんでも突っ込む温かスープ。麦も入っていて栄養抜群、しかも食べやすい。

~バリニッツァ~

素材屋で貰った花の形をした柔らかいクッキー。中にあんずのジャムが入っている。


 レミールは木製のスプーンでスープを少しかき混ぜ、ゆっくりと口へ運んだ。先程の暴行で口の中も切れ、スープの塩気が沁みたが優しい味で温まった。


「美味しいです。ありがとう……。」


 セオドアは彼を心配しつつ、その言葉に微笑んだ。自身もそのスープに手を付けて、皆静かに食事を取った。その静寂に終止符を打つのは、さっさと食べ終わったヨハンネスだった。


「それで、なんであんな事になってたんだ?」


 レミールは手を止め、少し考えてから口を開いた。


「僕が……、村の作物を山賊に横流ししていると、誰かが言ったんです。実際、村の倉庫から作物が無くなる事件が発生しています。その調査の為に、倉庫に近づいたのが間違いでした。僕じゃないと否定しても、魔術師の言葉は信用できない、その結果が先程の……。」


 レミールは詳しく事件について話してくれた。

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