村での騒動
また三人で歩みを始め、東へと進んで行く。つくづく太陽と反対に進むため、ありがたいことに西日に視界を邪魔される事無く進むことが出来た。
「なぁいつになったら着くんだ?」
「文句言わないの。」
「あれじゃないか?ほら、煙が立ってるし。」
やっと見つけた目当ての村まではあと少しだった。日も沈みかけ、これで金も稼げる上に屋根のある部屋の柔らかいベッドで寝られると思うと三人の足取りも軽くなった気がする。ついに村の門をくぐり、疲れを感じながらもさっさとやるべきことをなそうとした時、村の奥で怒声が聞こえた。その声に驚いて騒ぎの方を見ると広場に人だかりが出来ている。
「なんか大変そう、行ってみよう。」
セオドアは荷物を投げ捨ててその広場に向かった。何が起こっているのかは分からない。ただ、セオドアには先程の声の中に、微かに苦し気な声があったことを聞き逃さなかった。ヘレーナとヨハンネスは顔を見合わせ、すぐにセオドアの後を追っていく。
「ちょっと失礼……」
人込みをかき分けていくと、その中心には見るからにひ弱そうな若い青年が屈強な男に馬乗りで暴力を受けていた。既に意識はなく、抵抗したような跡もない。
「何してんだよ!!」
セオドアはその屈強な男を引きはがし、立ちはだかった。その時ヨハンネスとヘレーナも到着し、すぐに状況を理解してくれた。ヘレーナは意識を失っている青年に治癒の魔法を掛けようとしたが、ヨハンネスは咄嗟に首を横に振り彼女のその行動を止めた。
「誰だよあんたら。邪魔すんじゃねぇよ!!」
「ただの旅人だ。なんでこんなことしてるんだよ!」
「関係ねぇだろ、そいつは魔術師だ。引っ込んでろ!!」
ヨハンネスはその言葉に反応し、立ち上がった。普段から悪い目つきが更に悪くなっている。
「魔術師だからなんだよ。それだけの理由でここまでやる必要あんのかよ。」
明らかに彼は怒りを露わにしていた。魔術師はその希少性や未知の力であり、差別の対象であることは、全員が知っていることだった。だからと言って、全ての人々が差別するわけではない。そう信じていたが、考えが甘かったのは世界を知らない自分達だった。それでも、彼らはこの現実を認めるわけにはいかなかった。
「魔術師なら、やり返すことだって出来たはずだろ。あんたなんか華弁一枚も残らねぇよ!」
「なぁ、何があったんだよ。」
その屈強そうな男は舌打ちをし、それ以上何も言わずに背を向けて立ち去った。それが合図かのように野次馬たちも皆散り散りに去っていく。誰もいなくなったところで、改めて青年に声を掛けるがやはり返事はない。
「とりあえず、このままには出来ない。どこか……」
セオドアがどこか場所を探そうとすると、一人の老人がやってきた。倒れた青年に少し目を向けた後、セオドアに声を掛けた。
「旅の者よ、宿を用意しておいた。ごゆるりと、旅の疲れを癒されよ。……、レミールをありがとう。」
老人はそう言ってすぐに去ってしまった。宿屋はどこだよと言いたかったが、それを言う前にもういなくなっている。レミールとはこの青年のことだろうか。辺りを見回した所、それらしき場所を見つけた。セオドアが青年を運ぼうとすると、それより先にヨハンネスが彼を担ぎ上げていた。
「俺がやるよ。お前は話つけてきてくれ。」
「……頼んだ。」
セオドアは彼の不器用な優しさを尊重した。いつもぶっきらぼうでいい加減な兄だが、彼には彼なりの信念がある。セオドアも、ヘレーナもまたそれを分かっていた。