食料と命を賭けて
エルダーナは既に遠くになり、今日は途中あった酒場で聞いた村を目指すことにした。
「そろそろ、金も稼がないとな。村に着いたら色々使うこともあるだろ。」
セオドアはそう言って財布を確認した。ここまでの旅路で、彼らが故郷で貯めてきたお小遣いはほとんど使い果たしている。狩猟民族の彼らは、まじめに働けば旅の中でも獣を狩ってその肉や毛皮を売ることですぐに稼ぐことが出来たはずだった。今まで怠惰に旅をしてきたツケが回ってきただけである。
「適当に獣捕まえるか、まあ他に稼ぎ方知らないけど。」
「そうだな。多分それが手っ取り早いし、俺たちは向いてる。」
二人は元来それが本職であり、獣を捌くことなど目を閉じながらでもできる程得意だった。
「じゃあ私は薬草でも集めてくるね。あと前ヴィスマンさんに教わったハーブティーも簡単だったから作ってみようかな。」
確かにヘレーナの作る薬はよく効く。彼女の薬なら、それも旅の資金になるだろう。それに故郷にいた頃は、村から町の玄関口にあった薬屋によくその薬や村のものを売りに行っていた。そこで世話になっていた薬屋の店主であるヴィスマンは、狩猟民族である彼らにも沢山の事を教えてくれた。彼女はそこで実験も繰り返し、その効果の為に二人がどれだけおかしなものを飲まされてきたかは不明量である。そのおかげで、彼女は魔法での治療も魔法を使わない治療も可能な医者になることが出来たのだった。
この場所から見える一等大きな木を待ち合わせにし、セオドアとヨハンネスは山道を外れて深い森に入り、獣狩りへ向かう。彼らの鼻は鋭く、すぐに獣を発見できた。その黒い巨体から熊であると判断し、ヨハンネスは木に登って高所から弓を引いた。セオドアは熊の正面から近づき囮となった。熊が不敵に笑ったセオドアに気が付き今夜の夕飯だとその鋭い爪を揮った瞬間、ヨハンネスが右目に矢を命中させる。暴れる熊の爪をかいくぐり、セオドアはその心臓を銀の剣で一突きした。繊細な意匠が施された剣に血が滴ってくる。熊から剣を引き抜くと鮮血が溢れ、大きな音を立てて熊は地面に沈んだ。その様子を見てヨハンネスはセオドアの頭上から降りてくる。
「なんだか久しぶりな感じがするな。……熊は毛皮、肉も取れるし、一旦このまま帰るか。熊一頭分売れば結構な値段になるぜ。」
「そうだな。……思ったより汚れたし、どこかで洗わないとな。」
「ははっ。セオのそれ、ヘレーナにまた嫌な顔されるぜ。」
ヨハンネスは熊の血が飛び散ったセオドアを見て笑っていた。至近距離で受けたにしては少ない方だ。ヨハンネスはとにかく身も性格も基本的に軽い。その身軽で素早い特性を活かし高所から遠隔の敵を狙ったり、ナイフでの至近距離の攻撃をしたり幅広い武器を使えた。だがヨハンネスは身軽な分、力がない。セオドアがその分を補いそれぞれの特技を合わせて狩りをしてきた。これまでも、これからもそれは変わらない。