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イチイの木
森の小道を歩いていたとき、彼はもう、下半身を狼に喰われていました。
獣もせっかくの獲物を華にはさすまいと、命から遠い肉から食らいます
もはや逃げることも、抵抗する力も無かったようです
私が彼を見つけた時には既に手遅れでした
すぐに獣を追い払い、慰めにはなりませんがせめて隣で遺される言葉を聞きました
彼の話すことは、どれも優しさに満ちていたのです
でもそれは、過去の悪行の裏返しなのだとも
きっと、沢山のことを考えていたのでしょう
とても穏やかな最期で、気がついた時にふと横を見ると、イチイの木がありました




