帆船探検
アルコールのおかげか深い眠りにつくことができた。朝焼けと共に、酒場の前の巨大な船のもとへ行く。そこにはアレグリアとその仲間が既に集まっていた。
「さぁ、出発だ!」
彼女の掛け声で船員たちは船に乗り込み、船出の準備を始めている。アレグリアに先に乗れと促され、港から乱雑に掛けられた搭乗橋に足をかける。木の板が軋む音を立てながらセオドア達は船に乗り込んだ。船上では男たちが忙しなく動き回っている。少し高い場所から見るルカコスの街と海はまた違う一面を見せた。
「ブリッジの方においで。」
アレグリアにそう言われ、彼女について行く。船員たちはアレグリアが乗船した事を確認するとすぐに帆を開いて船を港から出し、海へと進めていく。ブリッジは甲板から少し高台にあり、階段を上がった。そこには既に船員の男が船輪を操作している。その男はアレグリアに一度視線を流し、すぐに前を向き直した。
「風はどうだい、ニコ。」
「聞かなくても分かるでしょう。お嬢は地図を。」
「ほんっと、つれない男だねぇ。」
そう言いつつもアレグリアはブリッジを降り、その下にある船長室へと入って行った。適当な返事だなと感じたが、両者の間では日常らしい。ニコと呼ばれた男は船輪から手を放さず、前を見たままセオドア達に尋ねた。
「お前たちがお嬢のお眼鏡に適った旅人ね。船を降りるなら今だぞ、これからお前らが相手にするのはバケモンだからな。俺は死んだって行きたくねぇ。」
「そんなことだろうとは思ってたよ。でもあの人も強いんだろう?なんでわざわざ外部の人間を乗せたんだ?」
「死んだら忘れる丁度いい戦力、それだけさ。あの人は強い、だけど一人だけ強くてもだめなんだよ。お前らにとって船を出してもらえるのはうまい話なんだろうが、それはお嬢にとっても同じさ。でも安心しろよ、お嬢は絶対に約束は違わねぇ。」
その言葉にはなぜか信頼感があった。そうこうしているうちにアレグリアは海図を持って戻ってきた。聞きなれない単語でニコとアレグリアはやりとりを進め、いつの間にか船の進路も確定したようだ。
「じゃあ、操縦は任せたよ。」
「お任せを。」
「あんた達も、この船のルールは私に従うこと、それだけさ。到着までは二日といったところだろう。この風にのれれば早く着く。それまでは自由にしていていい。だけど、私の許可なく船長室には入るんじゃないよ。」
アレグリアはそう言うと、再びニコと進路について話し始めた。自由にしていていいのなら、セオドアとヨハンネスは船の中を探検したくて仕方がない。船内を一通り見て周ることにした。今回ばかりはヘレーナも乗り気だ。
船内の第二甲板に降りてみると食糧庫や船員たちの部屋があった。小さな窓の傍に大砲も並べられており、すぐに戦闘が出来るような準備がされていた。部屋そのものは生活感があり、あまりきれいにはされていないようだが、やる気のなさそうな船員が何人か清掃をしている。余所者が自分たちの船に乗ろうものなら、疎まれるものかと思っていたが、それほど邪険にはされていないようだ。ヨハンネスはヘレーナが男たちに絡まれることを懸念していたが、まじまじと見てくる男はいるものの、声まで掛けてくることはなかった。きっと船長のアレグリアから船員たちには御達しがあったのだろう。さらに下の甲板もあったが、そこはどうやら人質や敵を捕らえておく牢獄があるだけで見るものは何もないとだらだらと清掃を続ける船員に言われた。
甲板に戻ると、船の運航が安定し、船員たちも先ほどよりも落ち着いた様子だった。海風を感じながら船の縁から体を乗り出すと、もうかなり小さくなったルカコスの島々が見える。船の上では特にできる事もなく、ただ風を浴びていた。
「暇そうだね。」
指示を終えたアレグリアが甲板に降りてきていた。
「することがないからな。」
「なら私と一戦やってみるか?」
「本気か?」
アレグリアは腰の細い剣に手をかけている。太陽の光に反射してその剣は怪しく光った。
「嘘は言わないよ。私も、たまには命の取り合いがしたいのさ。」
「お嬢。」
ニコもブリッジから降りて、彼女の様子を見に来ていた。それ以上は何も言わず、ただ目線でアレグリアを牽制しようとしている。だが、彼女も自分の興味に正直なタイプらしい。
「どうする?やってみる?」
そこまで言われて引くには引けなかった。ヨハンネスもやってやれと表情で煽ってくる。
「手加減なしだからな。」
アレグリアは口許だけ笑って見せた。こちらの様子をずっと伺っていた船員たちはすぐに甲板を空け、セオドアとアレグリアが戦える舞台を用意してくれた。彼らは勝手に賭けを始め、ヨハンネスもそれに乗っかってている。
「全く、この後アレと戦う気あるんだか……。」
ニコはあきれた様子でため息をつき、アレグリアの様子を見守った。




